18 E級昇格試験
試験日当日。俺とナナミは町最大の施設であるアリーナへと向かう。場内の受付に案内され、俺たちは控室へ案内された。遠くから会場のギャラリーの声が聞こえる。このギルド内ランクマッチの興行収益は、ギルドの重要な収入源となっている。E級昇格試験は本来ならばそれほど人が集まるイベントではないが、ギルドが新人『勇者』の昇格試験という名目で宣伝したため、勇者の戦いを見ようと非常に多くの人数が集まったのだ。
「さあっ本日は会場にお越しくださり誠にありがとうございます!本日は2人の若者がE級昇格に名乗りをあげました!この2人は同じパーティでありなんと!ギルド登録からわずか2つの依頼で昇格試験の権利を手に入れました!果たして、その実力は如何ほどのものなのか!まず一人目は・・・ナナミです!どうぞ!」
「「「ワァァァァアァァアァアァ!!!!」」」
アナウンサーが会場を煽る。会場スタッフがナナミの入場を促す。
「ふふふっお先に。わたしは前座みたいね」
「ナナミの実力を見たら前座なんていえなくなるさ」
「ええ。すぐに帰ってくるわ」
そういって軽やかに会場内に入っていく。今のナナミならまず心配ないだろう。俺は自分の出番を待つ。数分もたたず、会場の方から歓声が聞こえた。どうやらもう終わったようだ。
「な、何ということだ―――‼まさに瞬殺‼これは既にF級の実力をはるかに超えているぞー!冒険者ナナミ、見事な氷魔法を見せてくれました!昇格試験の結果は後ほどお知らせいたします!これはひょっとしてD級への飛び級もあるかー!?」
アナウンサーの声が聞こえる。やはり圧勝だったようだ。今のナナミは俺も勝てるかどうかわからない。もはやE級冒険者では相手にならないだろう。ナナミの相手である年配の男が少し気の毒だった。
「さあ!いよいよ次の試合です!先日行われた成人の儀式。そこで彼はなんと『勇者』に覚醒しました!説明不要!私たちにどんな勇者の戦い方を見せてくれるのか!?さあ、入場してもらいましょう!・・・トキワです!どうぞ!」
「「「「ワアアアアアアアァァァァアアアアアア!!!!!!」」」」
先ほどよりも大きな歓声が聞こえた。受付が俺を会場内へと案内する。俺が入場門から現れると、会場の歓声がひときわ大きくなった。皆が『勇者』に注目する。うう、こんなに大勢の前に出るのは慣れていないから非常に帰りたい。帰ってお風呂に入りたい。
アナウンサーが、俺の挑戦を受けてくれた、若い男ヨンシーの口上を述べ、ヨンシーも入場してきた。闘技場はアリーナ全体であり、(もちろん観客席を除く)4人の試験官がばらばらに配置されている。俺はアリーナの中央でヨンシーと握手した。
「まさか君が勇者とはね。ははは、お手柔らかに頼むよ」
ヨンシーは爽やかに俺に言った。拒否はできないとはいえ快く俺の挑戦を引き受けてくれた彼に対して手加減するのは失礼だと思う。俺も彼に答えた。
「今日はランクマッチを受けてくださりありがとうございます。胸をお借りするつもりで全力で挑ませていただきます。」
「ははっ、そうか。こちらこそよろしくな。」
そういって彼と俺はそれぞれ離れ、戦闘の構えをとった。ヨンシーは俺のより少し大きめのロングソードを中段で構えている。見たところ戦士のようだ。俺もロングソードを構えながら、いつでもモンスタークリエイトを使えるように準備する。
「では・・・試合開始!」
アナウンサーが開始の号令を発した瞬間、ヨンシーは俺に猛烈なダッシュを仕掛けた。突撃剣術と呼ばれる剣術で突撃から始まる無数の型で相手を倒すこの世界でオーソドックスな剣術の一つである。俺は辛うじて最初のダッシュを弾き、次々と繰り出される斬撃にロングソードを合わせる。一合剣を合わせただけで相手が手ごわいことが分かる。おそらくE級でも上位の強さを持つであろうヨンシーの連続攻撃を一旦大きく後退することで回避する。意外にも、勇者を後退させたヨンシーに会場が大いに沸く。しかしヨンシーは一切の油断を見せず、先ほどの爽やかな雰囲気から一転した鋭い目をしたまま再び突撃してきた。それを読んでいた俺は呪文を唱える。
『我が内に眠る力よ大地を氷で覆い尽くせ!氷ノ大地!』
俺を中心として氷が地面を凍らせていく。こうなると、猛烈なダッシュによる突撃剣術の威力は半減する。
「くっ!」
やむなくヨンシーはスピードを落とす。その隙に俺はあのスキルを使う。
『モンスタークリエイト』!!
俺の周囲に次々とモンスターが出現する。全力で戦うと決めた以上、俺は限界までモンスターを創り出すことにする。黒スライム40匹、黒ゴブリン20匹、黒オーク10匹がヨンシーの前に現れた。ヨンシーの命を奪わないように気を付けてモンスターを向かわせる。ヨンシーは善戦し黒ゴブリン3匹を葬ったが、黒スライムと黒オークにはなすすべがなく最後には自ら降参した。
「いやー、まいったよ!俺もE級の中ではそこそこやるもんだと思ってたけど、足場凍らされたらお手上げだよ。ははは、まさか突撃剣術の弱点をつけるF級がいるとはな。これだから魔法を使える職業は苦手なんだよな。今後はその対策を練らないと」
「いえ、ヨンシーさんの突撃剣術、とても強かったです。今日は手合わせしてくださりありがとうございました」
「ああ。また鍛錬を重ねてE級に挑戦するよ。」
F級に降格で悔しいはずなのに、どこまでも爽やかな人だ。こうして、俺たちのE級昇格試験は終わった。あとは試験結果を待つのみである。




