17 集団戦闘(一人と70匹)
『進化よ』!
ナナミが叫ぶ。――――『進化』。それは能力値の大幅な向上を指す言葉である。膨大な研鑽の末にたどり着く、自らの限界値の突破である。たゆまぬ研鑽や才能を持つ者にのみ許されたこの『進化』は以前の対象者とは別次元の高みに上らせる。
ナナミの体が薄く輝いたかと思うと、ナナミからのプレッシャーが跳ね上がった。
「す、凄いわ。もうパパよりずっと強くなった気がする。C級・・・?いやB級まで行くかしら。今ならトキワののスライムが何体来ても負ける気がしないわ!」
そう言うナナミの頬は生気と自信に溢れ紅潮し、容易にその言葉が真実であることを伺わせる。『進化』とはこれほど格段に人を成長させるものなのか。確かに今のナナミは俺よりも強くなったかもしれない。
「でも、俺だって負けてないよ!すぐに追いついてみせるから!」
「わたしだって負けないわよ。このまま世界一の大魔法使いになってやるんだから!」
と言った。そのあとも少し鍛錬した後、今日はここまでにしよう。と俺たちは町へ帰った。
――――
次の日、俺はナナミと一緒に森林を散策した。俺一人でも大丈夫なのだが、ナナミは俺に付き合ってくれた。今日は俺自身の能力を強化するために来た。目的は2つある。1つ目は『モンスタークリエイト』の習熟度を上げることにより、創り出せるモンスターの数を増やすこと。2つ目はより強いモンスターを倒して、生み出せるモンスターを増やすことである。
まずは『モンスタークリエイト』で黒スライムを20匹、黒ゴブリン40匹、黒ホーンラビット10匹という部隊を創る。もうこれだけで俺は結構疲れたが、まだいくらか戦闘する余力は残っている。こいつらと共にモンスター狩りを行う。
まずは索敵だ。黒ホーンラビットを偵察に向かわせ、周囲を探らせる。程なくして黒ホーンラビットがオークの群れを見つけた。遠くから群れを除くと12匹のオークが森の中に流れている川辺で体を洗っているのが見えた。ブヒィブヒィといいながら体や顔を川で突っ込んでいる。12匹のオークは少数の低級パーティの場合まず勝てる相手ではない。しかし、俺の今の戦力ならば勝てると判断する。
前列に黒スライム、次列に黒ゴブリン、後列に俺とナナミ、それと数匹の黒ゴブリンを付ける。黒ホーンラビットは攪乱と、角でオークの足にダメージを与えることで、オークの逃走を防ぐ役割を与える。前列と次列の黒スライムと黒ゴブリンがオークに襲い掛かり、俺は細かい指揮をしながら魔法で援護するという作戦だ。ナナミは後ろで見ていてもらい、もし危なくなったら魔法で手助けしてもらう。
先に黒ホーンラビットを配置させた後、黒ゴブリンと黒スライムに合図を出し、俺たちはオークの群れに襲い掛かる。オークたちはすぐに俺たちに気がつき、戦闘の構えをとる。オークたちは体長2マートル(約2m)ほどで石斧を持った鬼のような醜悪な顔をしたモンスターで、知能はそこそこ高い。
オークたちのリーダーとみられるとりわけ大きな体躯のオークと11匹の部下らしいオークの群れは統率の取れた動きで俺のモンスターに襲い掛かる。しかし黒スライムは体を弾ませてコアにダメージを与えさせず、盾役として十分な働きを見せてくれる。そこへ黒ゴブリンたちが一斉にオークの体へととびかかる。オーク一匹につき3~4匹で体にまとわりつき、小さなナイフや牙でオークたちの体力を削る。そこへ黒スライムが頭突きでオークを吹き飛ばす。吹き飛ばされたオークにまた黒ゴブリンたちが飛びかかり、滅多打ちにしていく。
このまま全て倒せると思ったが、オークリーダーは飛びかかる黒ゴブリンをひっつかみ、腕や頭を引きちぎり一匹の黒スライムのコアを破壊した。しかし形勢はオークに圧倒的に不利であることは明確だった。オークリーダーはそれを悟り仲間に撤退の合図を出そうとした。しかし俺はそれを見逃さず呪文を唱える。
『我が内に眠る力よ雷となりて我の矛となれ・・・雷撃』!
途端に雷の槍がオークリーダーを貫く。絶命とまではいかなかったが、雷槍により内臓をひどく傷つけられたオークリーダーの動きは明らかに鈍くなり、そこへ黒ゴブリンたちが一斉に飛びかかった。しばらく抵抗していたがほどなくしてオークリーダーの動きは止まった。
戦闘終了後、俺は自分の力を試してみると、やはり黒オークを生み出すことができるようになっていた。ただ、やはりスライムやゴブリンより格上のモンスターであるから体への負担も大きい。おそらく30匹ほどが今生み出せる限界だと思う。とはいえ戦力の幅がより広がったのは大きいと思う。これで二人ともE級の昇格試験には万全の状態になったといえるだろう。既にE級の実力ではないという確信を二人とも持っていた。明後日が楽しみである。




