14 ゴブリンたちと果物収穫
薄ぼんやりとした寝起きの顔に水を掛けて、俺はギルド「剣と杖のロンド」に向かった。中に入ると大広間にナナミが待っていた。何だか今日はいつもより嬉しそうな様子だった。
「おはよう。ごめん、待たせちゃったかな」
声をかけると、ナナミは俺をみて顔を少し赤くしながら言った。
「おはよう。ううん、全然待ってないわ。わたしもさっき来たところよ」
俺とナナミは掲示板の依頼を見た。ギルドに来る依頼には2種類ある。1つ目は報酬固定型の依頼であり、成果によらず報酬が一定である依頼である。2つ目は報酬変動型の依頼だ。こちらは先日俺たちが受けたホーンラビット狩りの依頼のように、実際に得られた成果によって報酬が変化する。俺とナナミは相談して、後者の依頼を受けることにする。パーティで仕事する場合、報酬変動型の依頼の方が実入りが大きくなりやすいためである。
「あっこれなんていいんじゃない?」
ナナミは一枚の依頼書を指さす。
『果物収穫』
等級:F
依頼内容:果物収穫
場所:キリ町周辺レレ地区ララ番地
期限:依頼書張り出しから3日以内
報酬:果物10個につき銅貨1枚
備考:我々の果実園は広さ6平方ギロマートル(約6平方キロメートル)。できるだけ早く収穫したいので、なるべくパーティが望ましい。複数のパーティの依頼受付可能。
なるほど、俺のスキルを使えば一気に頭数が増やせるから報酬も期待できそうだ。何といってもゴブリンなら70匹は生み出せるからな。さすがに70人以上のパーティなんて世界広しといえども存在しないだろう。もはや立派なギルドの規模だ。
「うん。なかなかよさそうな依頼だ。じゃあさっそく行ってみるか」
―――
というわけで、俺たちは果実園へ到着した。6平方ギロマートルなので、かなり大きいとは想像していたが、これは想像以上だった。中で10人くらいの男たちが収穫作業に入っているのが見える。
「すみません。俺たち依頼を受けて来たのですが」
収穫作業をしている男の一人に話しかける。その男は筋肉の盛り上がり方がなんとなくゴーホさんを想起させた。きっとこの人も格闘士なのだろうと思った。
「ああ、助かる。じゃあさっそく頼めるか」
こちらがたった二人なので、ちょっと落胆した様子で男は話す。まあ、少ない人数でそれほど役には立たないが、いないよりはいいか。といった感じだ。
「分かりました。その前に一つ、ちょっとよろしいですか」
と、俺の能力について簡単に男に話した。男は今度は怪訝な顔になった。
「・・・というわけで、これから大量のゴブリンを投入しますが、どうか驚かないように他の人達にも伝えていただけますか」
「あ、ああかまわないぜ」
男は信じられないといった風に他の男たちに俺たちのことを話しに行った。俺はすぐにゴブリンの量産に取り掛かる。
「『モンスタークリエイト』!」
総勢81匹の黒ゴブリンが果実園に現れる。どうやらまたモンスターを生み出せる数のキャパシティが上がったようだ。俺自身は限界まで黒ゴブリンを生み出したのでかなり疲労困憊だったが、戦闘するわけではないので何とかなるだろう。黒ゴブリンたちが俺の命令を受け、果樹園を走っていった。
「うああぁ!ゴブリンだ!」
遠くで悲鳴が上がる。・・・どうやらまだ話が伝わってなかった作業員がいたようだ。
結局黒ゴブリンたちのおかげで1日も経たず採集は終わってしまった。身体能力が向上しているせいか、黒ゴブリンたちの働きは目覚ましかった。ゴブリンはもともと知恵の回る頭の良いモンスターであるためか、すぐに作業を覚えてしまい、人間の倍以上の作業効率で採集していた。始めのうちは戦々恐々としていた男たちも、その働きぶりに大喜びだった。
ほんとに反則よねえ、とナナミは苦笑いしていた。
――――
ホーンラビットの時よりさらに重くなった財布を持って俺たちは帰路についた。帰りに俺のおごりで美味いと評判の高級料理屋でワインと上級肉を食べた。ナナミは遠慮したが、俺が構わないというと、料理を美味しそうに食べていた。この顔が見みれただけで奢った甲斐があるというものだ。あれ、これはいわゆるデートというやつなのでは。
「ナナミはどうして冒険者になったんだ?その魔法の才能ならもっと楽に稼ぐ道はいくらでもあったんじゃないか?」
俺はずっと気になっていたことを尋ねた。ナナミはちょっと照れた様子で語った。
「そうね。確かに私もこの町に来る前はそう思っていたわ。でも、スライムに襲われてトキワに助けてもらったとき、トキワのことが本当に格好良く見えたの。それでわたしも他人を助けられるだけの力を持った冒険者になろうと決めたわ。だから、トキワにパーティに誘ってもらえてすごく嬉しかったの」
「なんだか照れるな、じゃあ期待を裏切らないようにがんばるよ」
夜も更ける前に明日もギルドで待ち合わせの約束をしてそれぞれの家に帰った。