いつかきっと
雪が舞い散る 静かな夜に
雪と共に天使も一緒に舞い降りた。
「猫でも居るの?」
窓の外を見る桃子30歳
「えっ…」
桃子が 外に出ると そこには 籠に入ってる赤ちゃんが居た。
桃子は それ を抱き上げ家に入る。
それを見届ける人影
「誰なんだろう?こんな可哀想な事を…」
籠の中を探すが何も入って居なかった…
「オギャ〜!オギャ〜!」
「はい はい どおしたのかなぁ?」
「ママ オシッコ」
「はい はい」
雪 3歳
桃子 33歳
あの雪が舞い降りていた夜から 桃子は雪を引き取り育てていたのだ。
雪が舞い降りていた時に空から降って来たから
雪
しかし
本来は犯罪なのだ…
いくら 拾ったとはいっても 犬 猫の それとは違う。
雪 は この世に 生存していない事になるのだ。
役所に出世届けを出して初めて 国民の許可が出る。
桃子は 雪を産んだわけではない。
それを 役所に出すわけにもいかない。
本来 桃子が取る行動は 警察に届け 雪は施設に入るのが正式な手順なのだ。
それを桃子もわかっていたが 出来なかったのだ…
あの寒空の下に 目一杯の力を振り絞り泣く 雪 を見たら その 決断が出来なかった…
「ママ お腹すいた」
「今 ご飯の用意するからね」
「は〜〜い」
雪 は素直に育っていった。
桃子にとって 一番の心配は 病気
出世届けを出していない 雪 には保険がない…
とりあえず 今まで 大した病気にもかかる事がなく 雪
は育って来たが…
[電撃結婚!女優 窪園 舞]
「へぇ〜〜!私と同い年だったんだ〜!」
窪園 舞
2年前から売れ出し 今ではハリウッド女優にまで登りつめた売れっ子女優。
「雪 散歩行くよ」
「は〜い」
桃子は 雪 が舞い降りてからは 思うように仕事が出来なかったが 雪を邪魔とは思わなかった。
むしろ 雪の為 そう思い 懸命に育てていたのだ。
「雪 ごめんね 今日も卵焼きで…」
「ううん 雪 卵焼きだ〜い好き!」
雪もまた 母親 である桃子の苦労を知り思いやりのある子供に育っていた。
今日は 雪 が桃子のところへ舞い降りて4度目の その日。
「雪 ご飯ですよ〜!」
「は〜い!…わぁ〜!すご〜い!」
「今日は 雪 の誕生日だから ママ 奮発したんだぞ〜!」
「ママありがとう!」
桃子は 今この時 が幸せならそれで良かった。
「ママ お〜〜いし〜!」
「いっぱい食べなね」
「ママは食べないの?」
「ママはもうお腹いっぱい 雪 が食べなさい」
「は〜い」
玄関のドアを叩く音に
「こんばんは」と言う声
桃子が出ると
「えっ!窪園 舞…さん?」
そこに立っていたのは 大きなつばのハットを被り サングラスはしているが
私は 女優よ! と果てしないオーラをまとった 女性
「あの子を引き取りに来ました」
その 女優 は唐突にそう言った。
「あの子とは?」
「その子です」
桃子の後ろから 顔を出す 雪
「ママ さっきの人 誰?」
「雲の上の人」
「…?」
桃子にしてみれば 雲の上の人だった…
「急にそんな事言われても何が何だか…」
「その子は 私が4年前 ここに 置いて行ったんです」
「置いて行った?」
「あの頃の私は まだ無名で 這い上がってやろと必死になっていました。 そんな時に行きずりの恋に落ちてしまい その子を授かった…でも…這い上がるのには…あの頃の私では その子を育てて行けるほどの力なんかなかった。」
「それで…」
「だから あの時 母親として最低の決断をしてしまった…今は こうして世間に名を知られ 充分暮らしていけるようになり 今度結婚する事になりその子を引き取りに来たしだいです。相手の方にも それ は伝えてあります」
桃子は 震えが止まらない…
(この 窪園 舞が 雪 の本当の母親?)
「ママ この人 だ〜れ?」
「お嬢ちゃん お名前は?」
「雪!」
「雪ちゃんか!」
「私はね…」
「帰って下さい!」
桃子が 舞の話を遮った
「急にこんな話をされても信じられないでしょ
今日は一旦帰ります。一週間後にまた来ますんで その時に返事を聞かせてください」
桃子は迷った。
(あの人が 雪 の本当の母親…自分の為に 雪 を捨て 今 成功者として 雪 を迎えに来た。雪 はあの人のところへ行ったら幸せになるの?こんな貧乏なところにいるより あの人のところへ行けば 雪 は幸せになるの?)
あの女優が迎えに来る と宣言した前日
「雪 大丈夫!…スゴイ熱 雪 今 お医者さんに行くからね…」
「ママ…苦しいよ…」
「突発性の風邪ですね しばらくすれば熱もひくでしょう」
「ありがとうございました…あのぉ〜今日 慌てて来たもんで 保険証忘れて来たんですけど…」
「大丈夫ですよ とりあえず明日また来てください その時 今回お支払い頂いた差し引き額をお返ししますから」
「ありがとうございます」
桃子は嘘をついた。
雪 の保険証などないのだ。
(この子は これからどんな病気にかかるかわからない…その時 取り返しのつかない事になったら…)
「雪 今日から雪はこの人と一緒に暮らすんだよ」
「ママは?」
「ママはね ちょっとお仕事で 遠いとこに行くの」
「雪 も行く!」
「ダ〜メ…雪 はママが帰ってくるまでこの人とお留守番しててね…お利口さんにしてるんだよ」
「…は〜い……」
「それでは よろしくお願いします」
「これ少しですが 今までこの子がお世話になった…」
「やめてください!子供の前で!私は 雪 をそんな事を思って育てたわけじゃありません!」
「そうですか」
「さぁ 雪ちゃん行きましょう」
高級外車の後部座席に座る 雪
「ママ 待ってる!ママがお仕事終わって 雪 を迎えに来るの待ってるから…だから…お仕事早く終わらせて 雪 を迎えに来てね」
「うん…ママ早くお仕事終わらせて迎えに行くからね」
「舞さん 雪は昨日から熱を出してるんです 雪の事…よろしくお願いします…」
桃子は 深く頭を下げた…
「わかりました。出してちょうだい」
走り出す車
雪 がリアウィンドウから小さな手を泣きながら振っていた。
桃子は それに応えるように大きく体全体で…泣きながら手を振る…
「ゆ〜き〜〜!」
「さぁ 雪ちゃん 今日から ここ が雪ちゃんのお家ですよ〜」
さすがは 成り上がった女優
かなりデカイ屋敷に出迎えのお手伝いさん
「ここが 雪ちゃんのお部屋よ」
桃子と暮らした 部屋を全て合わせたよりも大きな部屋
「貴女 雪 は風邪をひいているの!側から離れないで面倒を見るように!」
「はい!」
「雪様 お食事です」
「雪…卵焼きが食べたい…」
「メニューが決まってますんで…」
「あれ?雪の服は?」
「あれ なら奥様から言われて処分させていただきました」
「えぇ!…あの服は 雪の誕生日に ママが買ってくれた服なのに…」
「雪様はこれから こちらで用意した 服 を身に付けていただきますから」
雪は 日に日に 誰とも話さなくなっていた。
「雪様 またこんなに残して…私が 奥様に叱られます」
「……」
「雪ちゃん 今度ママとどっか遊びに行こうか」
「ママは仕事…」
「雪ちゃんのママは 私なの…」
「違う!雪 のママは今仕事で遠くに行ってるの!」
「雪ちゃん この服なんかどうかなぁ?」
「……」
「ふぅ…すいませ〜ん これとこれと…後これもください」
「ママ!ママ〜!」
雪 が外を眺めていると 向かいの歩道に桃子の姿が…
「ママ〜!」
店から外に飛び出し 叫ぶ 雪
桃子は 雪 の声に気づいた…が 足取りを緩めない
「ママ!雪 だよ!ママ仕事終わったの?ママどうして迎えに来てくれないの?ママ〜!」
「雪ちゃん 帰りますよ」
「ママが…ママが…」
「ママならここに…」
「違う!雪 のママは…」
「ママ〜!」
雪 が桃子に向かって走り出す…
一瞬の出来事だった…
「AB型RH−…」
限りなく輸血量が少ない血液型
「先生 私 それです!」
桃子が言う。
雪 の声に気づきながらも 雪 の将来を考え桃子は立ち去ろうとした時…
鈍い音で振り返ると…
「よし!すぐにオペの用意を」
「雪 ごめんね…」
「ママ 泣かないで…」
雪 は桃子のおかげで一命を取り留めた。
「ママ あの人は?」
「舞さん?舞さんは…大事なお仕事があって…」
「誰か!救急車を!早く!」
叫んだのは 桃子だった。
舞は 近寄ることもしなかった…
桃子は すぐに何故だかわかった。
舞は 雪 を世間に公表していない
それ が公になったら…
でも それが親としての決断なのか?
救急車が到着し 雪 が乗せられる。
桃子は 舞に近づき
「母親 として ついていかないんですか?」
周りを気にし 静かに言った。
「お願い出来るかしら…私 これから撮影が…」
桃子は 舞の頬を張り 救急車に乗り込む。
「ママ…ママ お仕事終わったの?」
「ん〜…」
その時 病室のドアが開いた。
「雪ちゃん ママはお仕事終わったみたいだよ だからもう おばちゃんと暮らす事はないの 今日からママと一緒に幸せに暮らしてね」
「舞さん…」
「ちょっといいかしら?」
舞と桃子が 病室の外に出る。
「桃子さん 私には 親 の資格がないのに気づきました…勝手な事を言ってるのはわかってます…あの時 私は自分の事しか考えなかった 今回も…これで 母親ですなんて胸ははれない…身勝手ついでに 雪 を…」
舞は 泣いていた…
「あの子は 私を一度も母親とは認めなかった…ずっと 貴女を 母親 だと…」
「いいんですか?」
「いや…貴女が良ければ…」
「舞さん 私は子供を産んだ事がないからわからないけど…多分…産む事よりも その後 育てる…ただ育てるのではなく 時には叱り 褒め 一緒に悲しみ 一緒に笑う それが出来るかどうかじゃないかと…その覚悟が必要なんじゃないかと…偉そうにすいません」
「そうかもしれないわね」
「ママ〜!」
「行ってあげてください…」
桃子は軽く会釈をし 病室に入った。
「ママ もうどこにも行かない?」
「行かないよ ずっと 雪 と一緒だから」
「よかった!」
数日後
[電撃引退 窪園 舞]
(これが 舞さんの覚悟か…)
子を産み 自らの手で その命を絶つ者達が増えて来た昨今…
この世に生を受けて来る者は 何かしらの使命を受けて来る事を忘れないで欲しい…




