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死の魔女  作者: 布都 真人
プロローグ
3/3

二度目の悲劇

確かにドーラルの瞳は茶色い。

お爺さんには言われるまで、私は気づくことがなかった。

心底、他人に興味のない、最低な人だ。


東洋から来た人の瞳は茶色い。

私のような青色ではない。

そんなことにも、私は気付けぬのだ。


ドーラルが他者を嫌っていたのは、特有の茶色い瞳が珍しいと知っていたからなのかな。



「ご馳走様、お爺さん」

私は言いながら、食べ終えたお皿を重ね始める。

「お味はどうだったかな……」

「ああ、とても、とても。美味しかったよ」

「誰かにご飯をご馳走様するなんて久しいものじゃ」

「ねえ、エドガーも感想言いなさいよ」

「そうですね。悔しいことながら、とても美味しかったです」

「そうか、そうか。それなら良かった」

私はベットに寝かされている赤髪の少女を見やる。寝息はとても静かだ。朝の波のように、荒立てることなく、穏やかである。

「目覚めないわね」私が言うとエドガーも心配そうに言う。

「ああ、目覚めない。足と腕に巻かれた包帯が少し痛々しいな」

お爺さん言う。

「まあ、傷だらけの足を誰かに見せるかよりはこっちの方が楽だろう」

「確かに、言われてみたらそれもそうね」


赤髪の少女が目を覚ましたのは、お昼ご飯を食べた5時間後であった。時刻が5時を回っている。日が沈むのも早くなり、空の一部は既に紺碧色になっている。私たち、三人は何故か会話の馬が合い、団欒している。

赤髪の少女が目覚めたのに、最初に気づいたのは私であった。

少女は突然、苦しそうにしかめっ面になり、汗をかいていた。私は少女が不安となり、顔を近づけていた。

きっと悪夢を見ているのだ。それも恐ろしい夢を。

少女は夢の中で悪魔にでも殺されたかのように目を、ゆっくり覚ました。すると、起きた瞬間に見慣れない私の顔があったからか、声に出して驚く。

「わあ!」

その声に私も驚かされ、尻餅ついてしまう。赤髪の少女は此処が何処だか確認するために、四方八方きょろきょろ確認する。私は少女の名を聞いた。

「ねえ、貴方はどこから来たの……」

赤髪の少女は天然なのか、首をかしげ、人差し指を自分に向け、私のこと…… と聞いてくる。私は頷くだけにする。

「私の名前、ドゥル ペルソナ ルゥヅゥルム ララバイ。ここはどこ……」

「ここは、とある村で。貴方は木々の奥から突然現れ、倒れちゃったの。覚えてない……」

ペルソナは何も思い出せないようで、首を左右に振るしかなかった。

「じゃあ、貴方は家族といるの……」

ペルソナはこの問いに突然、涙を流した。一滴、一滴、小さく、ペルソナの頬を流れる。ペルソナは必死に声を出して答えようとするが、鼻声になっていた。

「いない。もう、どこにも」

私は察することができた。ペルソナの反応が三年前の私に似ているからだ。私は何も言えなかった。

だからペルソナの背中を優しき摩る。今は泣いていいんだよ、と。

ペルソナが泣き止むまで少々時間がかかった。泣き止んでもしゃっくりが止まらない。

私は硝子のコップに注がれた水を飲ませる。なんとも言えないしんみりした空気に包まれる。

ペルソナはやっと落ち着いたのか、自分がどの様な状況に置かれていることに気づく。

巻かれた包帯に、破けた服。特に破けた服に気づかなかったことが恥ずかしかったのか、気づいた瞬間、赤面し、シーツで体を隠す。

「大丈夫よ、ペルソナ」

私はリュックサックから、もしも服が汚れた時、着替えられる様に持って来ていた予備の紺色のワンピースを出す。

その紺色のワンピースをシーツで体を隠しているペルソナに渡す。

「ペルソナ、何処かで着替えてきたら……」

ペルソナは初対面で照れくさいのか、小さな声でありがとうと言って、物かげの見えないところに着替えに行った。


外は何故か騒がしい。決して人たちによる喧騒ではなかった。

風の音、だろうか。

不気味な、不意に背中を冷たい指でなぞられる様な、悍ましさである。

少なからず、私とエドガーは感じ取っていた。


物かげからペルソナが恥ずかしそうにこちらを見ている。

「出てきなよ」私は微笑みながら、手招きする。ペルソナはひょっこり出てくる。

感想を述べるのであれば、可愛いである。

幼さ残るペルソナに、私の大きな紺色のワンピースは裾が長い。裾は床に当たりかけている。私はペルソナにグッジョブマークを向ける。

「良いわね」私は微笑んだ。

ペルソナは私たちが囲む脚の低い机にちょこんと座る。お爺さんはペルソナに質問する。

「なあ、ペルソナだっけな。何処から来たんじゃい……」

「わ、わたし、その。信じ難いかもしれませんが、ある組織に狙わてるんです。その組織はRって名乗ってて、連れ去られてる途中の逃げ出してきて」

「R……」私はペルソナに問う。

「そう、Rです。その魔法ってヤツを使う組織で。ここから遥か西にある村に私は居たのですが、恥ずかしいことながら家族ごと捕まえられて、私だけはこうやって逃げられたのだけど父と母はまだ」


時間を重ねる毎に、外の喧騒の度合いは増していく。ついに不安になった私はペルソナの話の途中であるが、外に出た。西の空に夕日は沈んでいる。

そんなことよりも、私は目を疑う風景が見えた。

黒煙である。小山の奥に黒煙が昇っているのだ。小山の奥には、私が住まうフランの町がある。私は部屋の中でのんびりしている、エドガーについ叫び声に近い声を発してしまう。

「エドガー! 不味いわよ、フランの町に帰るわよ」

私の声がいつもと違うことにエドガーは現状がどうであるかを把握する。エドガーは直ぐにリュックサックを背負い、外に出た。エドガーは見える風景に唖然した。私とエドガーはお爺さんに、ありがとう、と言い、お礼に束ねた薬草を置いていく。私は幌馬車に乗り、エドガーはリュックサックを投げ置く。

エドガーが馬に跨がろうとした時、ペルソナが幌馬車に飛び乗った。

「どうしたのペルソナ……」

「きっと、向こう側の町が燃えているの。Rの仕業かもしれない。Rの仕業なら父と母がいるかもしれない。わがままだけど乗せて行ってもらっていいかしら……」

「ええ、大丈夫よ」私は言う。エドガーも反対ではないそうだ。余裕のない私たちは直ぐに馬車を出す。馬車を出す時、私とペルソナはお爺さんに手を振った。


フランの町に近づけば、近づく程、黒煙が濃く見える。黒煙の大きさからして、一件だけの家事という、小規模の炎上ではなく、街一つの大きな炎上であることが分かる。

小山を越え、フランの街の全貌が見え始める。空はすっかり暗くなっている。そのせいか、闇を照らす炎は悍ましい程明るく見える。尋常じゃなかった。フランの町から、車や馬車が我先と逃げ出している。

車と馬車はこちらへと迫り来る。まるで肉食動物に追われる草食動物のように。

エドガーは馬車を停める。私もペルソナも納得であった。何故か私の瞳からは涙が流れていた。濡れた瞳に映る町は、何処までも赤い。私たちは引き返す。フランの街は危険と察して。


引き返した最中、私は、もうフランの町には来れないのだ。と思ってしまい、切なくなってしまった。

また、夜の光の差し込まない、黒くなった木々の中を走る。今日は新月であった。木々を照らすものは無い。

ペルソナは言う。

「ねえ、これからどうするの……」

私とエドガーは答えることが出来なく、深い静寂に飲まれる。

車輪の回転音しか聞こえてこないんだ。

私は静寂の後、口を開く。

「きっと私たちに居場所は無い。だから、旅に出なければならない」

エドガーは私に発言に頷き、言う。

「僕らは、僕らは。王都を目指す」

王都、そこには喜びもある。だが悲しみの方が何倍もある。

何故、そんな王都に行かなければならないのか。理由は単純である。

王都ならば、難民になった私たちを保護してくれるからだ。

そして、王都には昔住んでいた家があるからだ。


魔女裁判の日、私たちは王都から逃げ出した。

フクロウのお面をかぶった使いに、命が狙われる可能性があったからだ。

でも三年の月日がたち、未だに魔法使いへの差別は残っているが、命までも狩られる処刑はきっとない。

でも、王都の家には母の死や、ドラールの死など、未だに言えない傷がある。


「ペルソナはどうするの……」

「私には泊まれるところも、なにもない。迷惑じゃなかったら、私も」

「迷惑じゃないわ、エドガーと二人きりなんてつまらないもの」

「メメント様、それは聞き捨てなりませんね」

私はエドガーの発言を無視して言う。

「ペルソナ、あなたの両親を探す、私たちは王都へ旅をする」

ペルソナは子供の無邪気な笑顔を見せる。

「ありがとう、」

ペルソナは感謝の言葉の後に、何かを言おうとしていたが、言葉を詰まらせている。

「どうしたの…… ペルソナ」

「なんて言えばいいか分からなくて」

私は謙虚なペルソナの発言に元気付けられる。

「なんでもいいわよ」

「メ、メメント様……」

「貴方まで様付けしなくていいのよ」


私たちの旅が始まった。

ペルソナとエドガーと私の旅。

深い悲しみのある王都、トゥーランを目指して。


背後にあるフランの町は、炎で赤い。

私はいつも奪われてばっかだ。


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