赤髪の少女
ドーラルは受け入の言葉を心底嫌った。
嫌い、嫌い、大っ嫌いと、ただをこねる子供のように。
なんせ、そこには貴方が居ないから。
いるのは知らない、知らない、誰かの顔。
そんな顔に興味がなかったらしい。
だから、友達のいない私を認めたのだろう。
私の言葉以外を持てない弱者を。
私が友達が少ない。今も昔も。
昔の理由はあまりにも単純であった。
私が人見知りであったからだ。誰かの取り巻きになることはあったが、取り巻き止まりの友達以下ばかりであった。そんな私の初めての友達で、最初に最後になるであろう親友が、ドーラルだったのだ。
「行きますよ、メメント様」
玄関で靴ベラを使いながら、靴を履こうとしているエドガーに言われる。エドガーがタキシードには似つかない大きなリュックを背負っている。私はいつも、何か持とうか。と言うのだがエドガーは、そんなことメメント様が許しても僕が許さないと、口うるさい頑固親父のように一点張りの断りをする。
「なんか、こう見ると相変わらずエドガーって背が高いのね」
「高い方ではありますね」
「今は190あったかしら……」
「ギリギリ超えてる辺りでしょう」
エドガーは靴を履き終えると、扉を開き外へ出る。よく晴れた日の朝は眩しい。外から入る光は、扉の縁を逆光で黒色に見せ、まるで芸術家が絵の具で描いた、光の情景のようである。
私は等身大のコート掛けから紺色のコートを取り、豪快に、孔雀が羽を広げたかのように着る。私は然程、背が高くない。亡き母の形見である紺色のコートは膝丈を超える。
靴箱から革靴を取り出し、足を入れると突っかかることなく、滑らかに履けた。
エドガーは扉に右肩を当て、外で待っていてくれた。
「ありがとうね」
私は外へ出ると、頭に角を隠す為にフードを被る。
「いえいえ、これしきのこと」
私たちは歩く。石造りの道沿いを。
石造りのフランの町は朝からとても陽気である。白い壁にオレンジ色の屋根、王都より建物はこじんまりしている印象はあるが、作りは何処か似ていて、王都と違い、建物が無駄に高くないため威圧的な印象も覚えられない。そんなフランの町が私は大好きだ。
時刻はまだ、10時である。それにも関わらず、休日であるからか、どこからか民族音楽に近い、パーカッションとウクレレの音がする。その音に合わせるかのように、エドガーの腰にかけた鉄の剣は、歩く度に鞘と、刃が当たり合う音がして、しゃかしゃかと音を鳴らす。エドガーと私は並走して歩く。やはり、エドガーの背は高い。私の背は一生届くことを知らないだろう。
私たちは近くにある馬小屋を目指していた。元貴族であった身分として、馬を飼っている。魔女裁判を向ける日までは貴族であった。王都に広い庭のある豪邸を持ち、大きな食卓には豪勢な夕飯までも出た。今はその面影を何処にも残してはいない。あるのは親友の死と母の死だけだ。
歩いて数分、小さな馬場が見える。小さな馬場ではあるが、フランの町ではこれが限界だ。草生い茂る馬場に、黒い愛馬が見える。その国馬はどの馬よりも速く、地を駆けている。
私たちが近寄ってくることに気づいたのか、駆け回っていた国馬は、ゆっくりとエドガーの背丈以上に高い木製の柵に近寄る。私は柵の隙間に手を伸ばし、鼻息荒い黒馬に触れる。
「おはよう、ベル」
黒馬の名前はベルと言う。私が12歳だった頃に引き取られた馬だ。人間の年齢にしてしまうと、エドガーとあまり変わりがない。
私はベルと戯れているとエドガーはベルと引き取りに行ってくれた。
エドガーがベルと連れてくる時、幌馬車を繋げてきた。二人しか乗らない馬車なのに幌馬車は無駄に大きい。
ベルは久しぶりに私たちと走れるのか、鼻息が荒く、興奮している。
エドガーは客車の誰も座ることのない椅子に大きなリュックサックを乗っける。私は客車に乗る。空から差し込む光は幌を、薄く塗ったバターのように、黄色く見せる。
エドガーは客間につけられた前板に座り、オレンジ色のベルの首元に繋がれた縄を掴み、一度鞭打つ。
ベルは走り出す。誰よりも、速く、速く。
走りながら見える情景は三年前とは変わっていた。魔法使いがいなくなった、というのも一つではあるのだが、それ以上に町の工業化が進んでいった。時々、空には飛行機が飛んだりする。小さくて、不恰好な鉄の飛行機ではあるのだが、産業の進化の象徴でもある。
私たちは馬車をこよなく利用するが、自動車だってある。地を駆ける鉄の塊。産業革命を起こしたのは先代国王であった。先代国王は魔法使いと先進技術の良いところを利用する社会を目指していた。先代国王は誰からも愛されており、トゥーランドット王国、随一の王様とも言えた。しかし、そんな国王は暗殺されてしまった。現代国王ポプキンス曰く、魔法使いの仕業であると。故に優秀であったドーラルは見せしめとして処刑された。私は元貴族であったために王都から逃亡することができた。召使いのエドガーに、乗り物の馬車、そして資金があった。魔女裁判が起きた3月10日、私たちは尻尾を巻いて、王都から逃げ出したのだ。きっと、私たちが逃げ出した後も、王都は魔法使いの処刑が続いていたはずだ。魔法使いの大半は平民であった。逃げ出す乗り物もなければ、資金もない。そう考えてしまうと私は、不幸中の幸いであった。
今は自動車程度ならば、頑張って貯金すれば平民にも手が届く品物となった。三年という月日は短いようで、環境が変わるだけならば十分すぎる時間であった。
フランの町にも自動車は走っている。そんなことよりも、民が恋い焦がれたのは汽車だった。
フランは王都から何千キロも南に離れた辺境の地であった。フランから王都へ行くには、唖然とするほどに時間が必要であり、生命線を繋ぐ食料を到達できる程のお金が必要であった。
当然の如く、フランの町にそんなお金を集められる職業はなく、王都の知るには、写真の情景を見るか、新聞を読み、想像するしか他はなかった。そんな現状、一年前にこんな町にも汽車が来たのだ。
白煙上げる鉄の龍、とよく言われたものだ。汽車のお陰で王都へ行くことが出来るようになったのだ。それでも安いとは言い難い、汽車の恩恵を受けたのは、やはり文明のレベルが上がったことだろうか。
トゥーランドット王国の文明の最先端は、やはり王都であるトゥーランであった。そのトゥーランから遥か南に位置するフランは、如何しても文明のレベルは低かった。なんせ、フランに高度な文明をもたらしてくれる者が、一握りのお金持ちでしかなかったからだ。
当然、右を知らない人は左を知らない。高度な文明を知らないフランの民は、トゥーランが如何であるかが知らなかったのだ。自動車の普及は、大なり小なり王都、トゥーランの物を持ち運んでくれた。それでも、民は自動車で王都へ向かおうとしなかった。当然である、道のりには危険なものに溢れており、第一にそんなお金がないのである。フランの民がトゥーランに行こうとしないのと同様に、トゥーランの民はフランに行こうとしない。そんな陸の孤島とも言えるフランに汽車は、曇り空の裂け目から、天使のかける梯子のように差し込む光のように、文明を大きく変えてくれた。
フランの汽車は路面電車である。
私たちは線路の近くを沿いながら走る。後ろから汽車の車輪を回す音ともに、汽笛の音が聞こえてくる。
馬車は汽車は並走していたが、だんだんと汽車に距離を離される。汽車の車窓から、子供が外の景色を覗いている。無邪気に私に手を振ってくる。なんと可愛いことか。そんな子供に手を振り返す。無邪気な子供をずっと見ていたいが、そういう訳にもいかず、汽車は過ぎ去っていった。あの子供は何処へ行くのだろうか。そんなことを考えていると、いつの間にか町は姿を変えていた。農作地帯に出ていたのだ。線路は途中で曲がり、高台に薄っすら見える。高台に見える線路は、森林の中へと入っていくが、私たちは低地の真っ直ぐの道をゆく。畑を見るとやはり、フランの町は田舎なんだと染み染み思う。
農作地帯の地面は石造りではなく、砂の道である。石造りの道は車輪が軽やかに跳ね、軽快な音を鳴らしていたが、砂の道になると、車輪の回転音しか聞こえない。
走れば、走るほど、景色は広がってゆく。白い壁に、オレンジの屋根は何処にも見えない。
目一杯の草原が広がっており、奥には小山が連なっている。
「エドガー、今日の目的ってなんだったかしら」
「とりあえず、山の向こう側だとよく取れる薬草と、獣の肉かな」
「なんか、懐かしいわね。この気持ち」
「いいえ、一週間前もこうしてやってきたものです」
「そうだったかしら、私ももうボケが始まったのかしら」
「それは早すぎですよ、メメント様」
馬車は砂の道を走り続け、緩やかな小山の傾斜に入る。周辺は木々に生い茂られている。木の葉の隙間に差し込む光は、地面の教会のステンドガラスのような模様を描くが、風吹けば模様は変わり、そこには生命の暖かさがある。五百メートル程の小山の山頂へ行くと、道は休むこと禁じるかのように下に変わる。
「しかし、もの好きよね。この道。山を迂回して作ればいいのに、わざわざこうやって」
「まあ、横幅のある山ですし、最短コースはこっちだったのでしょう」
「切り開いた者は偉大ね」
最短の道を約20分かけ小山を超える。超えた先には森しかなく、視界は悪い。
小枝に留まる小鳥が鳴く。田舎だから知れる風物詩ともいえよう。
エドガーは馬車をゆっくり停めさせる。停めるとエドガーは馬車から降りた。
「っさ、薬草でも探しましょう」
「薬草探すだけなら、わざわざここまで来なくともいいんじゃないの……」
「いえ、向こう側はフランにいる冒険者たちが狩り尽くしてしまうので、こちらまでくるのです」
エドガーはベルを、首に着けられた縄を引っ張り先導している。私も客車から降り、薬草を探し始める。
道の脇に沢山の草が生えており、どれが薬草か見分けがつかない。
「エドガー、薬草ってどれよ…… 草、草、草草草草で見分けがつかないわ」
「メメント様、草草言わないでください。薬草は草というよりも花で見分けるものです。白い花の草が薬草だと思ってください」
「そう、ありがとね」私は脇に生える草をまじまじと見つめる。すると、白い花を咲かす草が一本見える。その草に近寄り、右手で抜く。抜いた薬草を子供の無邪気のように、エドガーに見せる。
「ねえ、ねえ。これって薬草……」
「メメント様、流石です。それが薬草です」
エドガーの褒め方は時に胡散臭さを感じるが、素直に今日は受けとっておく。
その後も前進しながら薬草を毟っていった。全面森の変わらぬ風景、エドガーとの下らない話に花を咲かしていると、木々の奥から怪しげな物音が聞こえた。エドガーは腰に掛けらている、鞘入りの剣を握り、物音した木々に近づく。緊張した空気がこの場に満ちる。私は思わず、固唾を飲んだ。
しかし、結果というものはいつも、斜め上に行くものだ。この場の緊張の裏腹、木々の奥から出てきたのは、傷だらけの少女だった。私は思わず少女に近寄る。少女は意識が朦朧としていたのか、私の懐に入ると、言葉を発することなく足がふらつき、気絶してしまった。力の入っていない肉体は、少女の華奢の体でも、重く感じるものだ。
傷だらけの少女を私はお姫様抱っこする。エドガーは大きなリュックサックからタオルを取り出し、折りたたみ枕になる様な物を作る。私は幌馬車に少女を寝かす。幌馬車に寝かされた少女の顔を見る。赤髪に、整った顔、ここらでは見ることのない顔だ。
「ねえ、エドガー。こんな少女見たことある……」
「いえ、ありませんね。赤髪の少女。とても不吉な気がします」
私はリュックサックからここら周辺を描かれた規模の小さい地図を取り出す。地図で書かれている限り、周辺で一番大きな村はフランであった。しかし距離が離れすぎている。今、前進しているこの道の先に、とても小さな村がある。
「急ぐわよ、エドガー。この先に小さな村があるわ。そこの医者に少女を見せましょう」
私は幌馬車に乗り、少女の体調を確認しながら命じる。エドガーの行動は早い。前板にすぐさま座り、馬車を何時もより早く走らせる。この早さは、どこか懐かしい。三年前、王都から逃亡するとき、私たちが泣きながら走らせた時と同じ速さだ。風切る速度のこの馬車に当たる風は、私の髪を靡かせる。
砂の道に無数に落ちている石ころが、幌馬車を大きく揺らす。何時もなら、なんとも思わないが、今は傷だらけの少女がいるため、揺れるたびに不安になる。しばらく走っていると、小さく切り拓いた長閑すぎる、木造建築の村についた。杖をついたお爺さんは、血相変えて、少女を心配がっている私たちを見て、何事じゃ……と問いかけてくる。
「そこのおじいさん! ここに医者っているかしら……」
お爺さんは近寄ってくる。
「医者、医者ならばいるよ、偶然な。ワシがそうじゃ」
「ならばよかった、見てもらいたい人がいるんだ」
「そう焦りなさんな、ついて来い」
そう言うと、お爺さんはある一室に入っていった。私は赤髪の少女をお姫様抱っこし、幌馬車から飛び降り、案内された一室に入る。
部屋は電気が灯っておらず、薄暗い。お爺さんは白いシートのベットを指差し、寝かせろ、と言う。私は少女を丁寧に寝かせる。
「お友達か……」とお爺さんに問われると、扉の前に立っていたエドガーが答えた。
「いいえ、先ほど薬草取りをしている時に偶然、その少女を見つけたのだ」
「そうか、赤髪の人なんてそう見れる者じゃない」とお爺さんは少女の傷を見ながら言う。私は問う、
「赤髪の人って珍しいの……」
「ああ、とっても珍しい地の一族だ、歳を無駄に重ねた要らない知識がある老人の言うことだ」
「それで大丈夫なの……」
「ああ、疲れが溜まっているだけだ。ほれ見ろ、傷も腕と足だけの御影倒しに過ぎん、消毒して、おんぼろな服を綺麗な服してしまえば大丈夫だろう。そんなことより、この少女がどこの者かが、君たちには分かるか……」
「いいえ、分からないわ」
「厄介なことになった。こんな電気も通っていないおんぼろな、限界集落に人がきてみたと思ったら、やはりこんなことか」
私はお爺さんの発言に、目を細め、睨む。
「待て待て、お嬢さん。別に厄介払いをしたい訳じゃない。正直、少しだけ嬉しいのだ。こんな誰もこない限界集落に人も来て、久しぶりにこうやって、誰かのために何かができたのだから」
そう言うお爺さんの瞳は過去を見ているかのように切なかった。
「まあ、どうでもいいと思うが暇を持て余したわしの無駄話を聞いておくれ」お爺さんは言いながら、木製の箪笥から、茶色い瓶を取り出す。その中に入っているのは、薬草を煮込んで作った消毒液であった。
「昔は兵士として戦場へで向かされたものだ。今、こうやってこの傷ついた少女を助けてやれるのも、当時戦場で同志を治療するために学んだものなのだ。月日は立って、ワシは老ぼれ戦う力を失い、限界集落のこの村に住まい、こうやって誰かを救えるのだ」
「……そう。ありがとう、お爺さん」
「礼には及ばんよ、そうだ昼飯で食べておくかい、竜のお嬢ちゃん……」
私は赤面しながら竜の角を握り隠す。叔父さんは何故隠すのだ、と言う。
「ワシは満足じゃぞ、赤髪の少女も見れ、竜のお嬢ちゃんも見れて」叔父さんは私をまじまじと見つめて言う。
「ありゃ、これは立派なお嬢さんこと。大きな瞳に、整った鼻、ワシが五十年前だったら惚れていわい」
叔父さんは老眼なのか、だんだんと顔が近づいてくる。それを見ていたエドガーは私と叔父さんの顔の間に手を入れる。
「お爺さん、可愛い可愛いメメント様にそれ以上近づかないでください」
「エドガー、過保護すぎよ」
「いいえ! メメント様が優しすぎるだけです」
「まあまあ」とお爺さんは元凶であるに関わらず、仲介に入る。
「もう」と私は一笑する。
私たちは赤髪の少女が目覚めるまで、お爺さんの家の居させてもらうことにした。お爺さんはどうしてもお昼ご飯を食べさせたいのか、断っても勧められ、私たちはついに折れ、食べさせてもらうこととなった。
お爺さんはフライパン片手にキッチンを歩く。
「お爺さん、私の角を見て何か思わないの……」
「なにをだい…… 可愛いお嬢さんってことかい……」
「違う、ほら亜人は少数だから。差別の対象じゃない……」
「今はな。昔はそうじゃなかった。今の王は何を考えているか分からんよ。先代がもたらしたのは幸福、現代がもたらしたのは破壊、ってことなのかのお。今のままじゃ、当然のようにレジスタンスが起きる。今、起きていないだけで、時間の問題じゃ」
お爺さんはガス栓を捻る。私は驚かされた、お爺さんは私たちの目を気にすることなく、炎の魔法を使い、火をつけたのだ。
「お爺さん、魔法使いなの……」
「ああ、驚いたかい。都会っ子は見ることもなくなった産物だしなあ」
「違う、そうじゃない。私も実は魔法使いなの……」
「お嬢ちゃんがかい…… たまげたなあ。今の時代この王国に魔法使いがいるなんて、見せてもらえんかね……」
私はこくりと一度頷くが、エドガーが止める。
「メメント様、魔法を他者の前で使うのは危険です。魔法使いは賞金首として高値で売れる」
お爺さんは深いため息をつく。
「エドガーだっけのお。もう、こんなおんぼろの体じゃ。お金があっても使い道は暖炉のまきか、明かりを灯す懐中電灯以外にないよ。あるのは知的探究心だけじゃ」
私はお爺さんの発言が面白かったのか、くすくす笑う。
私は立ち上がり、裾を払う。そして手のひらを天井へと向ける。手のひらには光の球ができている。お爺さんは興味深そうに見ている。
「それ以外にできぬのかい……」
「出来ますが、久しいもので」
私は手のひらの光の球を小鳥の形へと変形させ、鷹使いのように飛ばす。光を放つ小鳥は部屋を飛び回る。
「すごいのお。わしなんか火をつける程度の魔法しか使えぬのに、相当腕利きの者に指導されたようじゃのお…… わしなんか戦場で便利ながら一般教養の範囲で教わったものじゃ」
そう、とても腕利きの魔法使いに教えてもらった。ドーラルは才能の塊でもあった。
いつも、私の上をいく。死しても尚、私の上をいき続ける。考えていると、光の小鳥は私の右肩に留まる。
「しかし、見たことのない魔法じゃな、光魔法自体が珍しいというのに、こんな分家の魔法だなんて」
「魔法に分家なんてあるの……」
「そうじゃ、一般魔法という分類から枝分かれしとる。昔、魔法使いがいた時は基本、皆が一般魔法を使っておった。一般魔法は、簡単に言ってしまえば兵器的なんじゃ。火の玉を飛ばしたり、竜巻を作ったりと、その反面、火力が術者の魔力に大きく影響されてしまうのじゃ」
「そう、一般魔法かしら。少しだけ学んだわよ」
「そうか、しかしどの魔法使いから学んだのじゃ……」
私は一泊を置いて答える。
「ドーラル コーラル チィリスチィーチィア。私の親友よ」
「聞いたこともない一族じゃが、とてもいい魔法使いから学べたそうじゃな。他には無いのかい、使える魔法は……」
「褒められると気乗りしちゃうわね」
私はもう一度、手のひらの光の球を作る。その光の球を私は膨張させ、猫の形に変形させる。
光の猫は歩く始め、机の脚に頭を擦り付けている。
「ほう、猫か。しかし素晴らしい魔力の調整じゃな。チィリスチィーチィア家は素晴らしい魔法使いのようじゃ」
「何回、チィリスチィーチィアを褒めるのよ」
「しかし、何度見ても魔法というか、妖術に近いものを感じるの……」
「妖術…… 先から分家とか、妖術とか魔力とかよく分からない発言をするのね」
「お嬢ちゃん、そんな魔法を使いながら教えられなかったのかい……」
私はこくりと頷く。エドガーは私たちの魔法雑談に暇しているのか、壁に腰掛けたまま寝ている。
「そうじゃな説明しよう、
魔法とはそのままじゃ、火を飛ばしたり、風を飛ばしたり、氷を作ったり、
その魔法を使うためには、魔力が必要なんじゃ、
魔力は体内にある。その魔力には限界があるのじゃ。体にある魔力は人により違う。
その中でも、お嬢ちゃんのような竜亜人は人より魔力が高いのじゃ。
そして魔法の正式名は魔術、と言うのじゃ。
術にはその他、三つの術がある。妖術、幻術、呪術。
呪術はそのままじゃ、呪う術じゃ。別名、黒魔術だったりする。
幻術もそのままじゃ、幻を見せるものじゃ。
そして、妖術。妖術はそもそも東洋のある国が発祥なんじゃ。
前の戦争で一度だけ見たことがある。なんとも悍ましいものであったよ。
蛙や蛇、そして天狗が妖術者の周りにいるのじゃ。
そして、兵士を薙ぎ払う。地獄絵図であったよ。
そしてお嬢ちゃんの魔法は、どちからかというと妖術に近いのじゃ。
魔術には生き物を作るということはできぬのじゃ。
しかし妖術は違う、妖術は生き物を作っておるのじゃ。
その生き物の恩恵を受け戦っとるのじゃ。
お嬢ちゃんの魔法は、まるで命が灯っておった。生きておったのじゃ。
妖術に近い魔術など、初めて見るよ」
私は改めてドーラルが凄い魔法使いであったのだと思い知る。凄い魔法使いということは知っていた。しかし、お爺さんの話を聞く限り、私の想像をはるかに卓越した存在であったらしい。
「ありがとう。お爺さん」
お爺さんは優しそうに微笑む。
「おっと、話をしていたら昼飯作るの忘れていたよ。しばらく待っててはもらえんかね」
お爺さんは言う。私は楽しみにしてるわ、と微笑みながら答えた。