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第4章 -トーナメント・予選-

焔と燿子が霞迅工房から戻った翌日の月曜日、星宙魔導学園では年に一度のイベント、学生騎士ランキング戦トーナメントバトルの予選が開催される日だった。

『皆さんこんにちはーっ!今年もこの季節がやってきましたーっ!』

『ワーーーーーッ‼︎』

予選参加希望者が集まった第一競技場。ドーム内は見学の生徒で溢れかえっていた。

焔たち参加希望生徒は、控え室のモニターでそれを見ている。

『この学園の頂点に立つ騎士を決める学園トーナメントの予選会!実況は去年に引き続きこの私、放送部所属の魔法科2年2組、法蓮寺由花がお送りしまあーっす!』

『ワーーーーーッ‼︎』

『今日の予選会を経て、まず来週から約一ヶ月に渡って学年毎にトーナメントが行われます!そして、夏休みという修行期間を挟み、9月からは学年関係無しの全体トーナメントが開催されます!両トーナメントは、今日の予選を突破した者だけが参加資格を得られます!』

由花の解説と共に、スクリーンに簡単な解説図が映し出される。

『この実況には、日替わりで様々な先生が訪れて下さいます。今日はなんといきなりこの人!どうぞ!』

『んみんなあーっ!私どぅあーーーーっ!』

由花の隣に座る理事長の姿が映し出される。

特に歓声は上がらなかった。

『はい、というわけで学園理事長の不知火月華先生です!どうぞよろしくお願いします』

『うん、よろしく!』

『ついにこの日がやってきましたね!』

『いやーっ、私は毎年楽しみで仕方ないよ!』

『あの、先生。変な音が入るのでポップコーン食べながらやろうとするのやめて下さい…』


控え室の焔は『D』と書かれたゼッケンを身につけてベンチに座っている。

このあと行われる予選のブロック毎に控え室が分けられており、焔と同じDブロックにはミラやハークの姿はなかった。

「こんなにお祭騒ぎなのか」

「あぁ。トーナメント期間中は露店も出て、全試合が学園中のモニターに映し出される」

同じブロックになった京太郎に尋ねると、余興だと言わんばかりにつまらなさそうに話す。

「しかし、トーナメントは学年と学園に分けるくせに、予選は学年関係ないんだな」

「まあ、予選は直接戦うわけじゃねえしな」

「どんな形式なんだ?」

「このあと説明が入るだろ」

京太郎が顎でモニターを指すので、視線をモニターに戻す。


『理事長、予選前の現段階で今年の注目騎士はどなたでしょう⁉︎』

『ん〜、もちろん外せないのは生徒会長のエイゼルステイン君だね。無敗の女王を破る生徒は現れるのか!彼女をはじめ、生徒会は猛者揃いだ』

『ですね〜。エイゼルステイン会長は、先日ファンクラブを解散させたことで新聞部が号外を出したばかりです!』

『そのファンクラブと言えば、発端となった私の息子、縛羅を破った謎の2年生がすごかったね〜』

『はい、私も気になってます!私の集めた情報によると、その生徒は2年生のDブロックに名前が載っている鬼城焔君、だそうです』

『他にも2年生からは、去年一年生にしてトップ10に食い込んだ緋々神燿子君や、今年の一年生筆頭、蛇蕾(かがちらい)君は注目の騎士だね〜』

『今年も期待が高鳴ります!では先生、予選のルール説明を』

『よしきた!予選は毎度お馴染み『魔導人形・ベンケイを倒せ』だ‼︎』

理事長の声と共に、リングの床が開き、ドラム缶を繋ぎ合わせたようなデザインの魔導人形がせり上がってきた。

『このベンケイは、いわばパンチングマシンだ。均等に耐久力が設定されており、それを超える魔法で攻撃すると身体が崩れる仕組みになっている。ベンケイに一方的に魔法を食らわせ、崩すことができれば予選突破というわけさ!』

『この予選突破システム、導入から4年目ですが、毎年微妙に仕様が変わっております!理事長、今年も変更があるとか?』

『その通り!一昨年から導入されている『ブラックボックス』、中が見えなくなる特殊な障壁の中で一人一人予選を行うことで、予選の段階ではまだ魔法や魔装を知られる心配はない、というものだが、今年はそこに一手間加えてみた!』

モニターに映し出された映像には、ドーム内に等間隔に並んだベンケイの周りに障壁が張られており、障壁の中に入るとスモークがかかるように中が見えなくなる様子が映っていた。

『その一手間とは⁉︎』

『去年は制限時間の3分が経った時点で一斉にブラックボックスが解除されたが、今年は崩した時点で解除されることになる!』

『それはつまり、“誰が早かったか”というのが目に見えるようになるわけですね⁉︎』

『その通り!中での戦闘の様子はわからないが、早ければ早いほど実力の程が伺える!どうだ、期待が高まるだろう!』

『なるほど、面白いシステムです!』

会場からは『おお〜っ!』と声が上がる。

『では、ルールの説明が済んだところでスタンバイです!』

中央のリングが沈み、客席を除くドーム内が全てバトルフィールドになる。

そこへ入場口からベンケイがわらわらと登場し、十分なスペースをとって等間隔に並ぶと、まだ中が見える状態で障壁が展開された。

『今回のエントリー人数は2416人!果たしてこの中からトーナメントに進むのは何人か!A〜Hブロックまで、302人ずつで予選を行います!みなさん、準備はいいですかーっ⁉︎』

『ワーーーーーッ‼︎』

『それでは、まずAブロックの選手たちから、入場です!』

入場口からAのゼッケンを付けた生徒たちが入場してくる。

『おおーっと、早速現れたのは去年の1年生筆頭、緋々神燿子さんだーっ!』

燿子の姿がアップで映される。

他にも実況が目立つ生徒を紹介していく中、全ての生徒が位置に着いた。

『さあ、位置に着いたようです。ブラックボックス、お願いします!』

スモークがかかるように障壁が黒く染まり、中の生徒とベンケイが見えなくなる。

『では、予選Aグループ、バトルスタート‼︎』

由花がゴングを鳴らすと、モニターに180秒のタイマーが表示された。

『う〜ん、ドキドキするね〜』

『果たして一番最初にボックスが開くのはどの……おおっとお⁉︎早速障壁が解除されたボックスがーっ!』

それは、燿子のボックスだった。

魔装が光となって消えるところで、燿子は落ち着いた様子で刀を納刀する。

『タイムはなんと、驚異の9秒!去年より確実に実力を伸ばしているようです!』

そこからもまばらにボックスが解除され、あっという間に3分が経つ。

最後までベンケイを崩せなかった生徒たちは、皆一様に悔しそうな表情を浮かべている。

『いや〜っ、思った以上に面白いね、これ!』

『どのボックスが開くのか非常にワクワクします!それでは、次はBブロックの皆さん、入場をお願いします!』


「へえ〜。なるほどな」

「ボックスの解除のタイムは、それだけ実力を示すパラメーターになる。トーナメントの組み合わせもこれを元にするんだろうな」

「面白いやり方だ」

焔は楽しそうに唇を舐めた。

3分という時間はあっという間で、入退場とベンケイの再設定の時間は挟むが、すぐにDブロックの順番が回ってきた。

「さあ、やろうか」


『折り返しのDブロックにやって参りました。ここまでの最速タイムはエイゼルステイン生徒会長が出した0.84秒!本当に人間ですかね⁉︎』

『微妙に失礼だね…。エイゼルステイン君は流石だね。ベンケイを壊されるのは予想外だったけど、これは予選トップ通過は決まったかもしれないね』

『まだまだ後半にも注目の騎士は多いです!それでは、Dブロックスタンバイ完了したようです!バトルスタート‼︎』

ゴングが鳴った次の瞬間、ドームごと揺らすような衝撃が発生し、一つの障壁がひび割れて消滅する。

『〜〜〜〜っ⁉︎⁉︎』

中からは煙を上げ、原型を留めていないベンケイと、バチバチと電気を帯びる焔の姿があった。

『へ、え?』

周囲では、まだ解除されたボックスは存在しない。

『あ、あれは例の縛羅副会長を倒した2年生の鬼城君ですか…?タイムはえ〜と、れ、0.79秒⁉︎はあ⁉︎』

『こ、これは驚いた…。あぁ、またベンケイが…』

会場がざわざわと驚きに包まれる。

やがて3分が経ち約半数の生徒がクリアしたが、全員がモニターに映し出された焔のタイムにあんぐりと口を開けていた。




やがて8つのブロック全てが終わり、予選通過者が出揃った。

『騎士の皆さん、お疲れ様でした!トーナメント表の発表は今週の金曜日です!理事長、最後に一言!』

『予選突破の諸君、心からおめでとう!トーナメントでの健闘を期待するよ!残念ながら突破できなかった諸君、落ち込むことはない。君たちの若い可能性は無限大だ!これからの努力に期待している!今日はゆっくり休んでくれ!』

『ありがとうございます!今日の結果を元に、トーナメント表は今週の金曜日の発表となります!お楽しみに!実況は魔法科2年2組、法蓮寺由花でした!』

予選が終わり、控え室に集合した焔たちは、今日の結果を前にしていた。

「1秒切るってどういうことよ…」

「ぐ、本戦で巻き返してやる!」

「本当、化け物じみてるわね」

「俺のことはいいだろ。それより、俺はこっちにびっくりしたけどな。なぁ、伊織」

「あはは。ちょっと張り切っちゃった」


【予選通過上位者発表】

・Aブロック ー 緋々神燿子 (2年生) 9秒

・Bブロック ー 久遠院刀那 (3年生) 7秒

・Cブロック ー フェリシア・エイゼルステイン (3年生) 0.84秒

・Dブロック ー 鬼城焔 (2年生) 0.79秒 (暫定1位)

・Eブロック ー 蛇蕾 (1年生) 12秒

・Fブロック ー ボリス・セレズニョフ (3年生) 10秒

・Gブロック ー 久遠院刹那 (3年生) 8秒

・Hブロック ー 櫻伊織 (2年生) 6秒


「焔とフェリシア先輩に次いで3位。参加しないとか言ってたくせに、どういう風の吹き回しだ?」

「いや〜、やっぱり頑張ってみようかなって」

ちなみに、ミラはBブロック、ハークはEブロック、瑛里華はGブロックをそれぞれ突破している。

去年2位だった縛羅は焔に敗れてからスランプ気味のようで結果は芳しくなく、逆に密かに実戦経験を積む京太郎は、焔に次いで2位でDブロックを突破した。

グリード事件の後、伊織が度々思い詰めたような顔をしていることには皆気づいていたが、ここにきて強力なライバルとなることを見せつけられ、各々密かに覚悟を決めていた。

「まあ、この結果は各ブロックの1位通過者だけだし。2位3位とか学年別になることを考えると、そんなにアテにはならないだろ。予選ていうか、余興だな」

「確かに。焔みたいに速攻で決められる奴もいれば、刀那先輩みたいにチャージを必要とする人もいるからな」

そんな風に話していると、入り口の方が沸き立つ。

「やあ、ここにいたか諸君」

「お、フェリシア」

「フェリシア先輩!」

いつも通り刀那と刹那を連れたフェリシアがやってきた。

「見せつけてきたな、焔。もう吹っ切れたのか?」

「さて、どうかな」

「学園トーナメントが楽しみだ。全員と戦えると嬉しいのだが」

「うっひゃ〜、頑張らなきゃ」

「まずは学年別だね」

「どこもかしこも壁だらけ。腕が鳴るぜ!」

「ねえ、参考までに聞きたいんだけど、焔とフェリシア先輩はブラックボックスの中で魔装してた?」

「「してない」」

魔装なしであのタイム。

化け物どもめ、と全員頭を抱えた。

「なあ焔、当然学園トーナメントの方にも参加するだろ?」

「うん、まあここまで来たら…」

「では」

フェリシアは真正面から焔に向き合うと、声を張って宣言する。

「焔、私は学園トーナメントでお前を倒して頂点に立つ!」

突然の戦線布告に一同ポカンとし、

『ええええええ⁉︎』

一斉に驚きの声を上げた。

「ちょ、なんで⁉︎」

「鬼城君のこと好きじゃなかったんですか⁉︎」

「もちろん好きだ」

「じゃあなんで?」

「だからこそ、だよ」

残っていた生徒たちはわたわたと慌てており、京太郎は壁際でゲラゲラと笑っていた。

そんな周囲の様子には目もくれず、フェリシアは腕を組んで険しい顔を見せる。

「私は焔の隣に立つに相応しい女になると約束した。それには女としての魅力だけじゃなく、1人の人間としての強さがなくては相応しくない。私がいかに成長したか、焔に認めさせる絶好の機会だ」

「お、おお〜」

思わず感心して声が出る。

「できれば決勝で当たるのが理想的だが、トーナメント表がどうなるかはわからないしな。ぶつかればどこであろうと容赦しない」

「わかった。受けて立とう」

「焔!」

「舐めてかかって勝てる相手じゃない。俺も容赦はしない」

「望むところだ!」

2人で火花を飛ばすが、すぐにニッと笑う。

「な、なんて羨ましいカップル…」

「うわ、どうしても途中で阻止してやりてえ!」

「そうね。この2人に勝ってこそって感じがするわ」

「あ〜、僕ちょっと胃が痛い…」

それぞれの反応を示す中、2人の若い騎士は頂点を争う戦いを誓い合った。




ドームを後にし、フェリシアの誘いでお茶にしようという中、ミラはハーク、燿子、伊織、瑛里華の4人を集めてひそひそと声をかける。

「どうしたの、ミラ。4人を先に行かせて」

「ちょっと聞かれたくなかったの。ねえ、やっぱりみんなトーナメント戦、少し不安じゃない?」

「え、まあ、正直…」

ミラらしくない言葉に戸惑うが、ミラの表情は悪巧みを思いついたかのように笑っている。

「なんだ、また何か企んでるな?」

「うふ、そうよ。あのね…」

ミラからなされた提案に一同は眉をひそめた。

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