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第1章 -漢の決闘-

燿子の快気祝い中に生徒会副会長の1人、不知火縛羅から決闘を申し込まれた焔は、勢いに任せて承諾したことをやや後悔していた。

翌日、早速競技場の貸し出し許可を取り付けてきた縛羅は、放課後に決闘をセッティングした。

そして、現在控え室で入場待ちである。

「どうすっかなぁ」

「本当よ」

セコンドについてくれた刀那が溜め息混じりに言う。

「断ればいいのに。こんなくだらない決闘」

「男が決闘を申し込まれて引き下がるような真似ができるか」

「…馬鹿な生き物」

「まったく…」

刹那もセコンドについてくれているが、鉄板で焔が勝つと思っている彼女はただ姉についてきただけのようなものだ。

「おい、俺の水飲むなよ!それ試合中に渡してくれるやつだろ!」

「あら、そんなにちんたらやるつもりなの?」

ごきゅごきゅと水を飲む刹那は諦め、刀那に向き直る。

「そこが問題なんだよな」

焔はもともとトーナメント戦に参加するつもりはない。

注目されればそれだけ動きづらくなるからだ。

だが、思いがけず副会長と決闘など、どう転んでも注目が集まってしまう。

どんな勝ち方が一番いいだろうかと先ほどから頭を悩ませていた。

ちなみに負けるという選択肢は微塵もない。

「Fランクってだけで注目されるのに、それがAランクの生徒に勝つなんて…。あ、でも前も同じことしたんだっけ?」

「京太郎か。でも、あのときは向こうの能力で戦闘は外には見えてなかったからな」

「今回は観客も多いしね」

この決闘の話はあっという間に学園中に広がり、多くの生徒が観戦に来ている。

もちろん、フェリシアのファンばかりである。

「…しかも相手は学園2位」

「え?そうなのか?」

「そうよ。去年は私が3位で刹那が4位。2位は不知火君」

「お前たちより強いのか」

「む、それは心外だわ。まあ、相性はあんまりよくないけど…」

「はあ〜、益々面倒臭え」

「いっそボコボコにして、ここらでランクアップしちゃえば?」

「でもそうするとトーナメントがなぁ…」

トーナメントは自由参加ではあるが、Bランク以上の生徒はまず出場する。

これは風潮のようなものだが、実力があれば教師からも出場を勧められるし、Aランク認定はトーナメントの出場が条件になっている。

そこにきて学園2位を倒した実力者が出場しないなど、悪目立ちはむしろ加速するだろう。

しかし、出たら出たで一般公開されるトーナメント表にも名前が記載され、また注目を集めることになるのだ。

「…結局月華を倒すことには変わりないんだから、過程を気にしてても仕方ない」

刹那が核心を突くようなことを言う。

「まあ、それもそうか」

「そうよ。もうデートの件で一方的に焔を知ってる生徒は多いんだし、今更よ」

と、スピーカーからアナウンスが入る。

『間も無く模擬戦の開始時間になります。選手はリングへ入場して下さい』

「だって。行きましょう」

「おう」

焔はベンチを立ち、リングへと向かった。




会場は焔にとってスーパーアウェイな空間だった。

縛羅の後ろの客席にはサポーターがびっしりと詰めかけていたが、振り向くと焔側にはいつもの5人しかいなかった。

しかも、ファンクラブ会員の燿子は後ろめたいのか、ミラの背後に隠れている。

「あはは…」

向こうのサポーターからは罵声が飛び、リングの脇で椅子に座るフェリシアは頬杖をついて不機嫌そうだ。

「なんで私が…」

レフェリーに引っ張り出された悠は、茶番だとばかりに嫌そうだ。

リングまで辿り着くと、腕を組んで待ち構えていた縛羅が口を開いた。

リングの外には、生徒会の腕章を付けた生徒が縛羅のセコンドについている。

「逃げずにここまで来た度胸は褒めてやる!」

聞けば、縛羅はグリード事件のときも体を張って生徒たちを守っていたそうだ。

生徒会副会長としての威厳と実力は十分だ。

「昨日も言った通り、俺が勝ったら会長から手を引いてもらう!」

「はいはい。……俺が勝ったら?」

「ふん!そんなことはありえないが、確かになにも聞いていなかったな。何か望みはあるか?」

そんなものは何もなかった。

邪魔をするな、とでも言おうかと思っていると、フェリシアが口を開いた。

「それなら、私から要望がある」

「会長から!どうぞなんなりと」

途端に態度が変わるが、特に突っ込みはしない。

「焔が勝ったら、親衛隊及びファンクラブの解散を不知火の口から宣言しろ」

「な、そ、そんな!」

「当たり前だろう。そのくらいは当然だと思うが?」

「あぁ、じゃあそれで」

「く、わかった!その条件を呑もう!」

一瞬焦ったが、自分の勝ちを疑っていないようで、フェリシアの出した条件を受け入れた。

「俺は背後にいるみんなの想いを背負っているんだ!貴様など木っ端微塵にしてくれるわ!」

「改めてすごい応援だな。…あれ理事長か?」

「なに⁉︎」

よく見ると、最上段で横断幕を掲げて理事長の月華が息子を全力で応援していた。

「があ!あの父は本当に…!ええい、さっさと始めるぞ!」

羞恥に顔を真っ赤にした縛羅が矛先を焔に向ける。

「少し待て。焔」

フェリシアがリングの端へ焔を呼び寄せる。

(なんだ?)

(遠慮はいらん。瞬殺しろ)

(いや、でもちょっとは演出しないと注目されるし、トーナメントにも推薦されるだろ)

(構わん。やれ)

(俺が構うんだけど…)

(ここでハッキリさせておかないと、また別の誰かがお前に決闘を挑むぞ?)

(う、確かに…)

フェリシアには世界中に求婚者がいるのだ。

(じゃあ、ここで私のお願いを聞いて、トーナメントに出てくれるというならひとつご褒美をやろう)

(?)

フェリシアは身を乗り出し、焔の耳元で何事か囁く。

その身体を密着させる行為に縛羅及びサポーターの怒りは加速する。

だが、フェリシアの出した条件を聞いた焔は、思わずフェリシアに聞き返した。

「マジ?」

「マジだ。私に二言はない」

思わずニヤけた焔は、上機嫌で了承した。

「それならやろう。待たせたな、始めようじゃないか」

フェリシアは椅子に戻り、悠に合図を促す。

「やっとか。じゃあ始めるぞ」

悠が開戦のゴングを鳴らした。


「魔装‼︎」

ゴングと同時に縛羅は魔装を召喚する。

縛羅の周囲の地面が隆起し、迸る魔力が鎧を形作っていく。

『オオオオオ‼︎』

それは、鋼色の重装甲を持つ鎧で、もみあげのあたりから下向きに生える牙は、象を連想させる。


【魔装・ベヒモス】

超巨大陸上生物として聖書に伝わる怪獣・ベヒモス。

鈍重だが圧倒的な質量とパワーを誇り、あらゆる攻撃をものともしない。

武器を持たない代わりに腕が肥大化しており、大地属性の魔法と併せて攻防一体の戦法を得意とする。


『さあ、踏み潰してやる‼︎』

3m近いその巨大は、最早装着というより搭乗だ。

鎧の隙間から蒸気を噴き出し、焔に向かって歩みを進めようとする。

しかし、一歩踏み出すことは叶わなかった。

動き出すよりも早く焔が手を振り上げると、天井から雷が降り注ぐ。

自然の落雷のように一瞬のものではなく、まるで光の滝に打たれたかのような強大な電撃を喰らい、そのまま煙を上げて膝を突く。

『ぐおお…』

何が起こったかわからないというように、かろうじてダウンを耐えるベヒモスの巨体に向かって焔は地面を蹴った。

「終わりだ」

軽く飛び上がり、渦を巻くように雷を纏った拳を顔面に叩き込む。

衝撃で兜は砕け、後ろにゆっくりと倒れながら魔装は解除され、そしてそのまま沈黙する。

『………』

信じられない光景に縛羅のサポーターは皆空いた口が塞がらない。

「勝者、鬼城焔」

こうなると思っていた悠が焔の勝利を宣言すると、会場は悲鳴に包まれた。

縛羅のセコンドがあまりのショックに2度3度躓きながら縛羅に駆け寄る。

「副会長ぉ⁉︎しっかりしてください!」

焔は縛羅に視線もくれずにリングを後にし、フェリシアと刀那、刹那も後に続いて退場した。

「ちょ、焔⁉︎」

ハークたちが観客席から焔たちのところへやってきた。

「あれ副会長なんだけど⁉︎2位なんだけど⁉︎」

「はっはっはっ。流石だな」

「いや、勝つとは思ってたけどさ…」

「いいの?あれってもうトーナメントに参戦する宣言みたいなものよ?」

「まあ、うん…」

「なんで目逸らすのよ」

わいわいと囲まれる焔を見ながら、後ろでフェリシアはニヤニヤする。

「…フェリシア様、さっき焔になんて言ったの?」

「彼ったら、急にやる気出しちゃって」

「うん?大したことは言ってないさ」

ただな、と悪戯っぽく続ける。

「後ろの処女(はじめて)をやると言ったんだ」


その日の夜、縛羅から涙ながらにフェリシアの親衛隊とファンクラブの解散が告げられ、学園どころか街中で多くのファンが血の涙を流して嘆いたという。

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