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第10章 -群勢-

連戦で魔力を消費した一同は、もう1人来ているという焔の仲間にアルベルトを任せ、サファイアによって怪我の治療を受けていた。

魔装の固有魔法で治癒能力を持つサファイアは、淡いブルーの光で順にミラたちの傷を癒していく。

その傍らで、謎の少年・マグナスがセリーナに説教されていた。

「ほら、マグちゃん。皆さんに挨拶は?」

「………(つーん)」

「焔様のお友達よ?」

「………(しーん)」

「もうっ!相変わらずなんだから!ほら」むぎゅっ

「………(ぷいっ)」

「「「お母さん?」」」

突如空から降ってきたマグナスという少年はどうやらかなりの人見知りのようで、仲間であるセリーナとも目を合わせようとしない。セリーナに頬をつままれても無反応だ。

「えっと、マグナス君?その子も焔の仲間なんですか?」

「ええ。エルフだから幼く見えますけど、14歳くらいですわ」

「あ、やっぱりエルフなんだ」

「くらい?」

端整な顔立ちと綺麗な銀髪、赤い眼の色はやはりエルフらしい。

褐色の肌ということは、俗にダークエルフと呼ばれていることになる。

「まだ子供なのに…」

ミラはボソッと呟いた言葉の続きは言わなかった。

先程マグナスが2人の兵士を何の躊躇もなく殺害したのを目にしている。

「まあ、いろいろ訳ありということですわ。焔様の名誉のために言っておきますが、彼はマグちゃんに戦いを強要したりはしていませんよ?」

「それはわかるんですけど…」

訳あり。それも相当な理由があるのは想像に難くない。

「コミュニケーションはアレですけど、これでも個人の戦闘能力は私たち幹部クラス。皆さんより強いかもしれませんわよ」

「え⁉︎」

その言葉にミラたちは思わずぎょっとなる。

相変わらずぼーっとしているマグナスはそんな風には見えないが、得体の知れないのも確かだった。

「ダルク先生、そういえばさっきから焔と通信が繋がらないんですけど…」

「ええ、わたくしも妙だと思っていましたわ。焔様の義肢には通信機が埋め込まれていますから、よっぽど電波の悪いところにいない限りは切れたりしないはずなのですが」

「グリードのときもそうだったわよね?もしかしてまた妨害されてるんじゃ…」

「う〜ん」

試しにミラはスマホを取り出してみるが、電波は特に悪くはなかった。

「焔の強さを疑うわけではないが、それでもバラバラに動く魔獣たちを1人で相手し続けるには無理がある。街の様子が心配だ」

「それに関しては、恐らく大丈夫ですわ。あのレプトルタイプが出てくることを見越してちょっとした秘策を用意していましたから」

「秘策?」

「ええ。少なくとも、焔様がいる限りは住人に被害が及ぶ可能性は低いですわ」

「はい、これで終わりよ」

「ありがとうございます、先生」

最後に治療を受けていた伊織が立ち上がる。

「電波妨害はわからないけど、ボスの場合ただ通信が聞こえてないだけなんじゃないの?」

「それはあるかもしれませんわね」

「どういうことですか?」

「焔様は何かに熱中すると周りが見えなくなるんです。よくフラッと出掛けて音信普通になりますし」

「また自由人な…」

「街にいるのは分かりきってるんだから、ザックと合流して加勢に行きましょう」

「そうですわね」

「………」

返答も待たず、いつの間にかマグナスが巨大な魔力が衝突している方向に歩き出していた。

「あ、ちょっと!」

「行くわよ」

一向はマグナスの後を追って小走りで駆け出した。




「向こうだ!」

「火柱が見える!」

「炎の魔法使いか!」

戦いながら移動していたらしい2人は、校舎を越えて更に部室棟の向こうまで戦いの場を広げていた。

「あっちに……」

ドゴォン‼︎とハークの言葉を遮り、何かが建て物を突き破って飛び出してきた。

「うわあ⁉︎」「なんだ⁉︎」

『ぐっ、くそっ……』

ボロボロの姿で手を着きながらなんとか立ち上がったのは、アルベルトだった。

『ブラッドベイイイイン‼︎』

「ふう、流石にしぶといな」

瓦礫を踏み越えて現れたのは、高身長で筋骨隆々なガタイの良い大男だ。

くすんだ金髪を右手で搔き上げながら、左手には円形の盾を持っている。

「ド、竜の(ドラゴンスケイル)が…」

「どんなパワーだというんだ⁉︎」

「ん?セリーナ、サファイア。マグナスもいたか」

「ザック、まだ終わりませんの?」

「そう言うなよ。そこそこしぶといぞ」

『ふざけるなっ‼︎』

「ふざけているのはお前だろう」

ザックの左腕の盾が、機械音と共に肢を伸ばし、盾の部分が2つに割れる。その形状は巨大な両刃の斧だ。

「学生たちを襲撃し、一般市民を巻き込んで魔獣をけしかける。なにより、俺たちのボスに喧嘩を売った」

『っ……!』

「オレンジだかパイナップルだか知らんが、俺たちは“焔の同盟(フレイム・リーグ)”。お前らみたいな腐った果実を潰すのが仕事だ」

『調子に乗りやがって…‼︎』

構えるアルベルトだが、ザックには全く隙がない。

『……まあいい。今を焦って未来を逃しては本末転倒だ』

アルベルトは構えを解くと、翼を広げて飛び上がる。

『いずれ決着を付けよう』

そして、そのまま戦闘機のような速度で離脱していく。

「逃すか!」

魔装したフェリシアがジャンプすると、足の裏に光の足場が出来る。

『オオオオオオオ‼︎』

フェリシアはそのまま“空中を走って”アルベルトを追いかける。

「おいおい、凄いなあの娘」

「ボケっとしている場合ではありませんわ!」

「私たちも追うわよ!ジェットは⁉︎」

「こっちだ」

「お、俺たちはどうする?」

「行くしかなかろう!」

どうやら移動手段のあるザックたちにハークたちも続いていく。


ザックに案内されてやってきたのは何もない中庭だった。

「え、なにもなくない?」

すると、ジジジジ、という機械音と共に何もない空間が揺らめき、海鷂魚(エイ)のようなフォルムのジェット機が姿を現した。

「ええ⁉︎」

「なにこれ⁉︎」

「さあ早く……ん?君たちは誰だ?」

「俺たちも連れて行って下さい!」

「焔のクラスメイトです」

「ああ、焔の…」

ザックがどうする?という風にセリーナを見ると、セリーナは小さく頷いた。

「挨拶は中でしよう。乗ってくれ」

「ありがとうございます!」

そして、全員が戦闘機に乗り込んだ。

「さ、傍に座ってベルトをして下さいな」

「おお、まさか戦闘機に乗る日が来るとは…」

「出すぞ」

操縦席にはザックとマグナスが座り、後部で2列に並んだシートはそれぞれ5人掛けになっている。貨物の量次第ではもっと乗れそうだが、基本は12人乗りのジェット機だ。

「これ、どうやって透明になってるんですか?魔力を全然感じないんですけど」

ステルス機能には魔法機構が使われているものかと思ったが、ジェット機からは魔力を感じない。

「それでは魔力レーダーに探知されてしまいますもの。このジェットは科学だけで作られたものですわ」

「うそお⁉︎」

「みんないいか?飛ぶぞ」

僅かなキィィィンという音と共に機体が垂直に浮かび上がる。

「え?え?」

てっきり滑走するものと思っていたミラたちはきょろきょろと戸惑う。

「両翼にローターが搭載されているんです。それと上下左右自由に動く後部のジェットで滑走を必要とせずに垂直離着陸が可能なんですわ」

「よくわかんないけど、凄い…」

コックピットから見える景色は、ものの十数秒で街を捉えた。

「なに、あれ…」

眼下に広がる景色に、伊織がポツリと絶望の色を孕んだ声を漏らした。




遡ること数分前、フェリシアは空中を走りながら飛行するアルベルトを追っていた。

『君もなかなかしつこいね!』

足場を展開し続けて空中を走るだけでも驚きの芸当だが、亜音速で飛行するアルベルトに見事に付いてくるフェリシアの速度にアルベルトは歯噛みした。

『狼の“脚”は狩りのための武器だ!』

『……では、手法を変えてみよう』

ジグザグに飛んで振り切ろうとしていたアルベルトは、突如旋回してある方向へ加速する。

『何処へ行く気だ!』

それを追うフェリシアはレーザーを放とうとして思いとどまる。

(高度を下げている。低空飛行で市街地を盾にして逃げ切るつもりか?)

卑怯と思いつつも、迂闊に砲撃するわけにはいかない。

雲を切り、高度を下げ続けると思った通り街が見えてきた。

しかし、そこでアルベルトの狙いは別にあったことを悟る。

『なっ…‼︎』

街の道路という道路はまるで洪水のようにレプトルの群れで溢れかえり、それらが全て1つの方向に向かって雪崩れ込んで行く。

空中から見ると超規模の蟻の大群が狭い溝を行軍しているようだ。

向かう先に視線を向けると、駅前のメインストリートに四方八方からレプトルたちが突入していく。

中心はもはや埋め尽くされていて見えないが、レプトルの群れがまるで暴風に舞う木の葉のように舞い上がり、吹き飛ばされていくのは確認できる。

そして、その中心からは雷の柱が通りを薙いで幾度も幾度も打ち出されていた。

『焔!』

姿が見えなくても、あれだけの大群を焔が1人で相手にしているのは間違いない。

『エイゼルステイン生徒会長、いいことを教えてあげよう。あれらは全て街の4ヶ所に設置された召喚装置から半永久的に生み出され続けている』

『貴様‼︎』

『おっと。そして、それらの装置を止めればレプトルたちは自然に死滅する仕組みだ。だが、4つの装置はそれぞれ私の仲間たちが守っている』

『つまりは時間稼ぎか。所詮、正々堂々と戦いを挑む度胸も実力もないということか』

『ふん、いずれその台詞を言ったことを後悔させてやりたいが、いいのか?鬼城1人で果たして何千、何万と相手をし続ければ、流石にいつかは終わりが来るだろう』

『言われずとも。貴様の安い命など問題ではない。運があったことに感謝しろ』

フェリシアは吐き捨てるように言い残すと、迷うことなく地獄絵図の中心へと急降下していった。

『ガキが…』

アルベルトは忌々しそうに眼下を睨みつけると、今度こそ星宙学園都市から飛び去った。


『ウェアアアアアアアアアアア‼︎』

視界を埋める魔獣の群れ。

それを片っ端から吹き飛ばし、貫き、焼き焦がし、両断し、砕き、殴り、屠っていく。

止まることを知らない猛攻に一歩も引くことなく全てを返り討ちにしていく。

既に戦いは数十分に及んでいるが、焔の勢いは止まるところを知らない。

そこへ、突如天空から炎と氷の砲弾が飛来し、周囲を消し飛ばした。

『『『アアアアアアアアアアアアアアアア⁉︎』』』

レプトルたちが断末魔の叫びを上げる。

『ん?』

巻き込まれてもケロッとしている焔が上空を見上げると、魔装したフェリシアが焔の隣に着地する。

『無事だったか』

『今、俺ごと撃たなかったか?』

『気にするな』

釈然としないが、焔はフェリシアと背中合わせになり構える。

『街が惨事になっていないのは幸いだが、何故この場所に集まってくる?』

『この場所じゃない。コレにだ』

焔はひらひらと左腕を振ってみせる。

『義手に何か仕込んでいるのか?』

『流石、察しがいいな。もともと搭載されている超音波発生装置の周波数を、レプトルが反応する周波数に設定してある』

『音波装置にも突っ込みたいところだが、そんな周波数があるのか?』

『音を感知する全ての生物には必ず苦手とする音や理性を揺さぶられる音が存在する。魔獣も例外じゃない』

『そうか。ひとつ勉強になっ、たっ!』

フェリシアの攻撃で数百体が一気に倒されたレプトルだったが、また新たな群勢が2人のもとまで到達する。

『よく向こうまで聴こえるものだ!ハッ!』

『街中にあるスピーカーをハッキングして音を飛ばしてる!ゼアッ!』

『皆が心配している!連絡を入れろ!むんっ!』

『忘れてた!ゼイッ!』

焔は戦いながら無線を再起動すると、リーグの周波数に呼びかけた。




学園を飛び立ち街の上空へやってきたステルスジェットの機内では、、眼下の光景に全員が冷や汗を流して黙していた。

すると、パネルの一つが点滅し、通信の傍受を知らせた。ザックがパネルをタッチして応答する。

「こちらリアジェット」

『ザック!今どこだ!』

「焔!今街の上空だ!どこにいる?」

『駅前のメインストリートだ!奴らはセントラルパークに市民を閉じ込めてる!』

「メインストリート……あそこか!どうなってんだありゃあ?」

『細かい説明は後だ!フェリシアも一緒だ!』

「誰だ?」

ザックが後ろに尋ねると、短く「生徒会長よ」と刀那が答える。

「加勢に行くぞ。パラシュートを」

『待て!』

「どうした?」

『魔獣の流れを逆に辿って4ヶ所ある召喚装置を見つけて破壊しろ!アッフェルの幹部がそれぞれの装置を守っている!』

「お前たちは?」

『その間こいつらを引き付ける!』

「そんな!」「無茶だ!」

後ろで顔を青くするミラたちだが、リーグの面々は至って冷静だった。

「わかった。丁度4人いる。向かおう」

「ちょっと⁉︎」

「あいつの心配ならいらない。どうせ発生源を叩かなければいつまでも終わらないんだ」

「……わかり、ました」

「君たちはここで待機だ。ジェットは自動操縦にしておくから…」

『ザック』

「ん?」

『ミラたちも来てるのか?』

「お前の友達か?6人ほど」

通信機の向こうから一際大きな爆音が聞こえたあと、一時的に落ち着いたらしい焔が言葉を続ける。

『そいつらも連れていってくれ』

「なんだって⁉︎」

「えっ⁉︎」「俺たちも⁉︎」

「おいおい、遊びじゃないんだぜ?」

『もちろん。いい機会だ、社会科見学させてやってくれ』

「焔、いいの?」

『自分の身は自分で守れよ?昨日俺がそれぞれに言ったこと、覚えてるか?』

「ええ」

弱点(ウィークポイント)を克服するチャンスだ。そこにいる4人は全員本物の実力者たちばかりだ』

「わ、わかった!」

ミラがごくりと生唾を飲み込みながら答える。

『よし。ミラはセリーナ、ハークはマグナス、伊織はサファイア、燿子はザックについて行け。刀那と刹那はこっちへ降りてこい』

「うへぇ〜。どこも大変そうだ…」

「じゃあ決まりだな。全員出撃!」

「「「オウッ‼︎」」」

街を黒く染める魔獣を止めるため、焔の同盟と若き騎士たちは地獄絵図の渦中へと降下していった。

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