第9章 -アルベルト・ムーン-
「ハァッ!」
普通科の校舎を守るように展開していたフェリシアたち生徒会組は、途中合流した他の生徒会メンバーを加えて戦っていた。
『ふんっ‼︎会長、キリがありません!』
ベヒモスに魔装した縛羅が、地に伏したレプトルを踏み潰して止めを刺す。
「いや、例の球はもう飛んできていない。こいつらはいずれ殲滅できる!一匹たりとも逃すんじゃない!」
ここが決戦ではないと心得るフェリシア、刀那、刹那は魔装を温存する。
(ミルドレッドたちの方は大丈夫だろうか…)
レプトルならまだ自衛の手段を持つ魔法科の生徒たちは対処ができる。
そうなると、必然的に普通科の生徒たちの防衛のために多くの戦力を割くことになる。
とはいえ、後輩たちの方を危険な目に合わせている気がして不安になってしまう。
「フェリシア様!あそこ!」
「む⁉︎」
遠距離射撃担当の刀那が指す先、逃げてきた普通科の生徒にレプトルが迫る。
「ギシャアアアアアア‼︎」
「うわあああああああ⁉︎」
「いかん!」
丁度逃げてくる生徒とレプトルが重なり刀那は撃てない。
間に合わない!と思ったそのとき、横から乱入した影がレプトルに回し蹴りを見舞う。
「シッ!」
「ギイッ⁉︎」
現れたのは、焔の義妹にして普通科生徒会役員、陽ノ森命だった。
「陽ノ森⁉︎」
「すうぅ〜」
レプトルに臆することもなく、命は威圧殲滅・天上天下の構えを取る。
「ぜぇあっ‼︎」
「ギシャッ⁉︎」
腕から捻りを加えて貫通力を高めた抜手が、ライフルの弾のようにレプトルの身体を貫く。
気管のあたりを貫かれたレプトルは、ゴボゴボと緑色の体液を喉に詰まらせ沈黙する。
『え……』「おぉ…」
魔法と武器で戦っていた生徒会メンバーが、その光景に顎が外れるほど口を開いて驚愕する。
「…流石、焔の義妹」
刹那がボソッと言った一言を聞いて、フェリシアがハッとなる。
「陽ノ森、大丈夫か?」
「ええ。問題ありません」
『ひ、陽ノ森さん、今のは一体…?』
「私、空手部ですので」
そういう問題じゃねえだろ!というツッコミを全員が心の中で叫んだ。
「よく素手で倒したものだな」
「いえ、さっき先生方が魔法を使わずに剣だけで倒しているのを見て、「あ、魔法じゃなくてもいけるんだな」と思ったもので」
(((やっぱり焔の義妹だ…)))
フェリシア、刀那、刹那は同じ感想を抱いた。
「とても助かったが、やはり危険だ。君も避難してくれ」
「会長、あの、その…」
命はフェリシアにしか聞こえない声で何かを言い淀む。
フェリシアは命の言いたいことを察し、耳元に小声で告げる。
「焔なら心配ない」
「⁉︎いえ、私は別に…」
「いいか、陽ノ森。落ち着いてよく聞いてくれ」
フェリシアは命の両肩に手を置き、しっかりと目を見て告げる。
「今、学園の外でも同じことが起きている」
「そんな⁉︎」
命は慌ててある方向に目を向ける。恐らく、陽ノ森の家のある方角だろう。
「だが、外の魔獣たちは市民を取り囲むだけで暴れてはいない。それに、陽ノ森の家は焔の仲間が警護している」
「義兄さんの、仲間…?」
「あいつはいの一番に弟妹たちの安全を考えて采配を下した。人手が足りなくとも、君たちを優先している」
「っ!」
「だから何も心配いらない。守ると決めたら守りきる男だ」
「そう、ですかね…」
「私には、君がそこまで強くなった理由がなんとなくわかるよ。だからこそ、本当に必要なときのために、今は安全な場所にいてくれ」
「……はい」
命はフェリシアの真摯な言葉に頷く。
フェリシアは満足そうに笑った。
「生徒会の皆さん、大丈夫ですか⁉︎」
校舎周辺を守っていた男性教諭2人と女性教諭がこちらに駆けてくる。
「問題ありません。ここらはもう殲滅しきりました」
「よかった!では、我々も一旦退いて避難している生徒たちの安全を確認しに行きましょう。
「「「はい!」」」
教師たちに先導されて戻ろうとするが、最後に続こうとしたフェリシアは何かに気づいて足を止める。
「む?」
魔法科の校舎、ミラたちが戦っている方向に目を向ける。
「…フェリシア様」
「これ…」
「お前たちも気づいたか」
刀那と刹那も顔をしかめる。
「何かが出現した」
「これは、魔装?」
「…嫌な予感」
「会長?」
フェリシアたちが付いてこないことに気づいた命が戻ってくる。
「陽ノ森、先に行っていてくれ」
「え、会長たちは?」
「魔法科の校舎側で戦っている後輩たちの様子を見てくる」
「…わかりました。気をつけて下さい」
「ああ。ありがとう」
走り去る命の背中を見送ると、きゅっと口を結んで表情を引き締めた。
『ありえない』
『…ああ』
『ありえない』
『そうだね』
『ぜったいありえない!』
『うっさいわね!わかってるわよ!』
雷のドラゴンに襲われたという生徒の話を聞いてから、ハークたちは皆一様に動揺を隠しきれずにいる。
『でも、雷のドラゴンなんて…』
『ドラゴンなんて世界中にいるんだ!他にもいる!』
『しかし、こんなときに限って通信が繋がらないとは…』
先ほどから焔は応答がない。
燿子は仮面の中でぐっと唇を噛んだ。
『普段の行いが悪いから疑われるのよ!』
『まあ、あれでも色々教えてくれてる方だと思うけどね…』
『おい!あれ!』
ハークが指差した先には、黒いフード付きのコートを着込んだ金髪でオールバックの男がいた。
「おや?」
『あ?』
明らかに学園関係者ではない。
何より、爽やかな顔とは裏腹に禍々しい空気を纏っている。
4人は無言で武器を構えた。
「ほ〜う、これは凄いな。ヘラクレスにアマテラス、ポセイドン、テスカトリポカか。なかなかどうして面白い生徒が揃っている」
『一応聞こう。あんたはここで何してる?』
「そう聞くということは、私が何者かある程度察しがついているというわけだな」
『大人しく投降しろ』
「嫌だなあ〜。さっきの子たちも追い返すだけで酷いことはしていないんだよ?君たちこそ、私の邪魔をしないでくれたまえよ」
『交渉決裂ね』
ミラが2丁拳銃を連射し、その隙にハークと燿子が肉薄する。
伊織も水の槍を投擲するが、男の「魔装」の言葉と共に真上から降ってきた落雷にその全てが消し去られる。
『ぐおっ!』『どわあっ!』
『燿子!ハーク!』
ミラが叫ぶが、2人は何とか飛び退いて直撃を避けた。
『あんまり遊ぶ時間はないんだけどね』
バチバチと電気を迸らせる男の魔装は、角の生えた蜥蜴のような仮面に一対の翼と尾を持つ鎧だった。
『雷の、ドラゴン…』
『他にもそんな奴がいるなんて』
しかし、焔のジルニトラとは似ても似つかず、有機的なフォルムを持つ。
焔よりもドラゴンらしくも見えるその鎧は、尻尾をゆらゆらと揺らしながら平然と4人を見据える。
『未来の団員を無闇に傷つけたくはないが、あまり時間がないんだ。手加減は期待しないでくれたまえよ』
『ふざけるな!』
燿子とハークが炎と光を纏わせた剣で左右から斬りかかるが、避けもしなかった男の鎧にはかすり傷ひとつつかない。
『ぐっ⁉︎』
『竜の鱗!』
『ハアッ!』
燿子に肘打ち、ハークに蹴りが飛び、2人はそれを捉えられずに吹き飛ばされる。
『ああっ!』
『ぐわっ!』
『こんのおっ!』
ミラが一気に銃に魔力を集め、竜巻を帯びた弾丸が男を襲う。
しかし、弾かれるだけでダメージは届かない。
『いい銃だ』
『そりゃどうも!』
男の背後に回ってトライデントを構えていた伊織が、槍での攻撃ではなく水圧で圧し潰すように水流をぶつける。
『むっ』
『オオオオオ‼︎』
地面をガリガリと削りながら男は後ろに押される。
『ハアッ!』『ゼイッ!』
更に、復活していた燿子とハークが、刀身に渦のように魔法を纏わせた剣で後ろから男を突き刺す。
そして、ミラが放つダメ押しの風の砲弾が男を飲み込んでいく。
多くの魔法がぶつかったことにより、男は爆発に飲まれ、近くにいた3人は衝撃でそれぞれ後ろに吹き飛んだ。
『ハア、ハア…』
『どうだ、やったか?』
だが、煙が晴れると、何事もなかったかのように男はそこに佇んでいた。
『ふむ、皆筋がいいな。さてはトーナメントのトップランカーたちか』
『な!』
『あれだけやって傷一つ付いてないなんて…』
『ちょっとドラゴンてズルくない?』
武器を構えて取り繕うが、内心4人とも冷や汗が止まらない。
(これが、焔がいる世界のレベルか…)
『まだまだあっ‼︎』
燿子はそれでも臆することなく斬りかかるが、男から全方位にドーム状に放たれる雷に全員が飲まれる。
『ああああああああ‼︎』
その衝撃に倒れ、或いは膝を着き、魔装が解けてしまう。
「ぐっ、くそっ…」
『楽しかったが、そろそろ終わりにしよう』
爪を翳して近づく男になす術がないと思われたその瞬間、天から降ってきた光の柱が男を包んだ。
『うをおっ⁉︎』
極太のレーザーに飲まれ、たまらず膝を着くが、完全に倒れることはなく踏みとどまった。
『誰だ!』
「後輩たちが世話になったようだ」
「フェリシア先輩!」
今、学園に牙を剥く悪意に、学園最強が立ちはだかる。
「すげえ、効いてる…」
「流石フェリシア先輩!」
「でも、ダメージを与えたってだけよ!」
ミラの言う通り、致命傷には程遠い。
『なかなかやるじゃないかっ!』
男がフェリシアに向けて焔のように巨大な雷を放つ。
しかし、フェリシアは左の剣を地面に突き刺すと土の盾を召喚し、それをあっさりと防ぐ。
更に、右手の剣も地面に突き刺すと、足下から伸びた影が男の足下から突き出される。
『2つの魔法を同時に⁉︎』
仮面に隠れて表情は見えないが、男が驚愕しているのがわかる。
『……そうか、エイゼルステイン家の人間だな』
「いかにも。エイゼルステイン家時期当主にして、星宙魔導学園生徒会長、フェリシア・エイゼルステインだ。貴様の名も聞いておこう」
『生意気な子供だ…。私こそは未来を創造する意志の実行者。魔法の導き手・アッフェルが1人、アルベルト・ムーンだ』
「え!アルベルト・ムーン⁉︎」
「まさか、WWTの元チャンピオン⁉︎」
「何でそんな人が…」
目の前の男は、かつてイギリスの魔導学園を主席で卒業し、6年前に世界の頂点に立った男だ。
しかし、大会出場はその1回きり。以降は世界各地を旅しており、度々メディアに露出はしていた。
「呆れた男だ。世界的な栄誉を受けておきながら、それをわざわざドブに捨てるとは」
『あんな大会は所詮茶番だ。魔法はスポーツじゃない。君にもわかっているだろう?』
「誇りの無い者がどこで優勝しようと同じことだ」
『君達の理解が足りないのさ。…血を重んじるエイゼルステインの人間ならもう少し話がわかると思ったんだが…』
「生憎、私にはこれ以上ない相手がいるのでな」
両手に剣を持つフェリシアと、魔装したアルベルトがジリジリと距離を詰める。
「これは試合ではない。学園に進入した犯罪者を捕らえる任務だ。刀那、刹那、展開しろ」
「「了解」」
『冷静で合理的…。もちろん私は一向に構わないけどね』
「しかし、私は運がいい」
『?』
「丁度、ドラゴン狩りの練習をしたいと思っていたところだ。それも雷のドラゴンとは」
『何の話かな?』
「貴様はただの踏み台だという話だ。魔装!」
∞を描くように剣を振るうと、眩い光と共に鎧が召喚される。
「おおっ…」
「これが、フェリシア先輩の…」
『オオオオオオオン‼︎』
雄叫びを上げるその姿は、月のような光を放つ白金の色をした狼の姿をしている。
【魔装・フェンリル】
北欧神話に登場する伝説の狼、フェンリル。
最高神をも喰らった最強の獣は、白金色の身体から常に淡い光を放っている。
どんな鎖にも縛られることのない気高い獣は眼光だけで相手を震わせ、フェリシアの二重魔法を受けてあらゆる攻撃に対応する。
更に、その鎧は竜の鱗と遜色ない強度を誇り、フェリシアの力と技が最強種に勝るとも劣らない真価を発揮させる。
『また厄介な』
『行くぞ!』
フェリシア姿が掻き消えると同時に、炎、水、雷、影など様々な魔法が斬撃と共にアルベルトに炸裂する。
(疾い!)
ドラゴンであればこそ耐えられているものの、速さだけではなく一撃一撃の重さも尋常ではない。
先ほどのように雷をドーム状に連続して放つが、魔法ごと切り裂かれてはまた距離を詰められる。
『ちょこまかと!』
尻尾に雷を集め、周囲一帯を抉る鞭のように振り回す。
だが、フェリシアはそれを最低限の動きだけで躱していく。
『4人を守れ!』
フェリシアの指示を受け、刀那と刹那が倒れた4人の前に立ちはだかる。
「「魔装!」」
軌道がズレて迫っていた尻尾が、土の盾にぶつかって動きを止めた。
『ぬ!』
『迷惑な来客ですね』
【魔装・ニンフルサグ】
偉大なる大地の女神の力を持った刀那の魔装・ニンフルサグ。
角の付いた王冠を被り、鉄で出来たスカートを纏う姿が特徴的だ。
そのスカートはよく見ると細かい装甲が幾重にも重ねられたもので、足元の動きを阻害することなく自在に舞う。
肩には空の矢筒を背負い、弓を持つ右手の装甲はライオンの顔を作っている。
空の矢筒は刀那の魔力を受けて様々な効果を持つ矢を無限に生み出すことができる。
刀那は無言で弓に矢をつがえ、フェリシアにも構うことなく矢を連射する。
空の矢筒からはチキチキと歯車の回るような音が鳴り、中からは絶えず矢が装填されている。
飛来する矢にフェリシアは振り向くこともせず、自らの体を陰にしてギリギリまで引きつけた矢がアルベルトに当たるように誘導していく。
『のっ⁉︎おっ‼︎』
アルベルトには、矢がまるで死角を埋めるようにフェリシアの背中から出てくるかのように見える。
そして、矢は着弾すると花火のように爆発し、その衝撃で後退させられてしまう。
『ぐうっ‼︎』
『ダイヤモンドの硬度を持つ矢も刺さらないわね』
『このくらいは想定内だろう』
学生レベルとは思えない脅威の連携にアルベルトは目を見開く。
(ここまで高いレベルで連携を…!)
大勢を立て直そうと引いた足が、池にでも落ちたかのように地面に沈む。
『!』
バランスを崩した原因は地面ではなく、そこに落ちる影。
いつの間にか影魔法で作り出されたトラップに誘導されていた。
『…油断大敵』
刹那の声と共に影の中から四肢と首目掛けてクナイが飛び出す。
それを躱すが、クナイの輪にはワイヤーのような細い糸が結ばれており、両手両足と首が拘束されてしまう。
『ぬうっ!』
不自然な長さに伸びた影の中から魔装した刹那が上半身を現す。
両手にはアルベルトを拘束する5本の糸を握っている。
【魔装・アルマロス】
刹那に宿るのは、堕天した元天使の魔装・アルマロス。
影のように黒い装甲は防御力より機動性が重視されており、背中の翼はバッグパックのように折りたたまれて収納されている。
鼻と口元は覆い隠され、目だけが赤い光を放っている。
しなやかな外見だが、全身と影の中には無数の暗器が仕込まれており、影の中から変幻自在の攻撃を繰り出す。
『鬱陶しいね!』
アルベルトは拘束されたまま電撃を放とうとするが、バチバチと火花を散らすだけで上手く出力が出せない。
『なにっ⁉︎』
魔法の制御が上手く行かない状態に気を取られていると、フェリシアの二刀が炎と氷を纏ってアルベルトを両断した。
『ぐわあっ!』
(先程よりもダメージが大きい⁉︎何故だ⁉︎)
アルベルトは知る由もないが、刹那の魔装・アルマロスは魔法使いの無力化を人間に伝えた堕天使。
固有魔法【異端者の断罪】により、直接及び間接的に触れた魔法使いの能力を阻害することができる。
なんとか後ろに転がって斬撃の衝撃を逃すが、爆発する矢の追撃がアルベルトを襲う。
『さあ、観念するがいい』
右手に炎、左手に光を宿すフェリシアが、倒れたアルベルトに剣先を向ける。
『ふふっ……あはははっ‼︎』
『!』
『凄い!実に面白い!いやいや、君たちのレベルを見くびっていたことを謝罪するよ』
あれだけの攻撃を喰らいながら、アルベルトは楽しそうに笑い声を上げて上体を起こした。
『いやあ〜、人材を求めて古今東西を旅していたが、灯台下暗しというかなんというか…。学び舎にこそ答えはあるものだな』
『何の話だ?』
『我々は優秀な魔法使いを常に受け入れる用意をしている。君たちのような、ね』
『まだそんな戯言を言うような余裕があるか』
フェリシアが剣を交差させて構える。
『いやあ、こんなに急ぎの用でなければなあ。もっと遊びたいところだが、私にもやるべきことがある。君の合理性を見習うとしよう』
アルベルトが指を鳴らすと、ザザザザ!と何かが走る音が聞こえてきた。
『なんだ!』
『魔獣⁉︎』
木や校舎をアクロバティックに飛び越えて現れたのは、黒いボディスーツに身を包んだ人型の何かだ。
6人おり、体型は全員男。頭はすっぽりとヘルメットに包まれ、ヘルメットから伸びる4本のチューブが背中に繋がっている。
『いよっと。後の戦闘データは彼らに取ってもらおう。私はこの辺で』
『…逃がさない』
両手に忍者刀を構えた刹那が背後から飛びかかる。
『あまり調子に乗らないことだ』
瞬間、空間が割れたかのような衝撃と共に、先程の数倍の威力の雷がアルベルトの全身から放たれる。
『…っ⁉︎』
『刹那!』
「危ないっ!」
水のクッションが空中で刹那を受け止める。
「ナイス伊織!」
『ハッ‼︎』
フェリシアが狼の脚力でアルベルトに迫るが、アルベルトは今度は真正面から雷を纏ってフェリシアにぶつかり、フェリシアの2種類の魔法をアルベルトの雷が突き破る。
『ぐわあっ!』
「フェリシア先輩!」
「突破した⁉︎」
『ではまた』
アルベルトは手を振って校舎の向こうに去っていく。
『待てっ!』
追おうとするが、6人の兵士がフェリシアたちを囲う。
『邪魔だ!』
フェリシアが正面の1人を斬り伏せる。
斬られた兵士は後ろに吹き飛ぶが、ガッ!と地面に手をつき、何事もなかったかのように起き上がる。
「え!」
「なんで⁉︎」
シュー!という音を立てて兵士たちが無差別に襲いかかってくる。
『怯むな!各個撃破!』
「休憩終わり!」
「私たちもやるわよ!」
数の上ではフェリシアたちが勝るが、ミラたち4人はまだダメージから回復しきったわけではない。
更に、兵士は6人全員が倒しても倒しても立ち上がってくる。
「なんなのこいつら!」
『…鬱陶しい』
『何か妙だ…』
戦いながら、フェリシアは不自然なものを感じる。
兵士たちから魔力は感じられるが魔法も魔装も使用はしない。
しかし、身体能力だけは異常で、かつダメージを負ってもすぐに立ち上がってくる。
「先輩!こいつらいったい…」
『ええい、キリがない!』
恐らく、四肢を切断するか、殺せば動きは止まるだろう。
しかし、簡単にできる選択ではない。
フェリシアが決断すべきかと口を開こうとしたとき、突如空から振ってきた新たな乱入者が兵士の1人を押し潰した。
「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」
衝撃で小さいクレーターが生まれ、砂埃の中から落ちてきた人間が立ち上がった。
「誰だ!」
『子供?』
現れたのは、12,3歳ぐらいに見える小柄な子供だった。
褐色の肌に銀色の髪で、瞳は赤い。中性的な容姿で性別がわかりづらい。
身に付けた剥き出しのホルスターには銃が収められており、ブーツにもナイフが刺さっている。
その出で立ちは少年兵という言葉を連想させる。
下敷きになった兵士は手足が不自然な方向に曲がっており、じわじわと血だまりが広がっていく。
少年の背後から別の兵士が襲いかかるが、ひょいっと軽く躱して足払いをかける。
そして、転んだ兵士の頭を踏みつけてヘルメットから伸びるチューブを2本、無理矢理引き千切った。
「ぎゃああああああああああ‼︎」
先程まで無言だった兵士は途端に絶叫し、ゴロゴロと地面を転げ回る。
子供がその兵士の頭を思い切り蹴り上げると、ボギッ!と嫌な音がして兵士は沈黙した。
「あらあら、マグちゃんたら。また無闇に殺して…」
「ダルク先生!」
いつの間に現れたセリーナが倒れた兵士の死体と子供を交互に見て溜め息をつく。
「そこまでですわ。残りは拘束して尋問しましょう。サフィちゃん」
「はいはい。マグナス」
「………」
セリーナと共に現れたサファイアと、マグナスと呼ばれた子供が残りの兵士も同じようにチューブを切断していく。
「おっと」
セリーナも蹴りかかってきた1人にカウンターを叩き込むと、アイアンクローでヘルメットを掴む。
バキバキとヘルメットにヒビが入り、もがく兵士がセリーナの腕を掴むが、全く離す様子ははい。
「うげ」
「なんて握力…」
そのままもう片方の手でチューブを引きちぎると、頭を地面に叩きつけて気絶させた。
「終わったわ」
チューブが切れた兵士は例外なく苦悶の悲鳴を上げていたが、サファイアとマグナスも全員を気絶させた。
「何よこいつら」
「さあ?背中に何かついていますわ」
セリーナが背中に付いていた装置を外そうとするが、ボルトで蓋が閉められていて外せない。
すると、太ももから銃を取り出し、装置に向けて発砲する。そして、穴を開けてから無理矢理蓋をこじ開けた。
中から取り出されたのは毒々しい色をした魔石だ。
「なにかしら?」
「セリーナ!」
サファイアが倒れていた兵士の異変に気付く。
気絶していた兵士たちからどくどくと血が流れ始め、あっという間に血溜まりができる。
サファイアは脈を取るが、首を横に振った。
「そ、そんな…」
「これはいったい…」
セリーナは目を細めて真剣な顔つきになる。
「急いで焔様に報告しましょう」
「ダルク先生」
魔装を解いたフェリシアが申し訳なさそうに話す。
「すみません、侵入者を取り逃がしました」
「大丈夫ですわ。別の仲間が追っています」
「他にも仲間が…」
と言いかけたところで、全員が校舎の向こう側に強大な魔力を感じて顔を向ける。
「早速暴れているようですわね」
「こ、今度は何だ…?」
次々と変化する事態に、いい加減頭が痛くなる思いだった。