第六話 成長
書き上げました。
長らく研修で他県に居た為更新できませんでした。
あれから数年、ステレラはまだまだ貪欲に様々な魔法を学び吸収していった。
新しい魔法を覚えるのはもちろん、魔力の上限値を上げる努力も怠らず、色々な魔法道具作りにも積極的に取り組んだ。
その成長には目を見張るものがある。勿論それは外見にも言える。
まだ10歳になったばかりのステレラであったが、その美しさは日毎に増していくようだった。
「アル!レイ!今日は東の森へ行こう」
「待ってステレラ、レイが馬を借りてくるから」
「今日は馬で行けるの?嬉しいわ」
「お待たせ、じゃあ行こうぜ」
この頃には3人で良く行動するようになっていた。
デトワールが午前中の授業を無くしたからというのもあるが、何より3人が打ち解けたことが大きな要因だろう。
基本的にステレラの我儘に付き合う形になるのだが、ステレラは最近本当に色々な事に手を出しているのだ。
例えば薬草で色々な薬を調合するのにはまって、普通に回復薬を作る事もあれば、薬草を混ぜた団子を作ったり、薬草で普通におかずを作ったりもしていた。
他には許可を貰ってはいたが、森の一部を開拓して畑を作り始めたりだとか、開拓した時の木々を使って家具を作ってみたりだとか、狩りに行って獲った動物の皮をなめして何か作ったりとか、肉は燻製にしたり、干し肉にしたりと本当に色々な事をしているのだ。
「今日は何をするんだ」
「山菜をとりながら狩りもするかな」
採ったり狩ったりしたものはステレラが最初の年に作った魔法袋に入れるのだ。結構入っているはずなのだが、5万の容量がある為まだまだ余裕があるそうだ。満杯になっても拡張するから問題ないそうだが、ステレラのチートっぷりはどんどん目立つようになっていた。
「今日は結構期待できそうだよ」
「そりゃ楽しみだ」
ステレラは命魔法と識別魔法、空間魔法を使って魔力探知と生命探知を広範囲で行うのだ。範囲は広げればかなりの広さを探知できるらしいが、必要に応じて、ということで狩りの時は大体半径1キロの円状に魔法を発動させる。上空も地中もどんと来いで、生物は勿論、無生物も魔力を含んでいれば探知可能だ。
アルセイデスもレイモンドも魔力探知は可能だが、魔力のない生物や無生物の探知は難しい。あと地中も土が邪魔で探知は不可能。
「今日は鳥が多いね」
言うや否や素早く魔法を発動して鳥を打ち落とす。落ちてきた鳥を艶やかにキャッチすれば、カモはまだ生きている。どうやら殺傷性の魔法ではなく、捕える為の魔法を使ったようだ。
「これって美味しい?飼えるかな?」
「渡り鳥だな、ソコソコ旨いが飼うには向いてないぞ」
「そっか、残念」
ステレラはどうも家畜用の鳥類を探しているらしい。大きめの鳥を見つけては聞いてくる。飼えないと分かるととどめを刺して魔法袋へと入れる。
「家畜が欲しいなら、農家に行って交渉してみたらどうだ」
「う~ん、まだモノがそこまで整ってないから正式に飼うには早いんだよね」
「あの畑のところで飼うのか?」
「その予定」
「まあ確かにあれじゃ逃げられるか獣に食われるかだな」
「そうなんだよねぇ」
「まあそれは今日はおいといて、時間もないから早く狩って戻るぞ」
「了解!」
3人で鳥10羽、薬草1キロ程度、山菜2キロ程度、兎や狐の小動物7匹を狩ってから帰路についた。早めに戻る理由は簡単、これらを捌くからだ。
初めて見た時は度肝を抜かれた。一応貴族で6歳から王宮に住んでいるのだからこんな経験などないだろうに、ステレラは臆することなく捌いて見せたのだ。負けていられないとアルセイデスが後に続いて、レイモンドも年下にばかりやらせるのも、と手伝うようになったのだ。
一緒に過ごせば過ごすほど、ステレラは不思議な少女だった。
初めて馬に乗った時だって、まるで初めてじゃないように乗りこなして見せたし、料理も見たことのないものを作ってくる。畑だって誰かに教えを乞うていたわけでもなく作って見せた。
本で調べたのだと本人は言うけれど、調べたからってそう簡単に実践できるはずもないとは思うのだが、まあ、それが出来てしまうのがステレラなんだろう。
「レイ、何ぼやっとしてるの、授業遅れちゃうよ」
「ああ、わりぃ」
「こっちはもう終わったぞ」
血抜きは薬草や山菜を採っている間に済ませたので、あとは処理だけだ。てきぱきと鳥の羽毛や獣の皮が取り払われ、内臓を取り出し開いていく。本業みたいな手際の良さだ。
本当に何を目指してるんだろう。
あれ、オレ一応王族だったよな。
それが終わればデトワールの授業だ。
魔法は奥が深く、何年学んでも終わりが見えない。何十年も学んでいるレイモンドでさえ、まだまだ学ぶことがあると思うほどだ。
デトワールの授業が終われば、三者三様、それぞれ学ぶことが変わってくる。
ステレラは王妃直々に淑女になる為の礼儀作法や社交ダンスについて教えて貰っているそうで、目まぐるしい日々を送っている。元々落ち着いた性格ではあったが、まだ10歳ということが信じられない位に堂々としている。
「そう言えばこの前言っていた地方のコメ種を貰ってきたぞ」
「ありがとう!嬉しいわ」
「俺はコメよりもパンが好きだな」
「まあ、品種改良されてないから仕方ないけど、おコメも美味しいわよ」
「ステレラの料理はおいしいからな、楽しみだ」
アルセイデスは政治や経済、外交について国王より学んでいるそうだ。普段親しくしているから忘れそうになるが、この国唯一の王位継承権を持つ王子なのだ。この国に恥じぬようとまっすぐに努力している様は男の俺から見ても格好良く見える。
俺はといえば、46歳になり国外に出る許可の取れる年齢まであと4年である。まだ誰にも言ってはいないが、50歳になれば国外に出て冒険者になるつもりだ。その為に少し前から騎士団の訓練に参加させてもらっている。
参加するまで知らなかったが、騎士団の訓練は予想以上にハードだった。基礎体力作りから始まり、弓術の訓練、対人格闘技、剣術、槍術、魔法、戦略と日によって違いはあるものの、一通りなんでも熟しての騎士団団員らしい。
戦闘なんてここ数百年ない。魔獣との戦闘であれば騎士団のみで対応できるが、もし多種族との戦争でも始まれば、国民から徴兵しなくてはならない、その際各隊の指揮を執るのは他でもない騎士団なのだ。そういった理由もあり、騎士団は万有たれという教えがあるのだ。
ヘーラル王国は現在魔法で国そのものを隠してはいるが、年々他国も魔法への理解を向上させており、いつ他国がこの国を発見するかも分からないのだ。現に勘の良い野生動物や魔物は境界を越えてやってくる。
探知能力に優れた者が管理をしているので、発見され次第騎士団が派遣されるのでそう簡単に人里までは来ないが、それでも警戒するに越したことはない。
いつもの訓練が終わったころ、騎士団長でありステレラの父であるトゥルヤルに呼び止められた。
「今夜一緒にどうだ」
「はい、ぜひ」
そのまま街に繰り出すには少々汚れすぎているので、騎士団用のシャワールームを借りて汚れを落とす。
「トゥルヤルさんは昔冒険者だったんですよね」
「なんだ、いきなり」
「俺、国外に出ようと思ってるんです」
「・・・そうか、そうなんじゃないかとは思っていた。レイモンドは冒険者になりたいのか?」
「はい、世界を旅するには冒険者が一番かと」
「そうだな」
「良ければ話しを聞かせて貰えませんか」
「200年近くも前の話しだぞ」
「それでも、聞きたいんです」
「・・・なら構わないが」
トゥルヤルが国を出て冒険者になったのも50歳になってからすぐの事だった。
当時から現国王やマーリクとも付き合いがあり、50年くらいで戻ると約束しての旅立ちだったという。
「私もレイモンドと同じく、騎士団の訓練に参加したものだ」
懐かしそうに目を細め、トゥルヤルはビールを口に運ぶ。
ヘーラル王国は大森林の奥地に在る。その大森林は5つの国の国境に位置している。というよりは大森林を国境に国が作られたと言った方がいいだろう。多くの魔物が棲む大森林を超えてまで侵略しようとする国は存在しなかった。魔物は魔物で資源も食料も豊富な大森林を出てまで人里を襲う事をしなかった。それにより一つの国境はそこまで警戒しなくても良く、大森林に隣接する国はその殆どが大国へと成長したのだった。
「5つの国は大森林で隔絶されているし、遠い地だからか気候も違っている。最初はどの国に行くか、何年も迷ったもんだ」
北に位置するスロジア帝国は高い山が多く、冬が長い。気温は氷点下40℃を下回る事も多く、農耕よりも狩猟が主である。かなり高い度数の酒の産地で、国民の殆どが酒好きだと言われている。暖房効果を高める為か木造建築でこじんまりした家屋が多い。あまり細かい所にはこだわらないのか、料理や酒は大味なものが多い。物資が少ない土地柄だからか交渉事には強気で挑む姿勢があり、明確な答えを好む傾向がある。粗暴であるが人懐っこく、情が深い。男女ともに体格の良く、体力も忍耐力も目を見張るものがある。また太陽が出ている時間が短いからか、色素が薄く金髪で色白の者が多い。服は毛皮を主に使用しており、単色が多く装飾は刺繍を施すくらいだ。軍事国家の実力主義で皇帝を国主としてはいるが、国軍の長である元帥も同等の権力を持っている。土地柄、氷系の魔族が多く住んでいる。また凶暴な魔獣も多い。
東に位置するトゥナーク神国は資源も豊富で芸術性に富んでいる。気候は比較的穏やかで四季がはっきりしており、農耕も狩猟も盛んである。貧富の差が激しく、木造の建築物で彩られた都は美しいがスラム街は酷いモノである。産めよ増やせよの国政により富裕層はもとより、貧困層でさえ子供で溢れており捨て子も多い。人口に比例して奴隷が一番多い国であり、奴隷の命の価値は物よりも低い。その奴隷を使っての大量生産が得意で、多少品質は落ちるものの、安定した供給力のある国である。黒髪黒目が多く、男女ともに小柄であるからか幼く見える。また血族を大切にしており他の民族と混じる事を良しとせず、結婚に関しては排他的である。神の子孫であると言われている天子を国王としているが、実際はその天子を擁立している大宦官が最高権力を持っている。この国には見た目が人族に近い魔族が多く住んでおり、ハーフも多い。特にアンテッド系の魔術適合者が多く発生する地域でもある。
南に位置するインダラ王朝は火山が多く、温泉が豊富だ。気候は暑い日が長く、雨期と乾期がある。冬は短い上に雪の降らない地方が多い。土壁の四角い形の白い建物の街並みと、王宮や寺院の大理石をふんだんに使用した建築物のコントラストが美しい国だ。国民の殆どが風呂や洗濯を川で済ます。特産品は果物と言っていいだろう。この国も貧富の差が激しく、貧困層は学校にも行けない事から生活水準はあまり高くない。この国も過ごしやすさからだろう、人口が多く奴隷の割合も高いが、国外に売りに出されることの方が多い。褐色の肌に黒髪が多く、慎重が高く体格の良い者が多い。どちらかと言えば他人に寛容で楽観的なところがある。インダラ王朝の国王は神が転生した姿とされており、国王自体が大きな力を持っている。また国教として精霊等を崇めるコウラム教を定めており、深く信仰が根付いている。またこの国の中にはまた小さなドワーフ国の飛び地があり、友好的な関係を築いている。
西に位置するヤルピエナ王国。この国も火山が多いがインダラ王朝ほどではない。果物の生産も多いが、果実酒の産出国として有名である。赤レンガ造りの街並みと中心にそびえ立つ巨大な城が威厳を醸し出している。情熱の国と言われるほどに愛憎激しい国民性で、男であれば女性に声を掛けるのは当然、むしろ掛けないのは失礼に値するという考えを持っている。この国には世界一大きな裏組織の本拠地があり、ゴロツキを取りまとめているため、パッと見の治安は悪くない。ただ他国よりも麻薬等が手に入りやすい為、裏世界に足を踏み入れるのが容易なのだ。奴隷の購入が一番多い国でもある。色白で金髪や赤毛等が多く、体のラインがはっきりしている。基本的に王族が国のトップではあるが、革命やら反逆やらで国王はコロコロ変わる。国内には妖精を保護する区域もあるが、あまり対等な関係とは言えない。
そしてもう一つのグルファト国は獣人族の住む国である。大森林の中にあり、ヘーラル王国が中心部にあるとすれば、南側に位置する。距離はかなり離れておりヘーラル王国との交流は滅多にない。比較的大森林の端の方にあるので、現在は交易の拠点となっている。昔は閉ざされた国家であったが、現在は傭兵国家として国賓や商人の護衛等を生業としている。人口は少ないものの、獣人族の驚異的な身体能力や拠点の重要性から無視できない国家であることは間違いない。多数の種族から構成されており、各族長から更に国の頂点が選ばれる。因みに選考方法はトーナメント式の戦闘だ。種族によって性格には大きな差があり、どちらかと言えば野性的な生活をしている者が殆どである。
「トゥルヤル様はどの国に行かれたんですか」
「私はまずヤルピエナ王国に向かった。理由は強いて言えば冒険者制度の本拠地がある国だからかな」
大森林に一番近い街で冒険者登録をしてしばらくはそこを拠点に活動していた。
大森林が近いからこそ素材収集の依頼が多く、また素材も手に入れやすく依頼内容も多岐に渡る。そこであっという間にランクをFからCに上げて放蕩の旅を始めたのだ。
トゥルヤルがヘーラル王国に戻ったのは結局73年後だったそうだ。
その後すぐにマーリクと結婚し、騎士団へ入団。色々大変だったそうだが、結局何があったのかは教えてはくれなかった。
「それでどうだ、ステレラの様子は?」
「ステレラ嬢は素晴らしい才能をお持ちです。魔法だけでなく体術にも目を見張るものがあります。それに乗馬に料理にと好奇心旺盛で行動力がおありですね」
「おお、そうか。最近は良く森に行っているらしいな」
「ええ、少しばかり狩猟を」
「毛皮を鞣すのがとても上手くなったらしいな」
「・・・ええと」
「最近は農耕にも精を出しているそうじゃないか」
「・・・まあ、はい」
堂々と馬で森に入ってはいるが、獲物を捌く時はステレラの作った畑の傍でしているし、その畑は王城からというよりも町から結構離れている場所にある。自由な国風であるし、絶対に秘密だとか言われている訳ではないのだが、言ってもいい事なのか確認もしていないからどう言うべきなのか困る。
ステレラは鞣した毛皮で何かプレゼントをするつもりだったようだし、ずっと秘密にしたい訳でもないというのは分かっている。でも今ここで言っても良いものなのか。
「別にそれを辞めさせたい訳じゃないんだ。なるべくステレラの意思を尊重したいしな」
「それなら良かったです」
「レイモンドから見てどうだ、ステレラも冒険者になると言い出しそうでな」
「ああ、それは・・・そうですね」
「やっぱりそうか・・・マーリクが悲しみそうだな」
「マーリク様がですか?」
どうして、と言おうとしてやめた。一人娘、しかもあんなに見目麗しい女性が冒険者になるなんて、トラブルの予感しかしない。母親としては何としても止めたいだろう。
「能力的には問題ありませんよ」
「そうだな」
実際ステレラが冒険者になることに不安なんてない。高い魔力と扱える魔法の多さは勿論、先ほども言ったように体術もある。しかも狩猟に農耕も出来、野草についても詳しいのだ。それだけでもステレラには一人で生きていく力があると言っていいだろう。にも関わらず、ステレラは入念に準備をしているのだ。
例えば魔法道具作り。
既に5万の容量を持つ宝級の魔法袋を持っているにも関わらず、新しいものを作るつもりのようだ。しかもそれは普通の魔法袋ではなく、畑が入るほどの巨大なものを想定しているらしい。ただ畑を入れる訳ではない。そこには土があり生物がおり、微生物が活動出来る環境を作ると言っていた。つまり空気が入れ替わり、昼と夜があり、雨が降る。魔法袋に温室のようなものを作るというのだ。原案を聞いた時は驚いた。そんなもの考えつく者はいないだろう。だがステレラであれば出来ると思える。
同様に家も魔法袋の中に作ってしまうつもりのようだ。
中身の予定を聞いたら、畑が数十部屋に家が一軒、家畜用が数十部屋で後はまだ未定だそうだ。
魔法石も随分と貯め込んでいるようだし、国でも作るのかと聞きたい。
魔法杖も自分で作るつもりのようだ。
少しずつではあるが、着実に準備を進めている。
「ステレラに恋はまだ早いよな・・・」
「そうですね、10歳ですし」
「そうだよなぁ」
どうしてそんな事を聞くのか疑問に思えば、何も尋ねずとも続きを話してくれた。
どうやらマーリク様と王女様との約束でアルセイデスとステレラの結婚を考えているらしい。ただやっぱり無理矢理結婚させることは望んでいないらしく、恋愛に発展することを期待しているらしい。
うーん。。。
あれはまだしばらくは無理だろう。
エルフの10歳と言ったらまだまだ本当に子供だ。けれど恋ぐらいはしてもおかしくない位に精神的には成長しているはずなのだが、ステレラにはまだそういった感情があるようには見えない。
「冒険者になってしまったら益々王子に恋をする機会が減ってしまうな」
「あと40年はありますから、それまでには何とかなるのではないのでしょうか」
「そうだなぁ、一緒に居る時間は長いし、可能性はまだあるよな」
それから少し話をして帰路に着いた。
取りあえず恋愛面を目覚めさせるために恋愛小説でも読ませるという案に落ち着いた。
ステレラが冒険者になるのは40年後か、俺が国を出るのが4年後だから36年先輩の冒険者になる訳か。その時は先輩冒険者として何か助けになってやりたいが、ステレラは凄いことになってそうだな。
とてもじゃないが、アドバイスなんて出来る気がしないぞ。魔法道具に関しては絶対ステレラの方が良い物を使っているぞ。
せめてパーティー組める位には強くなろう。
「俺は、どこの国に行こうか・・・」
書きたい事があるけれども話の流れ的にまだ早いという。。。
幼少期の話しはそろそろ切り上げようかなぁ