第四話 初めての道具作り
書き上げました
なんでもありにはまだまだ遠いな・・・
その日はまず、魔法袋の概念の理解から始まった。
魔法袋は複数の魔法からなるもので、ある程度は簡単に作れるものから、高度な魔法が必要なものまである。
「まずは道具袋に基本的な契約魔法と拡張魔法から覚えましょう」
「はい」
デトワールは基本的に生徒が求めるものを教える。その方が効率が良いからだ。それを基本に苦手な魔法や必要な魔法を織り交ぜていくのだ。生徒の扱いがとてもうまいと思う。
「拡張魔法は空間を操作する魔法です。これは様々な場面で使うことができますので、覚えていると大変役に立ちます」
生徒が興味を持つジャンルは似ているものもあれば、全く違うものもある。しかしそれを隣で実践されると少なからず興味は出るわけである。こうして生徒が互いに刺激し合う環境で勉強することにより、更なる効率化を図っているのだろう。
「空間拡張のみでもそれなりの容量が得られますが、魔力に応じて容量を上げることができます。しかし空間拡張のみでは限界がありますので、次に使うのは次元魔法ですね」
「別の空間に袋を繋げるのですか?」
「はい、しかしその次元空間は実際には袋の中に存在します。空間拡張のみでもそうですが、次元空間での拡張でも、実際入れた分の質量はそのままですので、次は重力魔法を使います。これもステレラは大丈夫ですね」
「はい」
「あとは必要に応じて、道具袋の口に拡縮魔法を使います。これにより袋口より大きいものも出し入れ可能になります」
「なるほど」
「そして容量が大きくなるほどに必要なのが、識別魔法と召喚魔法です」
「ああ、入れたものが分かるようにでしょうか」
「そうです。また使用方法に応じて保存魔法や時間魔法も使いますね。ステレラはどんな魔法袋を作りたいですか?」
「えと、出来るだけ最高の物を作りたいです!」
「向上心のある良い答えですね。それでは昨日言った通り袋は用意していただけましたか?」
「はい、これを使いたいと思います」
実はあの後、乳母であるマウニに相談して袋を作ったのだ。
布は転生前の趣味が功を奏してこちらでも簡単な手芸を趣味にしていたので簡単に手に入った。そして夜のうちに10センチサイズの袋を2つ作ったのだ。
「うん、良いでしょう」
それから座学で一つ一つの魔法を学んでは実践するを繰り返した。
まずは契約魔法、これは使う本人以外が道具袋に自由に出し入れできないようにするためのものだ。害虫や害獣が勝手に入れないようにするための魔法でもある。この魔法の難易度は低く、魔法が使える人であれば誰でもできる魔法だ。
次に拡張魔法か次元魔法になるのだが、最高のもの、ということで今回は拡張魔法である程度広げてから次元魔法でさらに容量を上げる。
「次元魔法だけで作るとなると、出すときにそのまま外に出てしまうからね。拡張魔法で広げた分は袋を覗けば確認できるから、召喚魔法での召喚先を拡張空間に設定すれば使いやすくなりますよ」
お勧めの大きさは手の届く長さということだ。これは今後成長したとしても、成長に応じて拡張できるそうなので、今のステレラのサイズに合わせ30センチ四方の大きさにした。
次元魔法ではゆっくり感覚を探るように空間を広げていく。イメージとしては均一な大きさで一つ一つ箱を作っていく感じだ。そうしないと物を入れたときにバラバラになってしまうそうだ。容量を大きくするならこれが一番時間のかかる作業らしい。
因みに契約魔法により任意のものしか入らないので、真空の無菌状態である。
「いや、まさか一時間も粘るとは思いませんでしたよ」
「というか良く魔力が続いたな」
「俺も作ったことがあるが、30分持たなかったぞ」
「えへへ・・・」
褒められているというかは驚かれているのだが、悪い気はしない。
一時間頑張ったおかげで、容量はかなりの大きさになった。
「容量は1万くらいか?」
「コツを掴んだならもう少し行くだろう」
「そうですね、2万くらいでしょうか」
「5万くらいは入ります」
「5万か、そんな容量滅多にないぞ」
「というか必要なのか?」
「い、いずれは必要になるかもしれません」
ぶっちゃけどこまで次元を使用できるのか挑戦してみたかったのだ。けれどかなり速度を進めても終わる気配がなかったのでやめたのだ。
「それでは次は重力魔法ですね。今は重さは変わっていませんが、物を入れるとその分重くなります」
「はい、えと、無重力の魔法を袋にかければいいのでしょうか?」
「はい、そうですね」
これは簡単だった。最初に覚えた魔法ということもあって、確かに他の魔法よりも得意だった。
「本当は魔法袋は一日で作るものではないんだがな」
アルセイデス王子は教科書から目を離し、完全にこちらを向いている。
「そうだな、てか普通一人で作らないしな」
「初日で分かってはいましたが、規格外ですね」
魔法袋は使う魔法の種類の多さ故に、複数人で数日掛けて作ることが多い。勿論簡易的な魔法袋であれば一人でも一日で作ることが可能だ。けれどステレラが作っている魔法袋は間違いなく最高品質だろう。
「さて、次は識別魔法と召喚魔法ですね」
識別魔法はその名の通り、入れた物がなんであるか識別する為の物である。そして召喚魔法はものを次元空間に出し入れするための物である。
「この魔法は魔石を使います」
「デトワール先生、私はまだ魔石を用意していません」
「ええ、そう思って私が用意しておきました。これは私からのプレゼントです」
「そんな、頂けません」
魔石はソコソコ高価なものなのだ。気軽に貰えるものではない。
「これは生徒たちにはプレゼントしてきたものなんですよ。遠慮は無用です」
「貰うといい、私も去年デトワール先生からいただいた」
「俺も何年か前だが貰ったよ」
「・・・ありがとうございます」
渡された魔石は虹色の光を放っていて、袋につけれるように細工がされていた。
「ステレラは魔力が高いですからね、高濃度の魔力にも対応できる品質の高い魔石にしました。それでは始めましょう」
識別魔法は次元空間にかけるものだが、管理を簡単にするために魔石にリンクさせる必要がある。召喚魔法で次元空間と拡張空間を繋げた後に、識別魔法と関連づけを行い、これも魔石にリンクさせる。
この二つの魔法により、魔石に触れて魔力を送れば、次元空間内にある品物と在庫の数が把握できるし、すぐに拡張空間に引き出すことが出来るのだ。
「素晴らしい出来ですね、では次に保存魔法を掛けましょう」
これは次元空間内にある品物が古くならないようにするための魔法だ。この魔法を使用することにより、数十年単位の保存が可能なのだという。魔力が送り込まれる限りは効果は持続するそうだ。燃費が良いのでそんなに魔力は消費しないが、この魔法は結構難しいらしい。
「あの、保存魔法ではなく時間魔法を使いたいと思うのですが、いいでしょうか」
「時間魔法は適正はあっても難易度は高いのですよ?」
「まあステレラなら大丈夫そうだがな」
「それはそうですが・・・」
「魔力の残量も十分だ、私はステレラがどこまでできるのか見てみたいな」
「そうですね、私も見てみたいとは思いますが・・・」
「ぜひ挑戦させてください!」
最高の道具袋を作りたいと思うステレラと、ステレラの実力を直に見たいレイモンドとアルセイデス王子の意見は一致していた。
確かにステレラの魔法に対する理解度は高く、創造性も優れている。だから時間停止魔法も教えれば使えてしまうだろう。それにデトワールも知りたいのだ。ステレラがどこまでできるのかを。
「それではまずは時間魔法の概念から学びましょう」
「はい、よろしくお願いします!」
「レイモンドはまだ時間魔法を習得していないので、しっかり聞いていてくださいね」
「うげ・・・」
そもそも保存魔法と時間魔法の違いを理解することが難しい。
保存魔法とはそのモノに最も適した環境を作り出す魔法で、それによりモノの変化を緩慢にし、劣化を防ぐものである。元々契約魔法により無菌・真空状態である環境において、更に劣化を防ぐ効果があるのみである。この場合、有機物か無機物かで保存時間に違いが出るがおおよそ10から30年の保存が可能になる。
時間魔法はそのモノの時間そのものを緩慢にする為の魔法である。この場合は保存魔法との組み合わせにより200から300年の保存が可能である。こちらは有機物であっても無機物であっても効果に違いはない。
「過去、未来が現在と同時空に存在しているにも関わらず、私たちには現在しか認識できない為に時間という概念は存在しています。過去は脳に蓄積された経験により読み取ることが出来ますが、未来というのは存在はするものの、まだ脳に認識されていないので見る事はできません。しかしそれは確かに同時空に存在しているのです。それを認識し、干渉するのが時間魔法です」
「時間を緩慢にすると言いましたが、干渉か可能であれば時間停止も可能なのではないのでしょうか」
「理論上は可能です。そもそも時間魔法を完璧に使える人はいませんので、検証不足と言えるでしょう。過去に成功したという話しは残っていませんが、次元を司る龍が存在していますので、停止できる確率は高いでしょう」
「私も時間干渉による緩慢化は成功してるが、停止には至っていない」
「俺はまだ時間干渉も出来てないぜ」
「次元空間に過去と未来が干渉できないように隔離するよう設定すればうまくいく気はするのですが・・・難しいのでしょうか」
「そもそも時間魔法は理解も難しいですが、魔力の消費がとても激しいのです。その為、現在を引き延ばすこと自体できる者は少ないのです」
「ステレラちゃんならやる価値はありそうだけどな」
「そうだな、試してみていいと思うが」
「そうですね、思うままにしてみてください」
なんだか投げやりになっているようにも感じるのだが、大丈夫だろうか。
まあ何かあれば止めてくれるだろうし、魔力もまだまだ尽きそうにもない。
「では、始めます」
まずは魔法袋内の次元空間を認識し、内部の現在から過去と未来を読み取り同次元に表示し時間を可能な限り細切れにする。そして細切れの時間の中から一つの現在を抽出し引き延ばしその現在に存在感を与え、その後隔離、固定する。
「できました・・・」
「本当ですか!?」
「嘘だろう!?」
「こんな短時間で!?」
時間にして30分、結構かかったと思ったのだが、それでも短い方に入るらしい。まじまじと魔法袋を観察し、鑑定している。
「確かに、完全に停止状態であるようですね・・・」
「うわぁ、どうやったんだこれ・・・」
「どうやったのか教えて貰えないだろうか」
「はい、大丈夫ですよ」
それからどういう考えでどういう作業をしたのかを説明した。
「いや、時間を引き延ばすのは分かるんだが、存在感を与えるとは何なのだ」
「えと、引き延ばした分薄くなるので、薄くなった分を魔力で補うんです」
「分からねぇ・・・」
「そうですね、無詠唱で使える魔法は大体の者が感覚で理解して行使していますから、詠唱や魔法陣ありきで行使する者にとっては理解し難いのは仕方がないのですが・・・」
それでも限度があるだろう。
「さて、最後は拡縮魔法ですね」
これにより、袋口より大きいものが入るのはもちろん、次元空間内に入る大きさに拡縮されるので、大きなものでも道具袋内に収納できるので大変便利な魔法なのだそうだ。
「うん、これも問題ありません」
そうして無事、ステレラの初の魔法道具作りは終わったのだった。
「これは世界最高の魔法袋と言っても過言ではないでしょう」
「そうだな、あまりにも規格外の品質だ」
「いやぁ、ステレラちゃんにはホントびっくりだぜ」
「お陰様で素敵な道具袋が完成しました。ありがとうございます」
「そんなの持ってるのは国王とかその辺だけだぞ」
それだけ上質な品が作れたのは嬉しいことだ。
それから少し話しをして、その日は終了となった。
魔石を解析してみて、一から自分でも作れそうだったから質問するために残る。
「魔石、ですか?」
「はい、もしかしたら作れるのではないかと思って、可能であれば挑戦したいです」
「そうですね、本来であれば龍族くらいにしかできないのですが、ステレラであれば可能でしょう」
「本当ですか!」
「ええ、ステレラの魔力量でしたら明日にでも作れるでしょう」
「では明日、良いでしょうか」
「構いませんよ。・・・魔力の回復速度も速いですし、今後魔力値は底なしに増大するでしょうね」
「回復速度で分かるんですか?」
「ええ、魔力の回復速度は最大値が多ければ多い程速と言われています。ステレラは龍族やエルフがなぜ寿命が長いかは知っていますね」
「はい、魔力により身体が補強され、長寿に耐えうる肉体を持っているからです。その影響は魔力が強い程大きくなります」
「そうですね、ですが魔力が大きいのに回復速度が遅ければ体はやがて弱るでしょう。そういった自然の摂理により、魔力が大きければ大きい程回復速度も速いという訳です。まあ例外もありますがね」
「例外ですか?」
「回復速度が速くても、魔力値はあまり上がらない者もいましたし、逆に回復速度が遅いのに、魔力値が大きい者もいましたからね」
「私はまだ成長できますか?」
「ええ、出来ますよ。実際最初よりも魔力値は上昇しています。まだ私よりも低いですが、時期に超えるでしょう」
デトワールは気付いていた。
ステレラが誰よりも長くこの世界に存在することになるであろう事実を。
この愛らしくて天真爛漫で理不尽な存在は、いずれこの世界を大きく揺るがす。
そしてこの世界は、ステレラを中心に変革の時を迎えるだろう。
〆の言葉迷いました
後々良い言葉が見つかったら変更するかも