表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練
9/86

レゾンデートル

 片瀬さんに続いて、私もシャワーを浴びる。ここでは水資源が貴重なため長時間の水の使用は避けなければならないけれど、自宅では浴槽で脚を伸ばし、5分ほど何も考えずぼんやりする時間を設けている。そうして少し心を落ち着かせているのだ。けれど、ここではできないのか……。ううん、そうでもないか。トリートメントを髪に馴染ませている間、お行儀は悪いけれど、このベージュのタイルに座り込もう。そう決めた私はダマスクローズという最高級のバラの香りがする備え付けのシャンプーを適量手に取り、十本じっぽんの指の腹で頭皮を丁寧にマッサージしてゆく。ツボを押しながらマッサージすれば、頭皮を健康に保てるほか、眼精疲労にも効果的なのだ。


 あぁ、なんて良質なシャンプーだろう。甘美で華やか、引き締まっているのに雑味のない洗練された高貴な香り。そわそわ感が緩和かんわされて、深呼吸をすると深い眠りへ誘われそう。


 今日は本当に色々なことがあった。風邪を引いて学校を休むと決めて、先生に連絡を入れて、毎晩読書のし過ぎで寝不足だったから、久しぶりにゆっくり眠れて。目が覚めたら体調はすっかり良くなっていて、片瀬さんがプリントを届けに来てくれた。


 片瀬さんはクラスの中心人物の一人で、転入初日、ぱあーっとキラキラした笑顔で私に真っ先に話しかけてくれた子だ。当時からいつまでだろう、つい先ほどまで彼女の異常に高いテンションにどう対応すれば良いのかと戸惑っていたのに、いまでも完全とは言えないけれど、それがほとんどなくなった。


 思えば、私が片瀬さんを巻き込んだのだ。私が一緒にゲームをしようなんて誘わなければ、こんなことにはならなかった。にも拘わらず、彼女はイヤな顔ひとつ見せず、そのうえハロウィンイベントでひるんだ私に手を差し伸べ勇気を与えてくれた。


 せめて彼女だけでも現実世界へ帰せたら。片瀬さんだって、急に知らない世界へ連れられさぞ困惑しているだろう。しかもゲームの世界なんて、システムトラブルが発生したらどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしい。仮にそれが起こらなかったとしても、無事に帰還できる保証はない。戦闘や事件事故に巻き込まれる可能性が日本より遥かに高いのは間違いないだろう。


 ふと思う。私たちがこの世界へ誘われたのは必然ではなかろうか。森羅万象には様々な宇宙や天体、世界が存在していて、その中の地球という星には多種多様な動植物が生息している。生命活動に必要な水、空気、土、他一切。その中に私たち人間が在る。人間にも様々な思想、風習、習慣、体格、性格、適性があり、必ずしも適材適所とは限らないけれど、各々が背負う責務を遂行すいこうして、ある程度バランスの取れた社会を形成している。それはきっと、各々に存在意義レゾンデートルがあり、ジグソーパズルのように無駄のない世界となるように何か強大な、絶対にあらがえない力が働いているからではなかろうか。


 その概念がこの世界でも共通するとしたら、私たちの存在意義は何か。またはそのようなものなど有りもしないのか。情報があまりにも少ない現段階で結論付けるのは難しい。旅をしながらじっくり推論してゆこう。


 けれど一つ、確実なものがある。良くも悪くも、これは人生の転機。事の運び方次第で、新しい何かを得られる筈だ。ゲームクリアの条件が『豊かで平和な世界の創造に一定の貢献を』ということは、この世界は恐らく未完成で、尚且つ永遠に完成しない。もしかするとプログラムなどという概念さえ存在しないか、私たちもプログラムの一部に組み込まれているのかもしれない。そう、すべては私たちプレイヤーの手によりアップデートされてゆくのだろう。


 さて、コンディショナーを流してトリートメントを馴染ませ、ぼんやりタイムに入ろうかな。あぁ、まどろみへ誘う香りに癒される。


「ふぅ~」


 肩の力が少しだけ抜けた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 前々回が明日香のシャワーシーンということで、今回は沙雪編をお送りいたしました。『レゾンデートル』はフランスの哲学用語で『存在意義』を意味するものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ