世界を支配する方法
ある日、幼かった僕らの家は、アケミが発射したロケットランチャーによって突如破壊された。理由はわからない。大方試し撃ちか駆除が目的だろう。
命からがら逃げ出した僕らは貨物船に忍び込んで海を渡り、見知らぬ土地に辿り着いた。栄えた街だったが、そこで家を建てたらまたロケットランチャーで破壊されるかもしれないと思い、周囲に何もない、住民もいない草原を目指した。
3ヶ月歩いて辿り着いた草原に1年かけて木造住宅を建てた。建築資材は通販業者から取り寄せた。貧乏なので安い端材しか買えなかったが、わざわざ森へ行って木を伐採して加工するよりも、遥かに楽だった。
通信販売は、僕たちのような僻地の貧乏でも、遠くまで買い物に行かず生活を成り立たせる画期的な事業だと思った。僕たちも、そういう者たちが楽に生きられる手伝いをしたいと思って建築資材、家電、洗剤などの生活用品、飲食物、日々に潤いを与える娯楽用品など、世に流通する様々なものについて学び、それらを製造する企業や職人のもとへ出向いた。
すると、世界には一般にはあまり知られていない魅力的な商品が星の数ほどあると知った。特に中小零細事業者が製造する安価で強力な洗剤は、大手が広告費をかけて大量販売する商品の陰に隠れがちだった。
だが、貧乏な僕たちはこれこそ民や清掃作業を行う事業者の役に立つ魅力的な商品だと思い販売を始めた。僕たちの通販事業は洗剤一つから始まった。
幸いにも僕らが辿り着いた大陸には貧乏な民が多く、商品は好評を得られた。
その後すぐ、内陸部の草原に建てた木造住宅は竜巻で破壊されたが、通販事業のお陰でお金があったので、ローンは組んだがコンクリートの地上20階建てビルを建てられた。商品も金銭の授受もデータで行うため大きな建物は不要だが敢えて高層建築にしたのは、大雨などによる水害を懸念したためだ。
事業が軌道に乗り安定したいま、よもや僕らは世界の支配者になれるくらいにまで成長した。通販事業者だから、武器の入手も容易。上手くやれば僕らの家を無慈悲に破壊したアケミを始末できる。
復讐は何も生まないというが、何かを生産したいわけではない。憎き者が不幸になればそれで良い。
しかし安易に実行すれば、僕らを狙う、背後にアケミがいるであろうもふもふライフカンパニーからの反撃、警察の介入、そしてまことしやかに囁かれる『神の裁き』というものに、僕らは淘汰されかねない。警察は幹部に女でも抱かせて黙らせれば良いが、ほかは油断ならない。
だから僕らは外堀から、慎重に、慎重に事を進め、気が付けばもう太刀打ちできない状況へ追い込もうと、そういう発想に至った。武力は極力行使せず、事業運営に必要な魔力を大量消費し、陸地を沈め、もふもふライフカンパニーを含む他社を圧倒するインセンティブを設けたキャンペーンを実施し顧客を囲い込み、世界中のファンを獲得する。
あからさまな攻撃をせずとも、表立った戦争をせずとも、世界を支配する方法はあるのだ。