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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
北国の旅

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80/91

オアシス

「うまい! ぼたん鍋マジうまい!」


「ふふふ、気に入ってくれて良かった」


 冬の戦闘は過酷を極めるため、私たちはしばらく商売に専念し軍資金を稼ぎつつ、明日香ちゃんがブルーフォレスト名物の『ぼたん鍋』を大層気に入ったようなのでいろいろな店を回って食べ比べをしながら春を待つ日々を送っていた。私も現実世界の青森にいたころはよく食べていたので、明日香ちゃんが気に入ってくれたのは率直にうれしかった。


 雪が融けて4月になり、私たちは侵食が激しいというブルーフォレスト南側から隣のロックハンドという地域にかけての海岸を視察しに列車で出かけた。元々線路があった場所は地盤沈下したため、内陸部に新たな線路を敷設したらしい。


「ああ、これは酷いね」


 私たちの前に広がる光景を見て明日香ちゃんが言った。


 海岸付近の無人駅に降り立つと、傾いて部分的に海に沈んだ数十の家々が見受けられた。基礎が深いのか、コンクリートの建物は荒廃し、ガラスが割れるなどしているものの直立している。




 この世界までも、こんなことになってしまうとは。




 春の温かくも少し涼しい風が全身を撫でる。


 海辺はどこも似たような感じで、廃墟と化した建物が延々と連なり、それらは徐々に波にさらわれるだろう。


 荒野を数キロ内陸へ進むと、そこかしこからぶわぶわと勢い良く澄んだ水が湧き出る周囲4百メートルほどの池が現れた。周囲は新緑の木々や新芽たちが繁り、オアシスとなっている。そこでは30メートル級の雄のカモシカが1頭、柔らかそうな草をんでいた。


 池の中を覗くとメダカかフナのような形状の大きな魚やオタマジャクシが泳いでいる。あ、オタマジャクシがヤンマ科のヤゴに捕らえられた。血が噴き出してグロテスク。こんなところに私たちが入ったらひとたまりもない。


 この世界に来たばかりのころ、しばらくアキアカネのつがいと旅をともにしていたが、この世界では人外でも経済活動に参加でき、狩りをしなくても食糧を買えるから彼らには襲われなかった。


 だがここの生物は経済活動をしていない。まして水生生物が経済活動に参加するのは極めて困難。あのアキアカネ夫妻だって幼虫時代は経済活動不参画だったと思われる。


 続いて茂みの中からツキノワグマが現れた。目撃は冬以来で、今回も20メートル級。この世界の生きものはいちいち大きい。これも野生個体だろう。


 しかしツキノワグマが私たちを襲う気配はなく、湧き出たばかりの澄んだ池の水をぺろぺろと飲んでいる。


「なんか、アレだね、街は荒廃してるけど、割と平和な感じがするというか……」


 引きつり気味に笑む明日香ちゃん。クマに対する恐怖と、現実世界では被災者であった私に対しての心遣いだろうか。


 さくっさくっさくっ。足音がしたのでどこからか白いランシャツを着た40代くらいの筋肉質な角刈り面長の男が現れた。何かの作業員だろうか。


「ここもな、ちょっと前までは住宅街だったんだ。けど地盤沈下で水が湧いて、古い家は全部呑み込まれ、湧き水に押し流されて、皮肉にもこんな感じでオアシスになった。俺もここにあった住宅街に住んでたんだが、住人にとっては悲劇、自然にとっては喜劇ってわけだ。立場の違いで見方が変わる」


「それで、再びここに街をつくるのですか?」


 私が訊ねた。


「いや、やめとくよ。このまま地盤沈下が進めばこのオアシスだってじき海に沈む。埋め立てて街を造成したって液状化する。そもそもここは田舎で埋め立てる財力もない。カネのない街は消えるしかない。弱肉強食ってもんさ」


 となると、やはり放っておくわけにはゆかないか。


 このまま放置していたら陸地はどんどん沈みゆくだけ。祖国でもないゲームの世界であるこの土地を私が守る義理などよく考えればないのだけれど、ほったらかしたらきっと私は何らかの力により殺される。


 存在意義を放棄したとして。


 まあ一応、ブレイブマンカンパニーのトップとの対話を試みてみましょうか。一応。話の通じない相手とわかっていても対話なしにいきなり戦闘を始めると一部界隈からイチャモンをつけられて、もふもふライフカンパニーの株が下がるというもの。


 あぁ、ロケットランチャーでドッカーン! ってやって、瞬時に解決したいんだけどなぁ。

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