メイド服と急襲
「こっ、コスチュームチェンジ! ………ああああああっ!!」
きょうは私が夜なべをして編んだ羽心音ちゃんの変身衣装の動作確認ということで、吹雪の海岸に来た。鈍色の空から容赦なく打ち付ける小粒の雪たち。
衣装の胸部にあるハート型のスイッチを押すとそれが光って眩い光を放ち、ヒーローアニメの変身バンクのように普段着から自動で変身が可能になっているが、なにしろ暫し全裸になるため気温が低い日は拷問でしかない。
羽心音ちゃんは極寒に悲鳴を上げながらどうにか変身を終えた。ゴスロリメイドの衣装に血飛沫を浴びると大変目立つ白いタイツ。だがメイド服は作業服であるため機動性は良い。しかも銃撃戦になったらスカートから厚手の迷彩服、ズボンに重装備化できるサバイバル仕様。これなら人間同士の戦闘以外にも、例えばクマや訳のわからないモンスターと遭遇しても戦える。
え? クマと遭遇しても殺すな?
クマを殺さず、というよりはクマが人里に出没せず自然のなかでだけで生きてゆける豊かな環境を取り戻すためにも、自然破壊をしている輩を駆逐しようとしているのです。
とか言って、ほんとうはロケットランチャーなどの砲弾を飛ばしてスカッとしたいだけでは?
……。
あまりぶっ放しても社員の給料を払えなくなるので発砲は計画的に行っている。
「さ、沙雪ちゃん……!」
私は海のほうを見ているが、背後の山のほうを見ている羽心音ちゃんがビビり散らかしてタイツを汚してしまっている。洗濯は自分でしてほしい。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
羽心音ちゃんが指差すほうへ振り返った明日香ちゃんも震えだしたが、チビってはいない。
続いて私とキャロルも振り返る。
クマだ。現実世界と比べ約20倍、身長約20メートル、電車1両分ほどの大きさのツキノワグマがいる。冬眠しているかと思い油断していた。
これはもはや、訳のわからないモンスターだ。
「さっそく戦闘服の性能を試すときが来たね」
私は羽心音ちゃんに向かってニコッと笑んだ。
「エウエウエウエウ……」
ダメだ。ビビり散らかして声が出ていない。服は高性能なのに着用者がポンコツだ。これでは使いものにならない。
「逃げるわよ」
そんな状況を察してか、キャロルが空飛ぶ絨毯を広げ、私たちに乗るよう促した。
乗り込み、キャロルの魔法の力で速やかに逃げる。
なるほど、急襲されると手も足も出ないし人によっては漏らす。私はロケットランチャーを展開する時間的余裕がなかった。これは良い学びになった。
こういう場合は銃剣を得意とする明日香ちゃんの出番であろうが、彼女もあたふたしていた。もしクマが攻撃してきていたら、私たちの誰か、もしくは全員が死亡していた。
とりあえず無事ブルーフォレストの街へ戻った私たちは一旦ホテルの部屋に戻り入浴後、近くの居酒屋へ出向いてぐつぐつ煮えるブルーフォレスト名物の『ぼたん鍋』を囲んで芯から冷えた身を温めた。




