羽心音の存在意義
「ふーう」
事故を防ぎ、駅長からブレイブマンカンパニーやこの世界全般の情報を聞き出した私は、予約していたビジネスホテルのツインルームに羽心音ちゃんといっしょに入った。隣の部屋ではキャロルが白眼を剥いて気絶した明日香ちゃんを介抱している。
「そういえばこの6年間、沙雪ちゃんとふたりっきりになることって、なかったよね」
「うん、そうだね」
「沙雪ちゃんの会社に雇ってもらったおかげでテレクラのバイト辞められて良かったよお。あれはあれでちょっと愉しかったりしたけど、競争激しいしお喋りしたりアンアン言うの疲れちゃうから、ほんとに助かった」
「それは良かったです。社員ももふもふと毛布に包まれているような幸福を感じられるライフを送れる会社をモットーにしているので、満足してもらえて何よりでございます」
逆に、毛布に包まれているような幸福の中で詭弁を並べ、凍える者を追い込む者に制裁を加えるのも、もふもふライフカンパニーの指針である。
「ねえ沙雪ちゃん」
ん? と私は首を傾げた。
「私って、なんのためにこの世界に来たんだろう。存在意義追求RPGなのに、電話の先にいる男のズリネタになる以外、なんの役にも立ってないよ」
「いや、それは性犯罪防止に大いなる貢献をされているかと」
「おっ、そっか! 確かに! でももうテレクラ辞めちゃったし、やっぱり戦闘で役に立てないかな」
「うーん……」
私はロケットランチャー、銃などの弾丸系、明日香ちゃんは剣、キャロルは魔法……とすると羽心音ちゃんは?
別にジャンルが被っても問題ないけれど、それらの中に羽心音ちゃんの適性があるとは考えにくい。なんやかんや6年間の付き合いで、向き不向きくらいはなんとなくわかる。
俯いて考え込んでいると、羽心音ちゃんの胸元に視線が行った。
そこそこにふくよかだ。
私も明日香ちゃんもキャロルも控えめなのに対し、羽心音ちゃんだけは女性的な魅力がある。
そもそも初恋もまだ、ロケットランチャーのことばかり考えて6年を生きてきた私にとって、性的な視点は眼中になかった。
しかし、これは大きな武器になるかもしれない。
ハニートラップと肉弾戦だ。
男を誘惑するボディー、戦闘スーツでも開発して着せれば凶器を持たずとも羽心音ちゃんの身体が武器となる。彼女の身体に触れた男の敵が隙をつくり、それを突いて撃破。
ブレイブマンカンパニーに対する忠誠心のない、守るものもない兵であれば、やり方次第でその男を味方に転換できるかもしれない。
「ふふふふふふふ……」
これは使える、かもしれない。
「え、どうしたの沙雪ちゃん」
「ううん、なんでもない」
私はニコッと満面の笑みを羽心音ちゃんに向けた。