犠牲者発生
突然の爆音に騒然とする乗客、慌てて駆けてきた茶髪のチャラそうな男性車掌。
「な、何が起きたんっすか!?」
「この列車、編成中のどこかの車両がブレーキ故障していたようなので、切り離してみました」
「あ、なるほどあざっす! 確かに前に連結してた貨車のブレーキが故障してたんスよねー。乗務員室のモニターで見てはいたんスけど、機関士たちもどうにもできなかったみたいで。でも俺たちは助かったんスね!」
「はい、私たちは助かりました♪」
私はにっこり、満面の笑みをつくった。私と車掌の会話を聞いていた乗客たちは「ブラボー!」などと拍手喝采。
英雄となった私はここで『もふもふライフカンパニー』の宣伝でもしようと思ったが、それは野暮というもの。
「でも、前にくっついてた車両はどうなったのかな」
羽心音ちゃんが心配そうに言った。
「確かに! いま乗務員室の無線で確認してくるっス!」
車掌はビシッと敬礼して、「失礼しまっス!」と声をかけながら群がる乗客たちをかき分け最後部の乗務員室へと戻っていった。
あの男、羽心音ちゃんに一目惚れしたみたい。
車掌が乗務員室から戻ってくるのを待っている間、車両に吹き込んでくる風や雪を防ぐため、私は『貫通扉』を閉めた。現実世界の列車にもある、車両と車両のつなぎ目にある扉だ。
「おっ、お待たせしました!」
車掌がゼェゼェハァハァ息を切らして戻ってきた。
「どうでした!?」
羽心音ちゃんがすがるような目で車掌の顔を真っ直ぐ見つめる。
「全員、無事みたいっス!」
「やったー! 明日香ちゃんも無事だー! 沙雪ちゃんヒーローだよ! みんなの命を救ったんだよ!」
羽心音ちゃんが私の両手を握ってブンブンした後、ギュッと抱きついてきた。
「良かった、良かったっスね! お友だち無事で!」
「車掌さんもありがとうございます! 事故にならないように頑張ってくれてたんですよね!」
「えっ……。あ、はい! もちろん! 鉄道員として当たり前のことをしただけっス!」
「車掌さんもカッコいい!」
「うおっ! カッコいいだなんて、そんなこと……!」
バタン!
沸騰した顔で鼻を伸ばした車掌が胸を押さえて倒れた。
いま、この騒ぎで唯一の犠牲者が出た。
車掌、キュン死。
その後、車掌は羽心音ちゃんの人工呼吸で息を吹き返したが、羽心音ちゃんに蘇生してもらったと理解した途端に昇天。仕方がないので私が『もふもふライフカンパニー』で販売している蘇生装置で心臓マッサージと酸素注入を施し、一命を取り留めた。




