TE装置
吹雪の中を猛然と駆ける列車。私はただお部屋でのんびり本を読んでいた。おしゃれなことに、ベッド脇の壁には小さなオーディオ装置が内臓されていてジャズ、クラシック、ラジオのチャンネルがある。
旅の夜はロマンチックにジャズでも聴いてみようと、私はそれにダイヤルを合わせた。ダイヤル式というのもまた乙なもの。
ところで、一等車にはどんな人が乗っているのだろう。アッパーフィールド駅では、一等車に振り分けられた人を見なかった。
しかし秩序維持のため、自分が指定された車両より優等な車両への立ち入りは禁止されている。確かめに行こうとしても車掌に制止されるか、この世界のことだから八つ裂きにされてもおかしくない。となれば、ブルーフォレストに到着したら、一等車からどんな人が降りてくるか観察するしかない。
しかしこの列車、速度があまり下降しない。現実世界の在来線列車はカーブに差し掛かる前に減速するが、この列車はそれがない。かといって逆に加速もせず、ひたすら惰性走行をしている感じがする。
なんだか、イヤな予感がして、わくわくしてきた。
◇◇◇
沙雪が異変を感知したころ、機関車の運転室では___。
「ダメだ減速しない。ブルーフォレストまではしばらくあるが、そろそろ決断しなきゃならない」
「決断って、まさか」
「そうだ、そのまさかだ」
この世界の列車にも現実世界の列車同様、自列車を緊急停車させ、更に半径2キロメートル内の列車に危険を知らせ、緊急停車を促す緊急列車防護装置『One Touch Operative Emergency Devices』、略して『TE装置』が搭載されているが、これを扱ってもブレーキが利かなかった。このままでは緊急停車した先行列車に衝突するため、緊急停止信号は解除。そのまま走り続けるしかなかった。
「まあいいだろ、コトラに乗ってるのは訳わからん連中だし、コンテナに詰めたのはどうせ極刑に処す現実の世界での罪人だ」
「そうっすね。俺たちと客車の人たちが助かればいいっすよね」
「そうだ。そうするほかない」
何も知らずに踊り狂うコトラ号の乗客と、一切の光が遮断され、目の前にかざした自分の手さえ見えないコンテナに閉じ込められ、発狂する気力も衰えてきた罪人たち。今回コンテナに詰め込んだのはイジメの加害者や略奪犯など。
この罪人たちは、極刑に処された後、死刑にならなかった者は社会人として生きる道筋になっているが、そんな奴らを社会復帰させ、なぜ被害者は自殺や惨めな暮らしに追い込まれなければならないのかと思う者も少なくない。この列車のハンドルを握る機関士もその一人だ。
◇◇◇
なんとなく危険を感じつつも、沙雪は個室内のベッドに腰かけ、タブレット端末で調べものをしていた。
「ふうん、そうなんだ」
沙雪は、ある情報を掴み、なお一層この世界を悪から救う意欲が湧いた。




