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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練
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明日香が望むもの

 一日の終わりに浴びるシャワー。シャワー室は1メートル四方くらいで狭いけど、女の人の家とあって、シャンプー、コンディショナー、トリートメント、ボディーソープにメイク落としまで一通り揃っている。ここにあるのは来客用で、全部自由に使って良いという。


 立ったまま薄目で無地の天井を仰ぎ、柔らかい光に照らされてシャワーを浴びながらぼーっとしていると、心のモヤモヤが少しずつお湯に溶けて流れ落ちてゆくようで、少し気分が落ち着く。ホントはゆっくり浴槽に浸かりたいトコだけど、アケミおばちゃんいわく、この地域はあまり水資源に恵まれていないらしく、ここを含め浴槽のある家はほとんどないらしい。


 ボビーが言うには、この世界での旅行中、現実世界では私たち旅行者に関する情報の一切が抹消されるみたいだけど、それは私にとっては不都合だ。両親が不仲で、今にも離婚しそうだからだ。


 高校の修学旅行中、京都きょうと市内のゲームセンターで出会ったという二人。私の命が宿ったのはその日で、発覚したの3ヶ月後。鹿児島県在住の母さんからの知らせを受けた北海道在住の親父は、二人で仕事の多い神奈川県への移住を決意し、左官職人に。母さんは私が小学校へ上がるまでは専業主婦、それからはパチンコ店でのアルバイトを始めた。


 お互いに一歩も譲らぬ頑固者で、一度ひとたび意見が食い違ったり、気に入らない提案をされると頭ごなしに否定する癖がある。離婚したらいま住んでいる街から引っ越してしまうかもしれない。二人を繋ぎ留めているのが私だとしたら尚更だ。現実世界に戻ったとき、既に両親が離婚していて、二人とも元の家にいなかったらどうしよう。どっちかの家に転送されて慣れない土地で新しい生活をするのも不安。もし引っ越し先の人たちの記憶が操作されて、私に親しく接してくれても、それはそれで怖い。


 だけど、私が何より望むのは、家族円満なのだ。低学年までの頃みたいに家族で近所の水族館やショッピングセンターに出かけられたら嬉しい。だけどそんな夢、叶いっこない。


 頬を伝い口中に入り込んだ滴が、心なしか塩辛い。


 現実世界に戻って、何かいいことあるのかな。両親の不仲もそうだけど、教室で目立つグループにいる私は、いつもその集団に交じってファッション雑誌を眺めてこの服はどうだとかモデルさんが可愛いとかイケメンとかありきたりな話題で盛り上がって、それはそれで楽しいけど、実は漫画やアニメが好きだなんて知れたら周囲にドン引きされるんじゃないかって、かなり不安だったりする。かといって開き直ってサブカル好きのグループの中に入るのも相性が悪くて気が滅入りそう。どっちのグループにいても、本当の自分をさらけ出せそうにない。


 でも、沙雪は違った。趣味を自然な流れで打ち明けられたのはもちろん、沙雪の部屋で会話をしているとき、すごく気楽だった。なんでだろう。まだ知りあって日が浅くて、お互いどっぷり触れ合ったのは今日が初めてで、突然この世界に飛ばされて不安そうなオーラが漂う沙雪を元気付けるために、私も色んな想いが巡って疲れていても平常時のハイテンションで振る舞ったり、気を遣うこともあるけど、時の流れが二人を自然な和にしてくれたらいいなと思う。


 天井を仰いでいた頭を項垂れさせると滴の塩辛さはなくなり、沙雪を待たせているうえ、水資源が貴重な土地でアケミおばさんや地域にも悪いと思ったけど、トリートメントを流すのに時間がかかるとか言い訳を浮かばせながら、しばらくそのままの体勢で何も考えず、口から気を抜いた。


 しばらくそうしていると、ふと一つの案が浮かんだ。


 まず、ゲームをクリアしたらボビーに両親が離婚しているかを訊く。離婚していたら、沙雪の家の子どもになる。きっと沙雪の両親はうちにはこんな子いませんと言うだろう。だからそれを防止するためにボビーに多額の献金けんきんをして記憶を操作してもらうのだ。そして階上はしかみ家の子どもとなった私は毎日好きなときに沙雪をもぎゅもぎゅべろんべろんして、幸せな暮らしを始めましたとさ。めでたしめでたし。


 冗談はさておき、この世界にいる間は沙雪とずっと一緒。びゅひぇひぇひぇひぇひぇひぇ、あれもこれもやり放題と思ったら、なんかたぎってきたあああ!!

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 次回、大切なものを忘れていた沙雪が動き出す!

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