水着イベント
「ハイハイひさぶりネー! 覚えてるかい? ボク、ドミニクと」
「ボビーだ。沙雪とはときどき連絡を取っていたが、会うのは久しぶりだな」
黒い競泳パンツを着用しているドミニクとボビー。沙雪、明日香、キャロル、羽心音は彼らが用意した黒いビキニを着用中。沙雪は相変わらずこのような格好に羞恥心を抱いている。
「もう想像はついていると思うが、きょうはここから5キロ先のモンキーアイランドまで泳いでもらう。安心しろ、片道だけだ。復路は船を用意している」
晴れ渡る空、太陽光が反射してきらきら煌めく波間、とろとろ打ち寄せる穏やかな波。おや、だんだん曇ってきた。
そう、ここはスカのビーチ。4人は大人として認められるための儀式を行うと、ボビーに呼び出された。アケミはのほほんと、家でお汁粉を食べている。
「さむさむさむさむマジでアッタマおっかしいんじゃないの!?」
「あうあうあうあうあうあうあうあう、酷い、これは酷いよお。それに私、もう二十歳過ぎてるよお」
「ボビーとドミニク、アンタたち、冗談抜きでぶっ◯すわよううううううう寒い寒い寒い寒い」
気温1℃。明日香、羽心音、キャロルは弱音を吐いている。沙雪は無言だが、何も思っていないわけがない。
◇◇◇
このクソにも満たない非人運営どもが。もう21世紀になって久しいというのに、時代に取り残されたド田舎の拷問の象徴、寒中水泳を強制するとは。現実世界に戻ったら、ボビーとドミニクをここよりもっと寒い吹雪の東北の荒波の中にぶち込んでやる。
「それじゃあさっそく行くぞ、よーい」
パン!
ボビーがスターターピストルを鳴らした。
「うひゃああああああ!!」
穏やかな海に向かって、明日香ちゃんは狂ったように駆け出し、泳ぎ始めた。
「あれ? みんな行かないの?」
声を震わせながら首をガクガク傾げる羽心音ちゃん。
「だ、だって、こんなの、ただの、拷問じゃない……」
と、やはり声を震わすキャロル。
「私は、泳ぎが不得意なので様子見を」
そう、そもそも私は泳ぎが不得意。例え水温の高い夏でも5キロなんて到底泳げない。
そうだ、いいこと考えた。
「キャロル、ちょっと相談が」
「ななななに!?」
ごにょごにょごにょ。
「え!? そんなことしていいの!?」
「しっ、いいかどうかじゃなくて、生きるか無様な死に方をするか」
「生きるわ」
キャロルに伝えたことと同じ旨を、羽心音ちゃんにも耳打ちをした。
「うん、わかった」
そんなことをしている間に、明日香ちゃんは百メートル近く進んでいる。いまが原始時代なら、あの子は強い。
けれど、私のような運動が苦手な頭脳派にも考えがある。
やってて良かった、もふもふライフカンパニー。
「おいキサマら、さっきから何をコソコソしている。早く泳げ!」
ボビーに煽られた。
「はーい、いまから泳ぎまーす」
羽心音ちゃんが余裕の面構えで返事した。
さて、それではそろそろ泳ぎますか。




