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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
弾薬の街、スカ
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沙雪の存在意義

 ブレイブマンを潰す、といってもロケットランチャーを打ち込むなどして物理的に潰すとこちらが罪に問われ処刑されてしまうので、ブレイブマンより優れた通販サービスを提供しようと自室のノートPCに向かって策を練っていたら、朝5時になっていた。作業を始めたのは昨夜23時だったから、6時間も作業していたことになる。途中でホットココアを飲むなどして休憩はしたものの、けっこうな作業時間だ。


「さて、そろそろ寝ますか」


 別室で眠る明日香ちゃんたちは、そろそろ起きてくるころだろう。


 この世界に来て約3年、私たちはなんとか稼いでアケミさんが所有する土地に木造家屋を建て、一人一部屋を用意できた。


 なお、明日香ちゃんは私、キャロル、羽心音はこねちゃんに若干の借金をして住宅購入費を割り勘とした。


 ゴオオオオオオ。


 ベッドに横たわろうとしたとき、地鳴りがした。軍事演習でもしているのだろうか。だがそのような情報は入っていない。まあこの世界のことだから、個人が勝手にドラゴンを召喚して何かしているなどがあってもおかしくない。


 とりあえず、11時くらいまで寝よう。夕方はアケミさんといっしょに食材の買い出しだ。



 ◇◇◇



 眠る時間は刹那に過ぎ、11時になった。私たちはアケミさんのワゴン車に乗って、スカの市街地に出た。


 この弾薬の街、スカの市街地には海岸沿いにヤシの木が連なり、白い砂浜とまあまあ透き通った青い海がある。陸地には個人経営のカフェその他飲食店、日本の商品(現実世界の日本で流通している漫画本やインスタントラーメンなど)を取り揃えた商店、ブティックなどが建ち並ぶ。陽射しが強い街なので、歩道にはルーフがある。


 数百メートル離れたところにはショッピングモール『テラ・スモール』があり、映画館やアパレル、靴、書籍、フードコートなど、現実世界でもおなじみの一つの建物の中で便利に買い物ができる。


「17時までにここの駐車場に集合ね。それまでは自由時間よ」


 道路の中央分離帯にある大きな駐車場。いったい何台駐車できるのか。果てが見えないほど縦長だ。そこで私たちはアケミさんに集合時間を告げられた。ここから家までは5キロから10キロほどはあるとみられるので、置いてきぼりをくらったら何が出るかわからない道を1時間くらい歩いて帰ることになる。


 私たちはそれぞれ別行動で街を散策した。現実世界の課金ユーザーのおかげで発展した街を歩きながら、3年前と現在の差を実感している。


 課金ユーザーのみでなく、私たちも消費活動や開発などでこの世界の経済を活性化してきた。やり込み要素というものだろうか。この世界はどこまで発展するのか。とりあえず、しばらくサービス終了はなさそうだ。


 ショッピングモールに着いた。日本のショッピングモールと変わらない間取りと雰囲気。店内は若い男女で賑わっていて、現実世界でよく見られる子連れの姿は見られない。


 私がまず立ち寄ったのはブティック。現在4月。もうすぐ夏ということで、夏物の服が売り出されている。通販も良いけれど、こうして実際にハンガーに掛けられた服を手に取って、姿見の前に立って合わせてみるのも良い。


「あの、すみません、試着させていただいてもよろしいでしょうか」


 近くにいた店員のお姉さんに話しかけると、彼女は「はい、どうぞ」と快諾してくれた。


 試着室に入った私は、着ていた春物のヨモギ色のシャツ、白いアウター、花柄のロングスカートを脱いで白いワンピースに着替えた。小学生のころに着ていたものとそっくりなデザイン。着れなくなったそのワンピースは、いまでも大事に収納してある。


 そういえば、こうして鏡の前に立って自分の姿をまじまじと見るのはいつぶりだろう。


 ゲームの世界に来て、この世界での自分の存在意義を模索して、当たり前に繰り広げられる武器弾薬や刀剣類を使用した戦闘に強い恐怖心を抱き、ならばこちらもお金を稼いで武器弾薬、刀剣類をつくろう、同じように恐怖を抱く人に少しでも安心してもらえるように、自分で開発したものやメーカーから仕入れたそれを販売しようと通販事業を始めた。


 安心できる生活には日用品も不可欠。食品、衛生用品、娯楽用品など、多種多様な商品を取り揃え、現実世界に近い生活を送れるサービスを提供してきた。


 そしてたまに、治安を乱す者の存在を認めた場合はアケミさんに通報して処分してもらい、高額な情報料をいただく。豊かな資金は心の安定につながる……。


 つまるところ私の存在意義は、安心して暮らせる世界をつくることだ。


 そんな想いで日々通販事業に勤しんでいたら、おしゃれなど、女の子らしいことは疎かになっていた。おしゃれ好きな明日香ちゃんや羽心音ちゃんを見て「いいな」とは思っていたけれど、自分には重大なミッションがあって、そのようなことをしている暇はないと、心を閉ざしていた。


 でも、外見を整えるのも、いいものだな。なんだか気が引き締まって、凛とする。


 もっと前に進めるような気がする。


 ちょっと懐かしいようなワンピースを買って、私は店を出た。まだ時間はたっぷりある。モール内の本屋さんとか、商店街のお店も覗いてみよう。

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