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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
弾薬の街、スカ

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害悪種殲滅施策

「沙雪ちゃんは、もう私がどのような稼業をしているか、理解しているわよね?」


「はい。でも、どうして」


「私はね、20年前、息子を亡くしているの。自殺でね」


 沙雪は、言葉が出なかった。子を亡くす悲しみを想像しようにもできず、ただ悲しいことがあったのだと、受け止めるしかなかった。


「家の近所にあるマンションの廊下に上がって、そこから飛び降りたの。まだ9歳だった。1ミリくらいの小さな虫も殺さない、やさしい子だった」


 ゲームの世界にも吹く、夜の波止場の風。雪こそないけれど、突き刺す冷たい空気は青森とよく似ている。


 私の両親も、私が自殺をしたら、このように悲しんでくれるだろうか。それとも事後処理の費用を支払うだけで今後の養育費が不要になったと、嬉々するだろうか。


 あぁ、できればあと6年くらいは、この世界にいたい。稼ぐ能力を身に付けて、現実世界に戻ったら一人で暮らしたい。


 そのためには、現実世界でこのゲームをプレイしている課金ユーザーにとって魅力的なゲームであり続けなければならない。


「原因は、イジメだった。イジメというていの、脅迫、恐喝、名誉毀損、傷害。ずっと前から学校に行きたくないって言ってたのに、私は行かせてしまった。命を落とすくらいなら、不登校になったって、全然構わないのにね。あの子が死ぬまでそれに気付かなかった私も莫迦ばかだった」


「どうして、行かせてしまったのですか」


 酷な問いだと思った。けれど私自身、いじめられても学校に行かされたので、親の心理が気になった。もっとも、私の親とおばさんとは違う人間だから、すべてが当てはまるとは限らないけれど。


「学校は、行くものだと思ってたのよね。少なくとも高校までは。ここで逃げてしまったら、大人になって社会に出たとき、嫌な人とも上手くやっていかなきゃいけなくなったときに、生き抜いていけなくなるから」


 あぁ、それは、いまつらい現実に直面して、すぐにでも解放されたい子どもにとっては、十二分に自殺の動機となる。


 親が、目の前にいる子どもに、地に足を着けて寄り添えていない。いまが壊れそうなのに、独立していないいまなら、手を差し出せるのに、助けを借りれば強くなれる可能性があるのに、遠い未来にとらわれて、我が子を想ってという大義名分のむちで、追い詰められた子を崖から落としたんだ。


 この人はこれからも、そういう人間として生きてゆくのだろうか。


「だけど、そういうことをして命を絶たず持ち堪えられる子は、きっとほんの一握りもいないのね。私が間違ってた」


 そう、私はその、ほんの一握りもいない一人。


「けどそもそも、いじめをするほうが悪いのよ。どうにかして復讐してやりたい。そう思っていたときだった。家にチラシが届いたの。真っ黒な紙に白いゴシック体の字で、あなたの恨み、晴らしませんかって」


 あぁ、なるほど。このゲームのバックには、国家がある。何らかの被害者やその近しい者に、政府もしくは政府から受託したゲーム会社の人間が、チラシを届けたのだ。


「それで、なんだか怪しいと思いつつ、もう失うものなんて何もない私は、驚くほど冷めた感情で、都内のバーに呼ばれて足を運んた。あのバーは居抜きね。バーテンダーも、酒を酌み交わしたボビーも、知らないおじさんもみんなグル」


 話の筋とは逸れるが、都内のバーに呼ばれたということは、おばさんは東京都以外の関東在住だろうか。神奈川、千葉、埼玉が濃厚か。都内在住者が、わざわざ『都内』と言う確率は低い気がする。どうでも良いことだけれど。


「もう察していると思うけど、このゲームで私が請け負った役目は、いじめ、殺人、危険運転致死傷その他、危険行為を日常的に行っている者の殺処分。日本だけじゃない。世界にはどうしようもないヤツが溢れかえって、司法では裁ききれない。だからといってヤツらを放っておいたら、モラル崩壊で国が滅びてしまう。病巣は取り除かなきゃいけないの。わかるでしょう?」


「ふぅ」


 私は肯定も否定もせず、鼻で息を吐いた。つまりそういうことだ。


 これで、私が手を汚す必要はなくなった。手を汚せば、法で裁かれなくともいつか報いを受ける。けれど私の意志とは無関係に、私を苦しめた者の同類やその他害悪種が滅びるというのなら、これほど好都合なことはない。


 本来ならここで「どんなに恨みがあったって、殺すなんて間違ってる」などと偽善を垂れるべきだろう。けれどそれを言ったところで、このおばさんは応じるだろうか。応じないだろう。


 私刑でなければ、然るべき機関に認められた汚れ役もまた、この世に生きるカルマだ。存在意義だ。


 決して正義では、ないけれど。


 だがこれに本気で抗えば、その者の命はない。


「ものわかりのいい子ね」


「さぁ、どうでしょうか。けれどそれはそうとして、なぜ不動産開発を?」


 敷地内に死体を埋めるためにアパートを建てるとか、建設用途はいろいろと考えられる。けれど先ほど調べてみたところ、おばさんの会社が建てているのは高層マンションやリゾートホテルが中心。埋めるだけならばそれほど大きな建物は不要。これは少しばかり謎である。

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