ものは考えよう
「いいのよ、いつもご苦労さま」
「なんと勿体ないお言葉、大変恐縮でございます」
「さぁ、あなたたちも、おやつにしましょう」
こうして私たちは、おばちゃん、男とともに殺り場でお茶をした。殺人装置がある以外は、いたって普通の森の中。木々に囲まれ、青空が見える。
ただし装置の中では、法の下に生かしては世界の治安を維持できない不安定要素たちが液状化されている。
そう考えると残酷ではある。けれどよく考えてみよう。
水辺では鳥が魚を丸呑みして体内でじわじわ溶かし、夏はアブが虫を捕え、鋭い針で捕食対象の体内に消化液を流し込み、溶けて液状化した内蔵を吸入しているではないか。
このゲームをプレイしているユーザーの家でもいまこの瞬間、家蜘蛛が黒いGを捕え、体液を吸入しているかもしれない。
つまり、そういうことだ。
無論、善人が被害に遭っているというならば、救助すべきである。しかし今回はそうでない。サルから受けたリゾート開発を阻止する依頼については別個に考えるとして、私たちにはいま、おばちゃんや男に抗議し、戦闘を仕掛ける理由がない。
「ふぅ、おいしいローズヒップティー」
思わず声が漏れた。ダマスクローズエキスの自然で華やかな甘み、ダージリンのほのかな香り。
「そうでしょう。スコーンもあるわよ」
「わーお、やったあ! 久しぶりのおばちゃんのスコーン!」
明日香ちゃんも大層喜んでいる。おばちゃんは料理上手で、特に夕食のミートパイは絶品だった。サクサクしたパイ生地の中に、胡椒を混ぜたミートソース。
きょうのところは依頼を履行できなかったものの、私たちは無事、おばちゃん、男とともに森を出て、陽が落ちるころには本土に戻れた。
殺り場は、交代でやってきた別の男が見張っている。
弾薬の街、スカは大人の港町でもある。軍港には暖色照明を灯した現役の艦艇が停泊し、見上げるほどに大きなオブジェとなっている。
冬の乾いた風は容赦なく私のもち肌を突き刺して、吹雪く青森の厳寒を彷彿させた。




