為替相場
モンキーアイランドに上陸した私たちは船を漕ぎ疲れたので船着き場すぐのカフェでひと休み。櫓とプレハブを組み合わせたシンプルな構造で、ドリンク類やタコライス、ネイビーバーガー、ラーメンなどのフード類が充実している。
日本人3名はパティー三段重ね、トマト、サニーレタス、とろけるチーズを挟んだネイビーバーガーを、キャロルはタコライスを注文した。
質素で狭い店内に設置された折り畳みのテーブルと椅子は古き良き日本の食堂そのもの。
「ネイビーバーガーがなんと90ペイ! ベリベリ安いねー! 月給9千ペイのわたしゃ大助かり!」
「あー、明日香ちゃんまだ気付いてなかったかー」
羽心音ちゃんが哀れむ目で明日香ちゃん見る。
「ん? 何に?」
「90ペイのバーガーって、別に安くないんだよ。ね、キャロルちゃん」
「そうね、普通の値段だと思うわ」
「そりゃキャロルは元々この世界の住人だからそう思うだろうけど、現実世界じゃ安くても百円するよ」
「‘円’だとね」
「ん?」
明日香ちゃんはまだピンとこないらしく、首を傾げている。
「ふふふふふー、まだ理解できないようだねぇ」
「うわーなんかムカつくその言いかた」
12歳の明日香ちゃんに対して大人気なく勝ち誇る羽心音ちゃん。歳を重ねただけで精神年齢は対等のようだ。
「この世界の1ペイはね、日本の10円と同じ価値があるのだよ!! だからこの90ペイのバーガーは日本だと9百円くらいで、明日香ちゃんの月給は9万円くらいになるのさ!!」
「なっ、なんですとおおお!! じゃあ私安月給じゃないじゃん超リッチじゃんうひょーい!!」
そう。羽心音ちゃんの言う通り、為替相場は概ね1ペイあたり10円。私もこの世界に来たばかりのころは安値と錯覚して食の安全を疑いもしたけれど、自らビジネスを始めてそういうことだと気付いた。
とはいえ明日香ちゃんの月給はあまりにも安過ぎる。彼女自身が満足しているなら良いけれど、このまま何も考えず、手を打たずに労働者人生を続けていたら悪質な経営者に都合良く使役され、食い潰される未来が待っているだろう。もちろん年金だって生活に必要な分を支給されず、納めた分はいまを生きる老人に吸い上げられるだけ。
明日香ちゃんは本当に、そんな人生で良いのだろうか?
私はイヤだ。だからこそ通信販売業で薄利多売を繰り返し、コツコツ積み上げたお金で武器を製造。自己防衛はもちろん、それを闇組織へ横流しして更に利益を得る。また、悪人の弱みを握って口止め料をいただく。それに応じない場合は警察に突き出して賞金を得る。ハイリスク・ハイリターン。スリルたっぷりの人生。
それには大きな不安や恐怖を伴うけれど、平平凡凡な生きかたをしていたら、この世界でも現実世界でも貧困が待ち受けている。
さて、明日香ちゃんには申し訳ないけれど、今回この島でのクエストは私にとってお遊びに過ぎない。
サル退治という名目で島内を歩き、他の子たちが討伐に勤しむ中、私は常緑樹からあふれる木漏れ日を浴びたり、澄んだ空気を吸うなどして汚れた心身を清めようと思う。
皆の者よ、食べ終わったらせいぜい頑張ってくれたまえ。
お読みいただき誠にありがとうございます。
ちょうど1ヶ月ぶりの更新となりました。
あまり早い更新とはいえませんが、引き続き間隔短縮を図ってまいります。