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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練

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ブラックに立ち向かえ

 世の中にはなんて純粋な人がいるのだろう。


 汚れた面子のパーティー、汚れた家族、汚れたクラスメイト。低俗な人間関係の中で育った私にとって、先ほどの少年はあまりに純朴で、利用価値があると思った。


 一人旅を好む彼はどこまでも世界の美しさを信じていて、話し合えばどんな相手とでも理解し合えるとかなんだとか到底無理な理想論を並べ立てたので、では不幸な人がいるのは何故? と私が問うと、彼らは世界の美しさを知らないんだと答えた。


 では、美しさを知るためにはどうすればいい?


 旅に出るんです!


 旅には何が必要?


 冒険心と少しのお金です!


 その少しのお金が、きっと彼らにはないのです。


 こんな感じの会話を私は彼とした。


 明日香ちゃんの愚痴を聞き、私がこの世界にいざなわれたプレイヤーの平均収入を調べてみたところ、役所やインフラ事業者など一部には好待遇な組織があるもののそこは採用基準が厳しく、他は概ね彼女と同程度の超低賃金だった。


 法律について調べたところ、明日香ちゃんはほぼ最低賃金で違法ではない。他の企業に関しても法ギリギリのグレーゾーンが多かった。


 そこで結成しようと思ったのが、労働組合だ。


 労働組合とは、労働者の雇用を守り、満足できる賃金を確保するなどの役割を持った組織で、組合員は運営者に組合費を支払い、団体交渉などの組合活動に参加することで、自らが労働する企業や組織に待遇、賃金改善を訴求そきゅうできる。


 そう、私の目当てはその組合費だ。


 不満を募らせた労働者から少額の組合費を徴収し、それを武器調達資金に回して有事に備える。


 もちろん労働組合の長として私は不当労働やそれに近い最低賃金ギリギリの行為を断行する組織の粗を探して弱みを握る。組合をつくろうと思い立つ前からあらゆる組織の裏事情は探っていたから、労働者の所属先によっては迅速な対応が可能だ。


 こうして弱者の味方をしておけば私のイメージはうなぎ登り。尚且つ世の悪が是正されてこのバーチャルゲームはハッピーエンドへ大きく前進。



 ふふふ、完璧だぁ……。



 しかし油断は禁物。労働者の怒りは裕福な者の想像を遥かに上回る大きな力を持つ。もし賃金や賠償金を勝ち取れず組合費を巻き上げるだけの結果となれば、返金を要求されたりクーデターを起こされ命を狙われかねない。


 取り巻きの一人として少年を言いくるめてみたけれど、彼だけでは心許こころもとない。


 もっと取り巻きを増やすか、金銭の支払いに応じなかった経営者を暗殺するか、組織の建物をロケットランチャーで爆破するか……。


 新規事業にリスクは付きもの。いずれにせよ何らかの策を練る必要がありそうだ。


「ねぇ沙雪、お金欲しいんだよね?」


 ほへ? お金のない明日香ちゃんが一体なんの儲け話かな? まさかギャンブル?


 短絡的な発想はかえって損失を招くよて思いつつ、私は「うん」と頷いた。


「じゃあさ、クエスト行こうよ! モンスター討伐でボロ儲けだよ!」


 そういうことをしたくないから穏便なビジネスをしているのだけれど……。


 かといって本当にどうしようもないくらい強い脅威が襲ってきたら太刀打ちできないのも事実。


「うーん、やれそうなものなら」


「よっしゃ! みんな行くぞー! おぉー!」


 超低賃金にヤケを起こしたとみられる明日香ちゃん。他の二人は何か気合い入れてるけど私はどうでもいいやと言わんばかりに素面のまま絨毯じゅうたんに寝そべっていた。

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