ロケットランチャーとイカ臭くなりそうな少女
シックルウェア。そこは冒険者たちが集う武器の街。中心部には銃や刀剣は勿論、ダイナマイトやロケットランチャーといった高額商品を扱う、いかにも中世をモチーフにしたファンタジーらしくボロい店が軒を連ねている。
そんな街の丘の上にある、芝生の広場。東西を崖に抱かれた海を臨むビュースポットだが、それはまぁどうでもいい。
シックルウェアの中心部へ足を踏み入れる前準備と自衛体制を整えるため、沙雪は役所の許可を得てこの広場をロケットランチャーの整備場として一週間借用し、パーティーはここにテントを張って生活している。
ウィイイイイイイン!! ガシャンガシャン! ガンガンガンッ! どぴゅどぴゅっ! シュコンッ!
小鳥さえずるのどかな空間に響く電動工具やハンマーの打撃音。水飲み場の蛇口からホースを引き、広場の隅で工業用洗剤や有機溶剤を用いて分解したロケットランチャーの部品や本体を洗浄。廃水廃油は森の中へ垂れ流し。
念入りに油脂や泥などの汚れやサビを落とし、穴や亀裂のある箇所は免許もないのにまばゆい光が発生するアーク溶接で加修。しかも服装は作業着ではなく半袖の白ワンピ。けれど失明しないよう、左手に遮光用の面を持っている。
修繕に必要な道具の全てを密輸業者から購入し、違法に違法を重ねて整備してゆく。バレたときのため、沙雪は日々警察関係者の弱みと彼らに提供するマフィアの情報を収拾している。そんな沙雪の姿は心なしかイキイキしているようで、あれはあれで一つの生きる道だと、ロケットランチャー整備現場から少し距離を取って見守る明日香、キャロル、羽心音の3人は特に咎めない。自らの行いに起因するすべては自己責任という暗黙の了解に基づいて。
「あ~、テント生活飽きたわ~。近くに綺麗なお姉さんでもいればエキスを吸いに行くんだけど」
「仕方ないわ。お金さえあればホテル住まいやウィークリーマンションでも借りられたでしょうけど、アンタが向こうの世界でやってたっていう砂浜に打ち上げられたイカを拾って丸焼きにして食い繋いでいる現状では、栄養失調になっていないだけでも儲けものよ」
「二人はまだ小学生だからいいよね。私なんかイカ臭い女になったら15歳っていうお年頃的に色々困る」
「年頃なんて関係あるの? イカ臭いなんてみんなヤじゃない?」
「そっか、明日香ちゃんはエロいわりにピュアなんだね」
「ん?」
「いいのよ明日香。私も羽心音が何を言いたいのかよくわかんないけど、きっとまだ知らなくていいことなの」
「ふぅん。でもこのままイカ暮らしってわけにもイカないし、なんとかしなきゃね」
「そうね、イカだけ食べていたらいずれはゲッソりしてしまうわ。どうにかしてお金を稼いだりバランスの良い食生活を送る術を見出ださなきゃ」
「ていうかさ、私たちは武器を買わなくてもいいの? 私なんか楽器とマイクしか持ってないんだけど」
羽心音は駄洒落をスルーして話題を武器に切り替え、それにモヤッとした明日香は塩対応で投げやりに言葉を返す。
「あぁ、いいんじゃない? 音楽で世界を救えば」
「どっかで聞いたことあるようなスタンスだけど、まぁいっか! お金貯まるまでは頑張って音楽で切り抜けよう!」