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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練
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さよならアキアカネ

 武器調達で頭がいっぱいの沙雪、行き当たりばったりで野宿した明日香と羽心音、とりあえず食わせてもらえれば良い雇われ人のキャロル。存在意義追求ゲームという趣旨は一応頭の隅に入れつつも、野宿をしたり隔離施設に収容されたりで時間を浪費してしまった。


 いつまでも冒険を進めずにいるとサービス終了という世界の終わりを目の当たりにし、ゲームオーバーで命を奪われ兼ねないので、そろそろラチエンコーストを出てシックルウェアを目指す。


「あばよ、達者でな」


「今までありがとうね」


 シックルウェアへ続く林道で、アキアカネ夫妻は一行に別れを告げた。


「そっか、ここが目的地だったもんね。元気でね。ばいばい!」


 明日香の言う通り、アキアカネ夫妻はラチエンコーストにある故郷の池まで同行する約束で、現在地がそこに近いエリアだという。


「大変お世話になりました。お二方のおかげで前向きな冒険ができそうです」


「じゃあね。お幸せに」


「ちょっとの間だったけどありがとうトンボさん!」


 常緑樹で鬱蒼とした森に切り取られた青空へ、各々から別れの挨拶を受けたアキアカネ夫妻は連結しながら飛び去った。


「あー、なんかうるさいのがいなくなって腑抜けた感じがするなー」


 夫妻の姿が蒼穹の彼方へ消えるのを見届けた一行は、シックルウェアへと再び歩き始めた。


 11月中旬の涼しい気候は歩き旅にはとても快適だが、調子が良いからと長時間歩き続けると体力が果てやすくなる。そこで一行は数キロ先にあるウェイサイドシュラインマリンパークという、その名の通り海辺にあるだだっ広い芝生の公園で休憩を取る。公園はいま歩いている林道沿いに位置し、マリンパークでありながら四方を木々に囲まれているため、海は見えないという。


「ピギャー!」


 静かな林道を歩いていると、先ほどまで一緒にいた尋常ではない大きさ(50センチくらい)のアキアカネより少し大きいすずめと同じ模様の鳥が上空から突如飛来し明日香の頭上を霞めた。おそらくスズメで間違いないので、以下『スズメ』と呼ぶ。


「わあっ!? なんか上から飛んできた」


 スズメは旋回の後に着陸すると、翼を大きく広げてパーティーの前に立ちはだかった。


「ここを通りたかったら俺を倒してから行きな」


「あぁなるほどオーケーオーケー状況は読めた。要するにこれ、RPGで始めのステージの草むらとか森に登場するザコキャラだ。てっきりスズメバチがそうなのかと思ってたけど、ただのスズメもいるんだね。あとはネズミでも出てくるのかな?」


「明日香ちゃん、いまロケットランチャー使えないし、こういうのをまともに相手しても時間と体力の無駄になっちゃうよ。キャロルちゃんを使役しえきしたらパーティーのエンゲル係数が上がるから、ここは適当にあしらって逃げておこう」


「エンゲル係数? あぁ、なんか聞いたことあるかも。まぁいいや、めんどくさそうだしとりあえず逃げよっか」


「なんだお前ら逃げるのか? 俺様に恐れをしたか?」


「逃げる? アイドルは目の前の試練から逃げないの!」


 パーティーで唯一羽心音だけは闘う気満々。ボクシングよろしく身を小刻みに揺らしながらファイティングポーズをとっているが、グローブも他の武器も所持しておらず、最年長メンバーにして一番のザコ。


「あらそう。なら羽心音、あなた一人で相手してちょうだい」


「それは面倒だからやめとく! よく考えたら動物愛護法違反になるかもだし!」


「あぁ!? 自分らナメとんのかコラァ!」


「わかったわかっためんごめんご! これあげるから勘弁して!」


 言って、明日香はパン屋の裏でこっそり拾った食パンの耳をスズメに投げ与えた。


「ぴちゅー! ちゅんちゅんちゅんちゅんウマイちゅん!」


 スズメは野太い声で歓喜しながらパンの耳をついばみ始めた。パーティーはスズメが夢中で食事をしている隙に逃げ出したが、その後、DQNドキュンと呼ばれる類であろうインテリ気取りの若い男に呼び止められ、聖剣や銃でバトルを仕掛けられたが、これまたまともに取り合うと面倒なので最年長の羽心音が警察を呼び、殺人未遂の現行犯で逮捕してもらった。


 そんなこんなで2時間後、だだっ広い公園に到着。本来は1時間もあれば到達できる距離だが、足止めを食らったせいでタイムロスが発生した。


 園内には幅平均10メートル長さ30メートルほどの池があり、羽心音の身長より少し高いところを十数頭の見知らぬアキアカネが無言で飛び交っている。


 ここでハロウィーンのときにアケミからもらったパンプキンパイの出番。2日間も常温保存しているのに傷みが見られない。


「うぉ、オーマイガー。なんかお腹痛くなってきた……」


 しかし30分後、明日香だけは原因不明の腹痛を発症し、その場に倒れしばらく悶えた。


 そんな明日香を横目に、清らかな風が撫でるように吹く秋の公園で、沙雪の闇取引は順調に進む。安い代金を支払うと、さっそくいくつかの非純正部品が業者のサーバーを介してダウンロードされた。


 そのとき、ジャポン! と池に何かが落ちる音がした。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新が遅くなりまして申し訳ございません。

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