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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練
33/84

不遇は悪事のタネ

 くっ……、なんということだ。蜻蛉とんぼに噛まれた程度で脳天を貫くほどの激痛に見舞われるとは。これではこの先、猛獣やファンタジー世界ならではの訳のわからないモンスターに攻撃されたら命は無い。ロケットランチャーは老朽化して不調だから修理しなければならないし、マシンガンや化学兵器など、あらゆる戦況を想定して多種多様な武器を揃えなければ。実際の戦闘は想定を上回る事態になるだろうから、最善を尽くすに越したことはない。


 戦闘訓練が乱闘に発展し、互いの闘争心から仲間割れした挙げ句、これ以上は命の危険を招くと判断したアキアカネ夫妻に腕を噛まれ負傷した沙雪とキャロルは、治療のため病院に搬送されたが、精神状態が安定するまでは野放しにすると極めて危険と医師に判断され、それぞれ外側から施錠された個室にぶち込まれた。


 だが根っからの過激思想の持ち主である沙雪にとって、一人きりの薄暗い部屋は武装強化の作戦を練るにあたり最高の環境だ。コンクリート剥き出しの白色電球が一個だけ垂れ下がるいかにも牢獄ろうごく的な隔離病棟の一室で、沙雪はひとり戦略を企てる。


 現在の私たちの財力で冒険を進めるのは自殺同然。まして最初は威勢の良いことを言っておきながら、いざフィールドに出ればどうしようもないチキンだった明日香ちゃんを連れての旅だ。やんちゃだけど優しいあの子だから、敵に情けをかけたり、非武装を貫き通して一方的に攻撃を受ける可能性も十分に考えられる。戦況を不利に運ぶ行動に出ぬよう、猿轡さるぐつわやロープなどの拘束こうそく具を用意して、戦闘の邪魔になるようならばいつでもからだの自由を奪えるようにしなければ。


 戦闘に必要な道具を揃えるにはいくらかかる?


 ロケットランチャーのメンテを業者委託すると1千万ペイ。さすがに簡単に稼げる額ではないから、密輸業者から部品やオイルを安値で仕入れ、自分で整備オーバーホールするしかない。


 密輸業者は既に調査済みで、お金が貯まり次第、必要物品を適宜てきぎダウンロードしようと計画している。


 ゲームの世界にもこのような裏組織が存在するとは。


 完成したばかりのゲームで政治体制が整っていないこの世界のシステムは隙間だらけで、現実世界から頭脳派の悪党が転生されれば、ゲーム会社の目を潜り抜けるネットワークが瞬く間に構築される。しかし無論犯罪行為。バレたときの裁きを最低限に抑制すべく、ゲーム会社や警察幹部の弱みを握って彼らと仲良くしておかなければ。


 それと同時に資金調達も進めなければ。お金が無ければ保釈金も払えない。


 ……!


 そうだ。秘密組織と公的機関を繋ぎ、尚且つ資金調達が可能な手段といえばあれだ。そう情報ビジネス!


 単にゲーム会社や警察幹部の弱みを握るだけでは、私は抹殺されるかもしれない。しかし密輸業者ほか、秘密組織の動向に精通し、必要に応じて情報提供する代わりに報酬を得られれば、これは立派なビジネスになる。しかも情報は剣や銃のように実体のあるアイテムよりハードディスクの容量を必要としない。つまり、ハードディスクを買い足す必要性を最小限に抑えられる。漏洩ろうえいを防ぐにはセキュリティー対策も必要だけど、それが面倒ならば自分の脳内に叩きこんでおけば漏洩防止になる上コストも浮いて一石二鳥!


 しかも情報というものは、いくら売っても消費するのはそれを伝えるために使う自らの体力だけで、同じものを売る分には材料調達を要さない。更に、販売のみでなく自分の生存戦略にもなる。正に良いことずくめ。


「ふふふふふふふっ、コレだぁ……!」


 隔離病棟の一室に響く少女の不気味な声。不遇な扱いをするとその何倍もの悪巧わるだくみをする女。それが、階上はしかみ沙雪さゆきだ。閉じ込めるなら病棟ではなく、リゾートホテルの最高級ルームにするべきだった。

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