明日香、角界へいざなわれる
ぶゅいひぇひぇひぇひぇ! トンネルを抜けたらそこはナマ脚パーラダイス!! 綺麗なお姉さんたちのナマ脚を眺めながら砂に埋もれて日光浴する真夏のビーチびぇふぇふぇふぇふぇふぇ……。
左を向けばビキニのお姉さんたちがビーチバレー。右を向けば全裸のちっちゃい男の子が波打ち際にぞうさんをむけながらジョビジョビジョバジョバしてる。右を警戒しつつ左だけ向いていよう。
ん? なんか地鳴りしてる。地震かな? あれ? 沙雪もキャロルもアキアカネもいない。そもそもなんでビーチにいる? さっきまで何処にいたんだっけ? おや、なんか目眩がして意識が遠退いてゆく……。
「のこった!」
歌舞伎役者みたいな声。何が残ったんだろう。ん~、今度は意識が戻ってゆく感覚が。それに地鳴りがどんどん大きくなってきて、正体は地震ではなく動物が地を踏む音と判るくらい発生源が近い。そのせいか人々は大声を出して騒いでいる。早く逃げないと動物に踏み潰されるかもしれない。
そうだ! さっきまで戦闘訓練してて、私はサイコキネシスでアキアカネに倒されたんだ! ならこの足音は沙雪とキャロル?
よし状況が呑み込めた! ナマ脚パラダイスが夢だったのは残念だけど、起きて観戦といきますか!
「あれ? なになに何これどういうこと!? ホワッツハプン!?」
踊るナマ脚、舞う土埃。尻の割れ目に食い込む布地。
目覚めた明日香の視界に広がるのはなんとリアルナマ脚パラダイス! 陽が傾き空は紅に染まろうとしているこの時間、まさに相撲の取組真っ只中! 明日香の寝転んでいた場所はアキアカネが契約した貸し時間を超過し、大相撲の会場と化した。
「のこった! のこったのこった!」
歌舞伎役者みたいな声の主は行司(審判)か。うわ、観客は何百人いるんだろう。すごい数の歓声が土俵に投げ掛けられてる。力士、行司、観客の三位一体で熱気を帯び震える感覚を体感。私だけ超特等席じゃん。土俵の中で観戦なんて、普通は力士か行司にならないと見れないよ。よし、ここは私も取組を盛り上げなきゃ!
「へいへーい! みなさん楽しんでますかー!? さぁ名も知らぬ力士たちの血沸き肉躍る闘いがいま、目の前で繰り広げられています!! おーっと紫のまわしをした力士が張り手で押されているうう!! このまま黒まわしが押し切ってしまうのか!! 粘れ粘れネバーネバーギブアップ!!」
行司と対面する位置で機敏にからだを動かし実況する明日香は、傍から見ればただのクレイジーガール。
「うるせーぞガキは引っ込んでろ!!」
「なんで土俵の中にいるの! 邪魔だから早く退きなさい!」
「こっちが聞きたいよ! なんで寝てる私をほったらかして相撲始めるのさ! 綺麗なフィールドで安全な興行をするためにゴミが落ちてたら拾う! これ常識!」
観客たちのバッシングに反論する明日香。土俵として使用する契約を結んだ座標に寝転んでいた明日香の撤去を面倒と判断した主催者は、そのまま芝生に円周状の白線を引き、取組を始めたのだ。力士のナマ脚がぶるんぶるん踊り狂い、対戦相手に突き飛ばされビキニならぬまわしが食い込んだ大きな尻が明日香を目掛けてダイブ!
「わあああお!! オーマイガーあああっ!!」
紫まわしの力士が飛んでる。まるでスローモーションみたい。目覚めたらいきなり自分の3倍くらいある巨体が降って来る。驚きで開いた口が塞がらないよ。私、数秒後には圧死するんだ。命って儚いなぁ。どうせ死ぬなら露天風呂で沙雪とキャロルを襲ってメッタメタのギッタギタにされたほうが良かったな。今更後悔。
直後、弾け飛ぶ汗と土埃を浴びた明日香だが、力士は明日香の横を掠め尻餅をつき、押し潰されずに済んだ。
取組終了後、お詫びのしるしにと、明日香は主催者から力士の食事会に招待され、ラチエンコーストの中心部に構えるちゃんこ鍋の店へ連れられた。
「今日は悪かったね。私の悪ふざけが過ぎた」
ワイワイガヤガヤと力士たちが談笑する声をBGMに、上座で主催者であるこの世界の相撲協会長の横でちゃんこ鍋をふーふーはふはふ冷ましながら口へ運ぶ明日香。角張った黒い肌の貫禄に満ちた会長だが、明日香は怯まず、「悪ふざけだったの!? マジで死ぬとこだったよ」と呆れ顔で返した。
「まぁまぁ、生きてるんだからいいじゃないか。それに相撲、面白かったでしょう?」
「誰かさんのおかげで超特等席だったからね! そういや相撲って、この世界でも有名なの?」
「この世界ってことは、君も現実世界から連れられたんだね。私もそうだ。私は現実世界ではちょっとお金を持っている単なる相撲ファンの一人に過ぎなかった。だからこの世界でも相撲を観たいと思って協会を立ち上げてはみたものの、わざわざ太って闘おうなんて人はなかなか集まらず、力士は元々太っていた数人だけの組織だったんだ。だがね、門下生募集の宣伝文句を工夫したら、徐々に人が増えてきたんだ。どんな文句だと思う?」
「うーん、‘協会に入れば世界最強!’ とか?」
「うん。確かに世界最強を目指せみたいなことは書いたんだけど、それだけじゃない。他に人間が本能的に求めていることを書いたんだ」
「わかった! ハーレムだ! 協会に入れば真夏のヌーディストビーチで稽古ができて、綺麗なお姉さんに背中を流してもらったり添い寝してもらったり、妄想するだけでニヤニヤが止まらんにぇへへへへ」
真面目な話をしていた会長だが、明日香に釣られて強面が欲望に侵食され、スケベオヤジと化しているのを、力士たちはどんちゃん騒ぎをしながらもしっかり目に焼き付け、見て見ぬフリをしていた。
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更新が遅くなりまして申し訳ございません。
なお、読みやすさ向上のため、今後投稿する話の文章の工夫、既に公開している作品の改稿を行います。