表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練
30/84

醜い女の闘い

 魔法少女に対して能力者でない私が汎用な武力や魔法攻撃による勝利は難しい。そこで私が考えたのは粉による攻撃だ。粉ならば一度飛散させれば風に乗って広範囲に影響を及ぼせる。いまこの手に持つ黄色い粉をたっぷり詰め込んだビニル袋。これをなるべく至近距離でキャロルにぶち当て、いかに体液を噴き出させるかが勝負だ。


 よし、さっそく作戦を実行しよう。考え込んでいるうちに攻撃を仕掛けられ、まともに受けたら今度こそ立ち上がれない。



◇◇◇



 攻撃の機会を窺う沙雪が持っている粉入り袋。粉はとても厄介な代物で、風で対抗すれば飛散、炎で対抗すれば粉塵爆発、水でも物質によっては化学反応を起こして爆発する。


 これは、逃げるしかないわね。相手に背を向けてひたすら逃げるのも戦術の一つ。股間が擦れるし不安定だけどほうきまたがって逃げましょうか。絨毯では放水器か火炎放射器で撃墜げきついされかねない。箒なら絨毯より占有面積を小さくできるし小回りが利く。


 沙雪の立ち位置、真正面約50メートル、明日香は11時の方向に約60メートル。厄介ね。この立ち位置で明日香を拾うには沙雪の近くを通過しなければならないから、明日香の転がる場所から沙雪が離れるようにおびき寄せ、高速移動と急降下で明日香を拾いましょうか。


 キャロルは明日香を拾って箒に吊るし、沙雪の攻撃から逃れるビジョンを一瞬で描き、1秒後に実行する。


「あっ……」


 自分の股下に箒を呼び出したキャロル。箒が自動で急上昇し股間を直撃。変な声を出し衝撃で振り落とされそうになったが、両手で柄をがっしり掴み体勢を立て直す。地面山々青空山々、宙返りで7時の方向へ逸れ視界に広がる景色は一秒四様。


 風を受けてめくれる衣類にガクガク横揺れする箒、全身にかかる風圧に打ち勝ち、50メートル先の明日香へ一気にダイブ!


「なあっ!?」


 なんで沙雪が!? 敢えて後退して引き付ける筈だったのに!



 ◇◇◇



 明日香の横に粉入り袋を掲げヒッチハイクのポーズで立つ沙雪。キャロルが後退した瞬間、沙雪は察した。


 圧倒的な戦闘能力を持つキャロルなら正面から私を目掛けて攻撃すれば一撃必殺など容易。けれど敢えて後退。


 ふふ、あなたは悪になりきれないのね。ツンデレキャラというのは概ねお人好ひとよし。一度後退して私を誘導、私と明日香ちゃんを戦闘に影響しない距離まで引き離して攻撃を仕掛けるか、箒の速力を活かして明日香ちゃんを拾い上げる算段とみた。


 ならば私は敢えてキャロルを追わず、明日香ちゃんとの距離を更に詰めて攻撃しにくい状況を作り出す。こうするとキャロルは良心の呵責かしゃくにより攻撃を見合わせる、または私が明日香ちゃんの真横にいると気付かず急降下して来るという2つのケースが想定できる。結果は後者となった。


 さぁキャロル、飛んで火にいる夏の虫の如く粉袋に突っ込むが良い。ふふふふふ……。



 ◇◇◇



 きゃああああああ!! ぶつかるぶつかるぶつかるぅ!!


 みるみる迫る粉袋と、ポーカーフェイスながらどこか勝ち誇ったオーラの沙雪。一瞬の出来事がスローモーションのよう。直後、キャロルは沙雪の粉袋に顔面から激突した。


「ぶふぉああっ!!」


「ぬわっ!?」


 キャロルを確実に攻撃するため激突の瞬間まで粉袋を手放さなかった沙雪も衝撃で後方へ飛ばされ全身を強打。袋が裂け一面に舞う粉塵を避けられる筈はなかった。先ほどの放水攻撃もだが、沙雪の作戦は詰めが甘い。粉塵から逃れたのはアキアカネ夫妻のみだ。


「やってくれたわね……」


 粉の作用でキャロルと沙雪は目鼻口からおびただしい量の体液を噴出し、咳き込みながら鼻を擦っている。それが更にかゆみを悪化させ、半ば混乱状態。



 ◇◇◇



 くっ……、キャロルが衝突したときの力に逆らわず素直に粉袋を手放しておけば症状は少しマシだったかもしれない。


 そんな思考に至った沙雪だが、すぐに何も考えられなくなった。


 うああああああ!! かゆいかゆいかゆいかゆい!! まさか林業会社直売の花粉ミックスがこんなに効くとは!! これならキャロルも錯乱状態のはず!!


 さぁ、苦痛に歪み体液を噴き出した無様な姿を見せてもらおうか!!


「くぉぬぉおおお!!」


「んぬんっ!?」


 瞼の周囲を消防用ポンプから滴る水を付けた指で拭い思考回路を復旧。閉じていた瞼を開こうとしたとき、怒鳴り声が聞こえた直後、頭頂部に何かが衝撃して激しい痛みが走った。続いて息つく間もなく頬を何度も殴打され始める。


「このっ、このっ、くぉぬぉおおお!!」


 これは間違いない。私、魔法少女にステッキで殴られている。魔法少女のくせに物理攻撃とは生意気な。瞼は開けないが、一人で留守番をしていたときに自室で過激な悪戯いたずらを繰り返し、お父さんに何度も叩かれているからなんとか耐えられる。


 特に酷く怒られたのは1年前、消火器で壁一面にスプレーアートを施したとき。消火粉末が濃いピンクなのでハートをモチーフに有名なネコのキャラクターを模写したけれど、発見した途端に両親揃ってゴシゴシと無情に拭き取られてしまった。仕事を理由にいつも子供を一人ぼっちにしておくからこうなったというのに彼らはまるで理解していない。あの出来事、とりわけ絵を拭き取られている最中の様子は心の傷として一生残るだろう。


 あの時の私は、心を込めて描いた絵を守れなかった。


 さて、そろそろステッキをキャッチしようか。


「きゃあっ!?」


 沙雪は振りかざされているキャロルのステッキをキャッチし遠心力を利用して素早くキャロルを投げ飛ばし、地に叩きつけた。ステッキを奪った沙雪は涙と鼻水をダラダラ垂らし、無我夢中でキャロルの顔面をべふべふとはたくように殴打する。両親からのトラウマが手伝い、息は一層荒ぶり力も増している。 


 んん!! んん!! んんんっ!! 5歳上の強力な殴打に悶えるキャロル。7歳と12歳の筋力は天と地の差。


「おいもうやめろ! これじゃただの乱闘だろ!」


 醜い女の闘いを見かねた雄のアキアカネが忠告するが、二人はまったく聞き耳を立てない。


「仕方ない、やるぞ」


 アキアカネは妻に促し、雄はキャロルにのしかかる沙雪を取り払い、雌はキャロルのもとへ飛来し取り押さえ___。


「「ぎやああああ!!」」


 かつてない激痛に悲鳴を上げる沙雪とキャロル。アキアカネ夫妻の鎌のような二本のきばに腕を噛まれ、二人は卒倒した。


 数分後、アキアカネ夫妻は死んだ魚の目をしてすっかり動かなくなった未熟な戦士たちを近くの病院へ搬送した。サイコキネシスで気絶し花粉の影響で鼻水を流しながらも未だナマ脚パラダイスを夢見てニヤニヤしている明日香を置き去りにして。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 執筆端末新調の影響で更新が遅れました。誠に恐れ入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ