アンタは私が護ってあげるわ
キャロルの電撃魔法により一度倒れた沙雪だが、このまま敗北を認めるのはプライドが許さないと、激しく痺れるからだを時計の分針のようにのっそり起こした。
弱冠七歳の小娘にわずか十数秒で倒されるとは。旅を始めたときはパーティーの主導権が明日香ちゃんにあったけど、いざ戦闘になると彼女は物怖じして私がリードするようになったと思いきや、何処からともなく現れた見知らぬ少女に早くも座を奪われてしまうというのか。
「ふふっ、ふふふふふ……」
なにを思ったか、沙雪は五本の指を筒状に丸めた手を口元に当て、不敵な笑みを浮かべ始めた。表情は普段と変わらず嫋やかだが、今回は微かに身を震わせ、笑っている時間が長い。
「な、なに? どうしたの?」
「ナマ脚パラダイス……」
「アンタじゃないわよ明日香! 気絶してるのによく会話に参加できるわね」
キャロルが明日香に気を取られている間に、沙雪はチョークのように黄色くキメ細かい粉が入ったボウリング球ほどの大きさのビニル袋を端末から呼び出した。
「あら沙雪、粉塵爆発でも起こす気?」
キャロルが問うも、沙雪は黙ったまま微動だにしない。しかしその眼は明らかに獲物を狩る機会を窺う冷静さと鋭さを孕んでいる。
あの粉の正体はなにかしら? 日本で人気のきな粉? ううん、あれはもっと肌色に近いはず? なら黄色い着色料を混ぜた石灰? それとも小麦粉? どれであれ、爆発したら厄介ね。
それにしても沙雪、やるじゃない。戦闘といえば明日香みたいに武器を買って臨む人が多いけど、強力な武器は値が張るから、あまりお金を持っていない現段階では用途の異なる道具を応用してコストパフォーマンスを図るのも有効。ただ武器でない以上『訓練モード』はないから、攻撃を受けたら負傷する。私やアキアカネは避けられるとして、問題は気絶している明日香。ナマ脚パラダイスにいるみたいけど、攻撃食らったら一気に地獄よ。もしそうなったら沙雪は犯罪者として捕まるけど、私に倒されて頭に血が上ってるみたいだから、歯止めは利きそうにない。
まったく仕方ないわね。魔法少女の名に懸けて、明日香は私が護ってあげるわ。




