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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
戦闘訓練

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28/91

戦闘訓練から学ぶもの

「びゅふぇっ、ぶぇへへへへ、ナマ脚パラダイスじゃぐふぁぐふぁおぇ……」


 まだら模様の雲が流れるクリームソーダのような空の下、泡を噴きニヤニヤしながら気絶、痙攣けいれんする明日香をその場に放置し、沙雪とキャロルの試合は場所を移して彼女たちがティータイムを満喫していた場所で行う。コートのない単なる芝生の広場なので、敷地内のどこで試合をしても問題ない。

 

 サイコキネシスを使用して疲労困憊ひろうこんぱいの雄のアキアカネはホバリングをやめ、自らが制圧した明日香の胴体に乗っかって日向ぼっこを始めた。


「訓練だからって手加減しないわよ。怪我しないとはいえ攻撃をうけたときの痛みは実戦と同じだもの」


 50メートルほどの距離を取って向き合う両者。キャロルはステッキを突き付け沙雪に宣戦布告している。


「うん。私もやれるだけやってみる」


 なんと!? 訓練モードでも痛みはそのままなんて私は聞いていない! どこかで説明を聞き逃したか、そもそも説明されていないか。後者だとすれば、日々を実直真っ当に生きている私は知らぬ間に汚泥おでいにまみれた大人の世界に引きずり込まれたということか。警察署での取り調べで舌打ちにより実質容疑を認めた時といい、正直者はバカを見るという不条理が、いま正にキャロルちゃんのステッキとともに突き付けられている。あのステッキ、持ち手に可愛いウサギのマスコットが装着されているけど、対する反対側のはしから邪気を放っているような気がする。モードを間違えたことにして破壊してしまおうか。


「そろそろ始めるわよ。よーい始め!」


 数十秒の睨み合いの後、雌のアキアカネの号令により試合が始まった。


「ファイヤーオブメメントモリ!!」


 ふふ、キャロルちゃん、詠唱魔法とはなんとわかりやすい。メメントモリ、つまり『死を思え』ということは、とても強力な炎系魔法だろう。


 沙雪は瞬時に昨夜購入した消防用放水タンクを呼び出し、「んああっ!!」と唸り声を上げ消防士用の重たいホースを力いっぱい持ち上げ右肩に載せ固定し、キャロルに向かって放水を始めた。この道具は武器ではないため『訓練モード』は存在しない。


「ひゃあっ!!」


 放水と同時に成人男子でもコントロール困難なホースの勢いに振り回された沙雪。


 飛んだ! 私、飛んだ! 芝の緑キャロルちゃん空の青! 水圧で浮き上がり強制的に見せられる刹那の色彩景観。重心を爪先に持って行こうと力を込めるも、それが腰に集中して自らが緩やかな弧を描き空中を舞っているのがわかる。


 沙雪は背面から地へ叩きつけられた衝撃で数メートル転がり、四方八方へ放たれる水により周囲に虹が架かると同時に、滝の如き飛沫しぶきが彼女のからだを容赦なく濡らされてゆく。明日香にとってはたまらないシーンだが、彼女もニヤニヤと気絶したまま飛沫を浴びせられている。アキアカネ夫妻は持ち前の瞬発力でその場から十分な距離を取り無事。そんな中、同じく難を逃れたキャロルはニヤリと不敵な笑みを浮かべている。キャロルは待ってましたとばかりにステッキを全身に激しい痛みが走って動けない沙雪へ向け、無言で魔法を発動させた。


「ひゃああああああっ!! 痛い痛い痛いっ!!」


 死んじゃう死んじゃう!! やだよ、全身が痺れて呼吸がままならない。


 キャロルのステッキから発せられた閃光せんこうはメリメリと地を割るような音を発しながら目にも留まらぬ速度で真っ直ぐ沙雪の腹を突き刺した。沙雪は苦に満ちた表情で小さな口を開いて目を閉じ、涙を流しながら僅かに両手を広げて痙攣している。


 ナメていた。戦闘をナメていた。私がいかに平和ボケしていたか、思い知らされた。実際の戦闘はこれ以上の痛みと精神的なダメージに襲われるだろう。サウナを優に超えるであろう蒸し焼きの戦禍せんかの中で次々と降り注ぐ焼夷弾しょういだんや鉄砲弾、こんなに柔らかい芝生ではなく消し炭にまみれた地で独り、誰にも看取られずに尽きる己の想いは誰にも伝えきれない。


 そうか、命を繋ぎ留め得られた者の中で真の苦を知る者は僅かだから、何時の世も戦乱が繰り広げられ、しかも一部の者は美化さえしてしまうのか……。


「掛かったわね。火を連想させる技の名を詠唱すれば水を放つだろうと読んで、電撃魔法を使ったの。ちなみに『ファイヤーオブメメントモリ』なんていう魔法は思いつきで、存在するとしても私は知らないわ」


 くぉぬぉおおおキィャアロルううう!! 炎魔法と見せかけて電撃魔法を使うとは卑怯な!! しかしこれも己の無知が招いた結果。受け入れつつも、やり場のないストレスが急激に蓄積されてゆく。このフラストレーション、どうぶち撒けてくれようか?


「さ、決着はついたわね」


「まだ……」


 虫の息で絞り出された沙雪の意志を、キャロルは思わず「え?」と疑った。


「もうやめたほうがいいわよ。いくら訓練モードで実際には電撃を食らっていないからって、精神崩壊するわよ?」


 だからといって、このままやられっぱなしではプライドが許さない!! 私に涙を流させた以上、貴女あなたのあらゆる器官から体液が噴き出すまで叩きのめしてやる!!

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