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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
世界や魔法の仕組み

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21/91

事情聴取

 ハチの巣の爆発について、先ほど人命救助の件でレスキュー隊を呼んだ沙雪が何らかの事情を知っているとみた警察が任意同行を求めた。サイレンを鳴らさないパトカーで警察署に到着すると細身で切れ長目の中年刑事が待っており、沙雪は取調室へ連行された。


「俺特製のカツ丼だ」


 天井近くの壁に鉄格子が嵌め込まれた人一人は通れないほどの通気口から外の光がわずかに差し込むコンクリート製のカビ臭い取調室には、沙雪と刑事の二人きり。沙雪には、ほかほかの煮込みカツ丼が用意された。美味しそうな匂いなのに、満腹のため吐き気を催してしまった。しかし食べ物を粗末にするわけにはいかない。


「いただきます」


 割り箸の中心部を持ち、上下向きで割く沙雪。こうすると均等に割れて使いやすい。


 おもむろに箸を割き、三口ほどいただいてみた。満腹なのに、日本を離れたせいかお米の味や食感が身に染みる。カツはサクサクお肉はジューシー、餡はトロトロで美味しい。


 カツ丼にご満悦の沙雪。


「現場から砲弾の一部と思われる破片が多数見付かったんだけど、それ、お嬢ちゃんが仕掛けのかい?」


「いえ、何も知りません」


 沙雪は無表情に、フラットな口調で答えた。


 コイツ、間違いなくクロだ。こんなちゃっちいガキのくせに表情ひとつ変えないとは、犯罪者の資質があるぜ。しかもこの緊迫した場面で黙々とカツ丼食ってやがる。そんなに俺のカツ丼が美味いか? だとしても見上げた根性だ。


「正直に言ってごらん」


 このポーカーフェイス、何考えてやがるんだ。この世の中、見た目に囚われず誰が何を企んでいるかなんてわかりゃしねぇが、コイツはその中でも特に厄介な思考回路を持っていそうだ。いまはどんな恐ろしいことを考えているのやら。


「記憶にありません」


 カツ丼、食べ切らなきゃ! うぅ、苦しいよぉ……。 


「でもね、証拠があるんだよ。この動画を見てごらん。レスキュー隊が空撮くうさつしたものだ」


 刑事が腕時計型端末で沙雪に動画を見せた。そこにはロケットランチャーの発射準備をする沙雪と同じ背格好の黒髪少女と、恐怖におののく短髪少女の姿が映っていた。


「チッ……」


「おい嬢ちゃん、いまチッって言ったか?」


 本性を見せやがったぜ純白テロリスト。


「はい、言いましたっ」


 なんだコイツ!? ドス黒い舌打ちが嘘だったかのように天使のような満面の笑みで肯定しやがった! フツーそこは否定して誤魔化すところだろ! どこまであぶねぇヤツなんだ、しかもあまりにもけがれのない笑顔に不覚にも心が和んじまった。


「よし、ちょっくら部屋を移動しようか」


 部屋を移す、つまり牢獄ろうごくか。ハチの巣爆破を認めない代わりに舌打ちは潔く認めたというのにこの仕打ちとは。こうなったらこの場でロケットランチャーを発射して警察署ごと吹き飛ばし、入口に設置された監視カメラのデータも何もかも無にして指名手配もされない絶対的自由を手に入れようか。


 箸を一旦置き手を組むフリをして左手に嵌めた腕時計型端末の画面に触れる。


 なっ!? 端末がロックされている!? いくら画面をタッチしても起動しないっ!! 国家権力のおりの中では機器が使用できないの!?


「フッ、嬢ちゃんが何考えてるかわかるぜ? いまこの場でロケットランチャーを使って警察署もろとも爆破しようとするも、端末の電源が入らなくてアイテムを呼び出せないと気付いた。そうさ、こんなこともあろうかと、警察署をはじめ、部外者は端末が使えないようになっている場所が世界のあらゆる場所にあるんだ」


「そうなんですか。ご丁寧に教えていただきありがとうございますっ」


 ぐぬうううううう!! つくり笑顔の陰で汗握る手が震える!! プライドを土足で踏みにじられているようだ。いっそ催眠術で刑事を洗脳して、私が無実であると思い込ませようか!?


 でも、催眠術ってどうやれば良いのだろう……。


 こんなことになるなら習得しておけば良かったと、これまでその機会もなかったのに後悔だ。


「礼には及ばん。さ、そろそろ行こうか」


 この満面の笑みの裏ではさぞドス黒い思考が巡ってるんだろうよ。ただの反抗期か、このまま恐ろしい女になるか、注視すべき存在だ。


「カツ丼食べ終わるまで待ってください」


 有罪無罪はともかく、食べ物は粗末にしたらいけないよね。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 次回は明日香が裏通りにあるお姉さんが身体を洗ってくれるお風呂屋さん『せっけんの国 あわあわらんど♪』に突入!?

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