新たな仲間
「はぁ、魔法を使ったらお腹が空いたわ」
キャロルの空腹具合は尋常ではなさそうだ。眼に力がなく、頬がゲッソリ。まるでムンクの『叫び』のようだ。
あまりにも急な変貌に明日香と沙雪は驚愕。そこまで体力を消耗するなら魔法の仕事をしなければ良いのではと沙雪が提案した。
「そうはいかないわ。魔法はそう簡単に習得できるものではないもの。魔法はお仕事でもあり、護身術でもあるの。いつ何が襲来するかわからないこの世の中で、腕を鈍らせるわけにはいかない。さっきも誰かさんに襲われたけどね」
「大丈夫! これからもバッチリホールドユーだよ!」
いぇい! とピースをする明日香にキャロルは、ずんと冷めた視線を送った。
「ぶへへへへ、それはご褒美でひゅくぁ〜?」
「キャロルさん、ロケットランチャー、使いますか」
「ちょちょちょっと沙雪さん? せっかく命懸けで助けたパートナーを殺めるのは貴女の苦労も報われないと申しましょうか……」
またも胡麻擂りのポーズで命乞いをする明日香。
「そうね。使いましょうか。ていうかそもそも、一緒に、旅するなんて、勝手、に、決めないで、よぬぇ!?」
「わかったよめんごめんご! ろくに喋れないほどお腹空いてるんだね! そんなキャロルに朗報です! 私たちと旅すれば三食ちゃんと付いてくるよ! しかも今なら、な、なんと、無料で寝床までご提供! さぁこんなチャンスこれを逃したら二度と訪れません! お申し込みは今すぐコチラまで!」
私の胸に飛び込んで来いと両手を広げる明日香だが、キャロルはもう動きたくないし、平常時でも飛び込む気は起きないだろう。しかし……。
「そ、そこまで、言う、なら、しか、仕方、ぬぁい、わぬぇ」
こうして然るべき交渉を経て、新たにキャロルが仲間となった。
「よろしくお願いします。それであの、お食事のとき、良かったら魔法について教えていただけませんか」
「ぅわ、わかったわ……。むぁ、むぁふぉ~ぅわとでも奥がっ、深いぬぉ。むぃむぃ(耳)のあぬぁ(穴)くぁぽじて……」
「もう喋らなくていいよ! なんか見てて可哀想だよ! とにかくよろしくね!」
明日香の言葉に呻き声のような口調で答えたキャロルだが、何を言っているのか聞き取れないほどか細い声だった。力尽きたキャロルはその場に倒れ込んだため、アキアカネ夫妻に頼んで街外れのレストランまで運んでもらった。アキアカネは人間の料理を好まないため、明日香と沙雪は近くにエサ場や産卵場所となる池がある店を選んだのだ。