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いざなわれた少女たち  作者: おじぃ
はじめての戦闘
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無力

 明日香ちゃんとオスのアキアカネさんに、スズメバチの群れがぞろぞろ迫る。成す術のない私は無力を痛感し、いまのところ上空から見下ろすほかない。


「うう! なにするんだ!」


「周囲にゴキブリを寄せ付けない殺虫剤を撒いたんだけど、アキアカネに効いちゃったか~。めんごめんご」


 スズメバチの巣の上にいる明日香ちゃんは円周状に殺虫剤を噴射した。用途は直接の殺虫のほか、散布した場所に長時間に亘り虫を寄せ付けない効果のあるタイプのようだ。


「うおお、息が苦しい……」


 二人とも呑気だけど、無数の敵が迫ってるんだよ! 早くどうにかしないと!

 

「うわあやばいやばい! スズメバチ来てるよ! 超デカイよ! 殺虫剤ぶしゃあああ!」


「ぐぇふぉあっ! 殺虫剤ヤメロ! お前のせいで呼吸がままならない……」


 スズメバチは明日香ちゃんの視界に入る所まで距離を縮めたが、群れが一斉に立ち止まった。どうやら殺虫剤が効いているようだ。しかし効果が切れるのは時間の問題。現実世界より遥かに大きいスズメバチにどのくらいの間、効果を発揮できるかわからない。ここで私たちが救助に向かえば恐らく全員道連れ。どうするべきか。直接救助できないならば、せめて頭脳戦で明日香ちゃんたちが助かる方法を考えないと。


 しかし不気味だ。アキアカネが人間の言語を使えるならば、スズメバチもそうであって何ら不審はない。せめて彼らの会話が聞こえれば、否、理解できれば、対処法の一つくらい思い付くかもしれない。スズメバチは翅の微妙な振動の差異や手足、口の動かしかたの一つひとつを巧妙に使い、意思疎通をしていると考えられる。


 よって、人間と意思疎通が不能な可能性のあるスズメバチとの対話による明日香ちゃんたちの救出は極めて困難である。


 続いて武力行使であるが、私が所持している武器はロケットランチャー、ゴム鉄砲、水鉄砲の3種。明日香ちゃんは殺虫剤のみ。ゴム鉄砲はゴム弾もコルクもたまとして利用できそうなものもないため使用不能。最後は百円ショップで販売していそうな安い水鉄砲。それに何かを仕込んだところでスズメバチの大群に効果が表れるとは考えにくい。むしろ神経を刺激して攻撃性を高めてしまいそうだ。


 やはり、成す術なしか。


 空気が冷え込んできた。オーバーヒートした頭脳に冷たい空気は意外にも心地良いものではなく、頭痛の引き金となり、ガンガンと突き刺すように混乱を加速させる。


 一度思考を断ち切ろうと周囲を見渡すと、常緑樹の森の周囲には紅く色付いた山々や、半島に挟まれた海、ビギンズタウンや高いビルが中心地に密集し、ビギンズタウンより遥かに広い住宅地がそれを囲うラチエンコーストと思しき街が見渡せた。


 どれも近くにあるのに、窮地に立つとその程度のものも見えなくなってしまうんだ。


 近くにある、街……。


 そうだ! 街があるなら、もしかしたら!


「明日香ちゃん! ちょっと待ってて!」


 街に行けば、害虫駆除業者やレスキュー隊がいるかも!


 この森の中は携帯端末の電波が圏外で、電話による通報はできないが、ボビーさんたち運営側とは辛うじて無線通信が可能だ。


 沙雪は自らを抱える雌のアキアカネに話をして、急いでラチエンコーストへ向かった。


「ええ!? 逃げちゃうの!?」


 沙雪が上空から何かを告げて、雌のアキアカネに抱えられ飛び去った。明日香ちゃん、ごめんね、かな。そりゃそうだよね。このままここにいたら、沙雪たちだってやられちゃう。


「女房に裏切られた。女房に裏切られた! きっとギャンブルに明け暮れた罰が当たったんだ。無言だぜ? あいつ、沙雪みたいにメッセージすら残さなかったぜ?」


「そうだね、ふざけた生き方してると、最期はこうなるんだね」


 ふたりはナーバスに陥り、生きる希望を失った。使い果たした殺虫剤のスプレー缶は、力なくガスを排出し、3メートルの距離を置くスズメバチは食糧を確保すべく、じき動き出すだろう。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 毎度更新が遅くなりまして恐縮でありますが、良い作品をお届けできるよう努めてまいります。なお、次話の執筆、編集作業は既に開始しております。

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