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4. 怪しい二人と発明家

「おっと、どうした事でしょう! スタートから既にかなりの時間がたっていますが、天才ドゥウと占い師アレクセイがスタート地点からほとんど進んでおりません! このままでは『牛歩帰宅』となり失格となる可能性があります! そうこうしているうちに授業後の緊急ホームルームが長引いていたダンボ・スチームがスタートを切った!」

「うむ、二人には何か策があるのだろうな。特にくせ者の二人だ。アレクセイなどは帰気を使いこなし未来を占うという。大方今急いでは不吉と見たか」

「はい、ドゥウも帰気がないというよりなんといいますか、今はまだ焦るべき時でないと言った様子ですね」

「うむ、問題ない」

「問題ありません」

「……」

「……」

「ところでアラン殿、私の目がおかしいのだろうか?」

「いえ、自分にも見えます」

「……」

「何ですかアレは?」

「分からん。分からんが、ダンボ・スチームは技術者だ。だからあれも発明の一種なのだろうが……飛んでおるの」

「飛んで、ますね」

「現代帰宅道では道具を用いる事は何一つ制限しておらん。なぜなら、仮に目の前に帰宅を妨げる何かが立ちはだかった時、それを薙ぎ払う事を否とは定めていないからだ」

「はい、当然ですね」

「しかし、帰宅道では自らの足で帰宅する事をこそ是とする。ゆえにこれは……やむをえん、審議だ! 帰宅法典を持て!」

「何と! ここで公帰連会長としてブロッケンさんから物言いが入りました! 会長の下に審判から大会のルールを記した帰宅法典の原本が今! 手渡されます!」

「……帰宅法典にはこうある。『帰宅する際乗り物を用いるべからず。またここで言う乗り物とは『公共道路通行法』が定めるものを言う』。む、まさか……これは……!!」

「どうされたのですか?」

「……『公共道路通行法』が定める乗り物には人力のものと推進力を持つものとに分かれる。今回問題になるのは推進力を持つものだな、見たところ」

「はい、両肩に装備したポンプのような装置から水を射出して推進力を得ているように見えます」

「まず問題は推進機関の持つ圧力だ。それが一定を超えていれば違反となるが、見たところあの大きさではそれほどの圧力は制御できまい。空発砲が基準であるしな。まあ、念のため――審判よ確認に走れぃ!!」

「おっと、空を飛ぶダンボ・スチームに現場の審判が駆けつけるが追いつけるか!?」

「愚問よ、空を飛ぶキタラーの中でも彼はアニーキー走法の奥義、『風踏み』を用いる事ができる」

「た、確かに! 空を飛んで、いや跳んでいるのでしょうか?」

「風踏みは空気を蹴る事で一定時間の間、空中を駆け抜ける奥義だ。逃げられんよ。さて、圧力については彼に任せてその他の問題に移る。まず彼のポンプからは水が出ているが、排水後は先についているプロペラのようなもので水を広範囲に散布している」

「はい」

「これでは推進機というよりは水まき装置だな。ダンボ・スチームが帰宅している付近は特に乾燥地帯であるし、言い逃れられん事もない。慈善活動と帰宅を両立しようという試みは過去にもあった。そして何より問題なのが何か分かるかアラン殿?」

「……分かりません、なんでしょう?」

「座席だ」

「! ああ、まさか!」

「そうだ。『乗り物』とは『乗る』ものであろう。自転車などは立って漕ぐ事も出来るが、究極的には全体重は自転車に乗っている。しかし、あれはどうだ?」

「乗っていない……そうだ、担いでいる、担いでいます!」

「その通りだ」

「つまり?」

「うむ、確認に走らせた彼も並走(・・)して調べたようだが、圧力も規定以下ではな。

 うむ、公帰連会長として宣言する。ダンボ・スチームの装置は違反ではない!」

「おお!」

「私は今、感動すらしている。これは、帰宅の新たなる可能性の一つである!」

「し、しかし、今後ルールが改定されればこのような手段は……」

「もしやと思うが、腑に落ちんか?」

「いいえ、そんなことは……」

「よい、目を見れば丸分かりだ。しかし考えても見てみろ、おそらく私の目が正しければあの装置、帰気を利用している事は間違いがない。帰気が認めるという事はそれだけの努力を彼がしてきたという事だ」

「それは確かですが……」

「それにの、例えばそうだな、大きなうちわか何かを帰気でもって振り回し空を飛んだとして、それは乗り物と言えると思うか? あるいは途方もなく稀有な例だが、実体化する帰気を扱う者がそれに乗って帰宅した場合も違反と言えるか?」

「! ……線引きの問題、ということでしょうか?」

「そう言う事だ。無論、ルールがどうなるかは公帰連が今後、キタラーの意見とすり合わせながら決める事ではある。しかし、キタラーに認められれば、な?」

「はい……そうか、いえ。そうですね、ブロッケンさんの自宅召喚も――」

「そうだ。だからこそ私はダンボ・スチームを応援せざるを得ない。少なくとも昔、私は認められなかったのだからな!」


・審判

 帰宅部全国大会の放送自体はアラン・スミスの所属する放送局が独占しているが、毎年撮影するスタッフなどは公帰連が用意する。なぜなら、全国大会ともなるとキタラーの質が高く一般人にはとてもではないが追いつけないからである。また、スタッフが帰宅部員OB/OGであればキタラー達は敬意をもって接するだろうし、スタッフも慣れているため臨機応変に対応が可能である。

 スタッフはルール違反を防ぐ審判、怪我をした者を看る救護班、映像を撮る映像班、現場の声を届ける音声班、“自宅(ゴール)”を制圧もとい設営する設営班などに分かれる。ちなみに、映像班には普通音声班が随行しているので、こと特別に音声班のみをブロッケンが指揮する場合、キタラーにばれないように音を拾えという符丁でもある。


・風踏み

 アニーキー走法の奥義の一つ。帰気を帯びた脚で空気を蹴って推進力を得、短時間飛行する事が出来る。小回りが利く反面、長距離飛行は出来ない。ストレイト・アニーキーの得意技として有名であり人気も高い。


・空発砲

 拳銃もどきのようなもの。風船のように空気をため込む小さな木の実を爆発させ、その圧力で実の内部の種を飛ばす。ただし、一発飛ばすために複数の実を込める必要がある上、衝撃で誤射が起こりやすく扱いに難がある。

 内部の種は極小であり散弾のように飛ぶ。種は七ミリ程の針のような形で、飛距離は空発砲で十メートルを超える(ただし、獣の皮に刺さる程度の威力があるのは7~8メートルが限界)。

 爆竹のようなレベルの、ちょっと危険な子供の遊び道具のようなものになる事もある(その場合、もっと威力は弱いが)。しかし、破裂音とその種の殺傷で動物へのけん制には用いる事ができる。

 本来、日動物は空砲の音に慣れると恐れなくなるが、僅かとはいえ殺傷力があるためか、あるいは自然界に自生するものであるためか、動物は非常にこの実の破裂音と種の傷を嫌う。

 こういうった特性のため、この実が自生する地域で空発砲は一般的であり、圧力の基準として用いられる事になった。


・ダンボ・スチームの装置

 ダンボ・スチームの装置はルールをかいくぐる事を目指して作られた飛行補助装置である。パッと見たところ高速で排出される水によって推進力を得ているように見えるが、その実水を散布するためのように見えるプロペラでも補助している。水など積んでいては重量の問題で飛べなくなりそうだが、そこは帰気で何とかしているのだろう。

 ところで、作中にブロッケンが丁寧に解説してくれているが、キタラーは帰宅道に反するため乗り物に乗ってはならない。

 そう、たとえ目の前に大海原が広がっていようとも、これは絶対のルールである。


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