表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3. うなれ! アニーキー走法!

「おっと、アリア11号に続き直進系女子ことレイス・ストレイとモーラ・グーラがほぼ同時にスタートしました!」

「うむ、両者ともアニーキー走法の使い手であるし、これは見どころのある勝負といえような」

「ところで、先ほどから気になっていたのですがアニーキー走法とは?」

「かつて帰宅部全国大会で優勝したストレイト・アニーキーが好んだ走法で、その呼称は彼にちなんだものだ。簡単に言うと、最短距離を帰宅する走法である」

「? それは直帰の基本ではないですか?」

「いやさ、失礼ながら平凡な人間は私を含め、最初に聞くとそう思うものだが、実際は違う」

「? どういう事ですか?」

「つまるところ、ただの直帰ではないのだ。語弊を恐れぬならば紛うことなき直線帰宅なのだといえる」

「まさか、アニーキー走法とは?」

「うむ、例え目の前に家があろうが城があろうが、川があろうが山があろうが、砂漠が立ちはだかろうが海が広がろうが、ただただまっすぐ進む(・・・・・・)事を至上とするのがアニーキー走法の要諦よ。ちなみにアニーキー走法を確立したストレイト・アニーキーは、空だろうが海だろうが蹴りぬいて三次元的に真っすぐ直帰したとすらいわれる帰宅の鬼だ」

「おっと、どうやらブロッケンさんの言うように両者はアニーキー走法を使うようです。レイス・ストレイはご近所の壁を次々にぶち抜く! 一周回ってもはや清々しいまで破壊だ! 容赦も躊躇いもない! 破壊されたうえ土足で上がられた家の家主も、あまりの事にぽかんとしています! あの壁の修理費は一体誰が払うのでしょうか!」

「逆にモーラ・グーラは秘術の類か、地面を泳いで(・・・・・・)おるの。どうやっているのかは分からんが対照的に静かな直帰だ。障害物は潜行してかわしておる」

「はい! 同じアニーキー走法でもレイス・ストレイが動のアニーキー走法だとすればモーラ・グーラはまさに静! 静かなるアニーキー走法です!」

「うむ、アニーキー走法はともすれば力押しになりがちである。レイス・ストレイが良い例であるな。勘違いするキタラーも多いが、本来ストレイト・アニーキーが求めたのは美しいまでの直帰。ひたむきに速さを求めたのだ。同じアニーキー走法という点ではモーラ・グーラが一歩先んじているといえよう」

「レイス・ストレイもそれが分かっているのでしょうか、やや焦っているようにも見えます」

「うむ、八人の中でも二人は最も距離が近い。とはいえ視認できないはずだが……」

「先ほどのアリア11号の担任の如く、帰宅しようという心意気――『帰気』を感じ取っているのでしょうか」

「おそらくそうであろうな。モーラ・グーラも心なしか笑っているようにも見える。現段階では勝てると見たか」

「それではブロッケンさん、レイス・ストレイはこのままだと勝てないという事でしょうか?」

「無論、一概には言えんがそうであろうな。しかし毎年この帰宅部全国大会では無数のドラマが生まれる。レイス・ストレイがこの大会の中で成長する事に私は期待しているよ」

「そうですね、二人の今後に目が離せません」

「うむ、特にアニーキー走法は使い手が多い事もあり、派生技術が多い。レイス・ストレイは無理に直進しようとせず、上下の移動を利用すればより速く帰宅できるはずだ。伸びしろはあるといえよう」

「モーラ・グーラはモーラ・グーラで、まだまだ余裕といった様子です」

「そうであるな、動きに無駄がないだけでなく精神的にも安定しているようだ。まだ体を温めている段階なのやもしれん」

「ところでアニーキー走法を用いるという事は二人はこのまま真っすぐにモゴル草原を抜けてムングン山脈を越えて――」

「あっ……」

「あっ……」

「その、先、は……もしやアラン殿ッ!」


「ああなんてこった……魔のホーヴィンス海域です!!」


・魔のホーヴィンス海域

 船乗りの間で知らぬ者はいないとまで言われる魔の海域。『魔海』、『馬鹿者ホイホイ』、『不可侵領域“ボッシュート”』など様々な異名で恐れられて(?)いる。というのも今をもって原因は不明とされているが、この海域に入ると海難事故? に見舞われる確率が高くなる、どころか、他の海域と比べると生還者と行方不明者の数が逆転する程であるとまで言われる。

 七年前にダートが選んでしまった“自宅(ゴール)”となり、全国大会初の優勝者なしという事態を引き起こした。当時勇敢にも魔のホーヴィンス海域に立ち向かったキタラー達の無念を忘れないため、毎年帰宅部全国大会の開会式では公帰連会長の号令で数分間の黙とうを捧げるのが恒例となった。

 ちなみに、その大会では誰一人死んでいない。

 そもそもこの海域が中途半端に恐れられているのは、ここで死ぬ例が本当に少ないからだ(正確には行方不明になっているだけで死亡した例はないのではとすら言われている)。この海域で行方不明になった者は、どういう訳だか世界各地の何の脈絡もない土地で無事に発見される。生還者は魔のホーヴィンス海域にいた時の記憶が曖昧である事も多いので、未だにこの現象がどういうものなのかは分からないが、肉体的にも精神的にも記憶の混乱以外に後遺症を残した例は確認されていない。

 だからこそ厄介なのだ。興味本位で突っ込む者が後を絶たない。


・帰気

 熟練したキタラーのみが発する事の出来る一種の闘気。それは摩訶不思議で曖昧で都合のいい何かであり、その心意気だけで身体能力が向上し、帰気を用いれば様々な秘術を用いる事が出来るという。多くの一般人には感じ取れない。

 別名も多く、マナ、魔力、気合い、心意気、心力、主人公補正――(中略)――ブラックボックス、パンドラの箱、理不尽のゴミ箱、解説の終着駅などなど……。とどのつまりがよく分からない未知のエネルギー的な何か(・・)である。

 帰気が一体何なのか詳しく問う事は帰宅道に反するとされ、誰もそれが何かを知らないのではないかとすら言われる。そのため、物理的にありえない事象が作中で起こったとしても、それはだいたい帰気せいである。決して詳しく聞いてはいけない。

 なぜなら、貴方が帰気を覗く時、帰気もまた貴方を覗いているのだから。


・ストレイト・アニーキー

 アニーキー走法を確立した、紛う事なき兄貴である。また、異世界人という説もあるが真偽は不明である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ