11. 奇妙な友情
「さて、女性対決が決着を見ましたが、依然四人は激しい戦いを繰り広げています! ダンボ・スチームが必死にかわしながら水球で爆撃する! 対する地上のアレクセイは夢の両手ヲリ戦術を取るドゥウに一人では不利と見たか、帰気で生み出した火の玉を放ち続けます!」
「対するドゥウはアリア11号に肩車されながら、ガラス片のような帰気を飛ばして上手く攻撃をいなしておるの」
「こう着状態が続きます! 周囲の兵士たちが死屍累々と倒れていく中、彼らの戦いは続く!」
「っと、これは!」
「おっと、ここで爆発が起こりました! どうやらダンボ・スチームの水球にアレクセイの火の玉がぶつかり水蒸気爆発を起こしたようだ!? ドゥウとアリア11号、そして至近距離にあったアレクセイが吹っ飛んだ! ダンボ・スチームも機械の異常でしょうか、ふらふらと降りてきます!」
「うむ、審判! 安否確認急げぃ! 救護班は脱落者が出次第治療に当たれ! 念のため映像班も現地へ向かえ! 審判と救護班を援護せよ!」
「ブロッケンさん、どうなりますかね?」
「アリア11号の安否が気になるの。ドゥウは上手く着地の時点で帰気で受け身を取ったようであったが……アレクセイは偶然の事故であったから油断したのかの。なまじ未来を見えるがゆえか対応しきれず、したたか体を打ったようだ」
『報告します! アレクセイは体の骨をいくつかやったようで、自主的に棄権しました! 救護班が治療にあたっています!』
『ドゥウはなにやらふらついていますが無事のようです!』
『アリア11号はまだ分かりません』
『ダンボ・スチームは機械の一部が壊れたようで修理しています。本人は軽いやけど程度で無事です!』
「なんと、アレクセイが脱落しました! 一方でアリア11号とドゥウもダメージを受けている模様! ダンボ・スチームも機械の修理が間にあわねば続行は難しいか!?」
「そうであるの、それ以上にドゥウ。まさか、あやつ……?」
「どうされました?」
「ドゥウの歩き方がおかしいのだ。歩幅が一定せんし、重心もよくふらついておる。まるでなんというか、歩く事を覚えてすぐの赤子のようにも見える」
「まさか、頭を打ったのでしょうか?」
「いや……音声班、拾え!」
「おっと、ドゥウがおぼつかない足取りでアリア11号の下に歩み寄る!」
『アリア! 体の状況は?』
『外部の損傷は軽微です。関節が少しきしみますがそれ以上に……どうやら燃料機構がやられたようです。熱が下がりません』
『なっ!』
『本格的に修理をせねば……命令系統にエラーが出ています。燃料機構の回転数が下がりません。このままでは……』
『分かった、僕は棄権を……』
『いえ、行って下さいマスター』
『えっ!』
『貴方の夢じゃありませんか! ここで優勝する事は!』
『でも、それじゃ……燃料機構はともかく命令系統のプログラムとなったら、あれは僕のオリジナルだ、僕じゃなくちゃ治せない! このままじゃ最悪回路が焼き切れて二度と動かなくなるかもしれないんだよ!』
『それでもです。たとえ私が壊れる事になっても! あなたは優勝してください! 私の担任が、私を一秒でも速く送り出そうと無理をしてくれた担任が! 私にキタラーというものがどういうものか教えてくれました! キタラーとは、全力で生きる者の事を言うのです!』
『!』
「これは……」
「うむ、どうなるかの。うちの技術者でもアリア11号は治せんかもしれん。ロボットが出場する事が分かっていた故に公帰連の中でもそう言う事に詳しい者も同行させたが……少なくとも私にはさっぱりだ」
「おっと、言い争う二人にダンボ・スチームが近づきます!」
『えっとドゥウ君だったっけ?そのプログラムってのは僕にはわからないけど、燃料機構の型番は分かる?』
『え、えっとPB系統の最新モデルの――』
『PB-P7M1か! あれなら僕でも扱えるよ! エラーはどんな感じ? 回転数が上がるって事は……ツァーレがいかれた?』
『はい、おそらくは。緊急停止装置も作動しません』
『ならバラさないといけないかも……幸い僕の機械が壊れた時のために機材は積んでるんだ! よかったら僕がやるよ!』
『! でも君は――』
『ああ、僕も似たようなものでね、油圧ジェックが熱で使い物にならなくなっちゃって本格的に直さないとなぁ……だからどのみち棄権するつもりだったんだ』
『でも――』
「これはブロッケンさん」
「うむ、美しい帰宅道であろうダンボ・スチームよ。優勝こそ出来なかったが、精神的には勝っていたぞ!」
「しかし納得がいかないのか、それともアリア11号が心配なのかドゥウは引き下がりません!」
「うん? 見かねたのかアレクセイまでが近寄っていきよるわ!」
『大丈夫ですよ。私の完成占いによればダンボ・スチームはアリアさんを直せます』
『……』
『……』
『……』
『えと、なんでしょうか、その疑いのまなざしは?』
『だってね、ダンボ君』
『僕にふらないでよドゥウ君』
『あの、未来が見えるとうかがいましたが、どうして私たちと同じく爆発に巻き込まれたんでしょうか?』
『アリア! 空気読んで!』
『そうだよ、帰気にだって間違いはあるよ!』
『……』
・帰気にだって間違いはある
普段言われたい放題な帰気を珍しく擁護するかのような慣用表現である。しかし、よく考えれば「帰気ですら間違えるんだからお前は悪くないよ」と言っているのであり、結局帰気が悪い事になっている。ままならないものである。




