春の入学式、校長の話事件 2
入学式当日。俺のやるべきことは終わった。天気が晴れてよかった。雨の中ジメジメと雨合羽を着て駐車場にずっと立っているなんてとてもじゃないが耐えられない。とりあえず飲み物でも買って生徒会室に行くことにした。
自販機でお茶を買って生徒会室に向かう途中で大量の学生カバンが廊下にならんでいるとのを見て一瞬立ち止まってしまった。不思議なことはない。ここの廊下は今入学式に出ている新入生がこれから一年間使っていく教室だ。この学校では入学式の日に保護者への学校説明中に新入生が歓迎テストを受ける。俺も去年はこれでひどい目にあった。そんなことを考えて歩いているときれいに並んでいるカバンのうちの一つをあさっているやつがいるのを見つけた。
「おい、そこでなにやってる」
「ひゃっ!!」
急に声をかけて驚いたのかカバンをあさるやつの変な声をあげてしりもちをついた。
「大丈夫か?」
近づいてみるとどうやら新入生らしい女子生徒だった。
「は、はい・・・すいません」
「それで何してたんだ?」
「い、いえ・・・お腹が痛くなって・・・お薬がカバンの中に入っているので飲みにきたんです・・・」
なるほど。でもそれなら明莉が一緒にいるはずだ。
「明莉・・・いや、一緒についてきた先輩はいなかったか?」
「途中までは一緒だったんですけど・・・私がここまで大丈夫って言ったら体育館に戻られました」
あいつ・・・せめて薬飲むまでくらい一緒にいろよ・・・。
「そうか・・・急に声をかけて悪かったな。薬を飲むお茶とか持ってるか?」
「え?もってないです・・・」
「じゃあ、これやるよ。驚かせたみたいだしな。」
俺はその女子生徒にさっき買ったお茶をわたした。
「え?でも・・・」
「あ~気にしなくていいから。間違って買ったやつだし。それじゃ、早く式に戻れよ」
なんか遠慮されて返されそうだったので適当に言い訳をつけて生徒会室に向かった。
生徒会室に入ると案の定、千里さんが椅子に座りながら雑誌を読んでいた。
「おつかれ~。遅かったわね~案外受付が当たりだったかな~」
「いえ、いろいろあっただけですよ」
「何それ?まあいいけど~」
そう言うと千里さんがまた雑誌に視線を落とした。
俺も席に座って昨日の本の続きを読むことにした。
しばらくすると会長となにやら複雑そうな顔をした明莉が入ってきた。
「おつかれ~。どうしたの明莉?なんか失敗でもしたの?」
「いや、式は無事に終わったよ」
「じゃあなんであんな顔してんの?」
「実は、保健室に案内した人が10人もいたんです。」
それを聞いて千里さんのちょっと表情が変わった。
「10人?ちょっと多くない?」
「はい・・・それで・・・」
なんか嫌な予感がする・・・。
「なんでそんなにたくさんの人が体調を悪くしたのか一緒に考えてほしいの!!」
明莉が俺の本を取り上げて顔をのぞいてきた。
「そんなもん知らん。今年はひ弱なやつが多かったんじゃないのか?」
「いや、今年の新入生は運動部への期待の新人が多いらしいからな、それはなかなかないと思うけどね」
会長が腕を組みながら言った。
「だからって一学年で240人。その全員が期待の新人ってわけじゃないです。10人ならぎりぎりあってもいい人数です」
俺はこのままいつものパターンに持っていかれないようにこの話を早く終わらせたい。
「たしかに10人ならありそうだけど・・・」
「そうだろ?だから・・・」
「10人全員が同じタイミングだったらありえるかい?」
俺の言葉を会長が切った。
「10人全員が校長先生のお話のときに体調不良を起こしているんだ」
さすがにそれは偶然というには確率が低すぎる。入学式一回の中で10人ならまだしも、その中の校長先生のお話でだけというのは普通じゃない。だが・・・。
「そんなもん俺にはわかりません。とりあえず俺の本を返せ」
「・・・やだ」
「はぁ?」
「一緒に考えてくれるって約束してくれるまで返さないもん」
明莉は俺の本をぎゅっと抱くように持った。めんどうだ。本を取り返すのは簡単だ。だが、問題はそれで泣き出されることだ。明莉は高校生らしからぬ見た目と性格で男女両方からの人気が高い。こいつを泣かせようものなら俺が問答無用でたたかれるのだ。しかたない・・・本さえ取り戻せればあとからどうにでもなるだろう。
「わかったよ、約束するから本を返せ」
「ほんとに!?ありがと~!!はい、本」
「まぁこれは生徒会としても見逃せない事件だね。この事件で校長先生が落ち込んでるみたいだし」
「私たちもできるだけ協力してあげるよ」
「会長、千歳さん、ありがとうございます」
「明日には新入生メンバーも入るし、いろいろ話も聞けるだろう」
「じゃあ詳しい調査は明日からだね」
「それじゃあみんな、今日はご苦労様。これで解散としよう」
「「お疲れ様でしたー」」
明日から面倒なことになりそうだ・・・。