再起~フリードリヒ「雲海の上の旅人」より~
『雲海の上の旅人』1818年
Der Wanderer über dem Nebelmeer
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(Caspar David Friedrich)
(著作権フリーの画像を掲載しています)
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さあ行こう
たった一人で
自分の全てを頼りに
ここまで登ってきたのだから
誇ろう
目の前に広がる風景には
実った果実も 豊かな穀物の畑も
なんにもないけれど
見上げていた雲が
今
波を描いて待っている
「ここで うたってみせろ」と
震えが止まらない
自分が相手にするのは
果ての見えない世界
自らの力で築き上げた岩場に辿り着いた時
初めて旅が始まる
さあ行こう
たった一人で
きっと私はスナフキンみたいに
自由に生きていける
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カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(Caspar David Friedrich)1774–1840
ドイツ・ロマン主義を代表する画家
頬ヒゲが豊か
18世紀末、ヨーロッパにおいて主流だったのは啓蒙主義。
理性と知識によって社会を進歩させていこうぜ、という思想運動です。
芸術は「教化の手段」だ。
古代ギリシャ・ローマの合理的な美学が再評価される土壌をつくりました。
その啓蒙主義の理念を体現した美術様式が、新古典主義。
均整、簡潔、理想化。
古代の形式美を模倣し、英雄的・道徳的主題を扱う。
いわば国家や道徳の理想を視覚化した絵画が、ちまたに溢れていく……。
すると、反発する動きが出て来るのが人間であります。
感情、個人の内面、自然との繋がり。
それを重視するべきだろう!
と、再び芸術の中心に据えたのが、ロマン主義。
フリードリヒの、この「雲海の上の旅人(1818)」。
描かれているのは、旅人の後ろ姿です。
霧に覆われた山岳風景を、一人立って見下ろしている。
自然の壮大さ。人間の小ささ。
さあ、君は何を思う?
どこへ行く?
哲学的なテーマが込められています。
ロマン主義の核心は、「自然と魂の対話」。
その中でもドイツ・ロマン主義は、特に哲学的・宗教的傾向が強く、自然を神聖視する精神性が際立っている。
まさにそれを体現するものとして、この作品は高く評価されてきました。
ところが。
フリードリヒ生誕250周年を記念したドレスデン美術館の調査プロジェクトにて、所蔵作品の科学的分析が行われました。
そして、その結果、初期作品のいくつかが「作者不明」とされ、フリードリヒ・コレクションから除外されたのです。
除外された作品:裸木のある風景(Landschaft mit kahlem Baum, 1789/1799)
赤外線調査や顔料分析の結果、フリードリヒの画風と一致しない下絵や、当時一般的でなかった顔料が使用されていることが判明した。
この「雲海の上の旅人」については、「フリードリヒの作ではない」と公式に否定されてはいません。
ただし、一部の専門家からは真作性を疑問視する声も上がっています。
真実はどうなんでしょう?
でも、作者が誰であれ。
この作品が語りかけてくることは同じだと思うのです。




