1ー1
ここは、どこ?
目を覚ますと、病院のベッドではなく、知らないベッドに横たわっていることに気がついた。
だけど、全然知らない場所なんかじゃない。
「アケミ? 起きたのか?」
……うん? 王子様? なぜにあたしが作ったキャラクターが理想的な声でしゃべってるの?
それに、アケミって、その作品の主人公じゃん。あたしのことじゃないじゃん。
なのに、カーティス王子は熱を持って潤んだ瞳であたしの手をきゅっと握り、返事を待っている。
「あの? なにがあったんですか?」
「おぼえてないのか? 落馬したのだよ」
え〜と。ああ、なるほど。[1ー1 はじまりのシーズン]の冒頭ね。
えっとじゃあとりあえず。はじめまして。わたしはアケミ。ドリーム王国の双子の王子様に見初められて花嫁修業に来た当日、運動神経ゼロなのに、なんの因果か馬に乗ったものだから落馬しちゃいました。
……という書き出しなのよ。どうよ、この凡庸な一般受けしなさそうなテンプレは。
そして、落馬したアケミの様子を見に来てくれたのが、第一王子、俺様系のカーティス様。もうオラオラだし、ちょっとハスキーな低音ヴォイスがたまりないのよ、キャー。
って、遊んでないで先に進まないと。
「あのっ。初日からご迷惑をおかけして申し訳ございません」
え〜!? あたしの声がヒロインヴォイスになってるぅ〜!! うるうるした声だぁ〜。
と、いうことは。これ本当に自作の中に入り込んじゃったってこと?
先の展開知ってるというか、自分で書いたんだから知ってるに決まってるんだけど。
「迷惑だなんて。本当になんでもないか? 医者はものぐさだからな」
「そんなっ。本当になんでもありませんから」
なにがどこまで本当なのかわからないけど、これは自分の作品を客観的に見るチャンス! そして楽しまなければ嘘ってもんよ。
なぜなら、ラノベ作家の肩書はあるものの、書籍化はほぼ、ゼロと言っていい。
一度だけ短編集に二ページ載せてもらっただけで、後はほとんどネットで投稿しながら、スポンサー様が食いついてくれるのを待つばかりなもんですから。
ええ、実際はバイトをかけもちしながら小説投稿サイトに投稿しているだけなんですけどね。
そので、ドアが遠慮がちにノックされた。
「どうぞ」
わたしが言うと、第二王子のドリー様が、青白い顔をして入室していらしたの。
「アケミ。心配したよ」
お兄様より気弱そうな癒し系であるギーズ様は、この作品での貴重な癒し系。やさしくて繊細、そしてはかなげなところが我ながらうまく書けてると思っている。
この二人に言い寄られて、花嫁修業に来たわたしを、より魅力的に書くために、奮闘していたらトラックに跳ねられちゃったんだよな。無慈悲なもんよ。
つづく




