表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜スキルでアイドルに?~死んだ社畜おじ、サバイバルオーディションを生き残る~  作者: 無限大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/35

28 まとまれ、まとまれ

 ARATAのおかげでチームは良い方向へ進み始めた。

 が、それはあくまで応急処置だ。絶対に勝つ。そのために、桐生のスパルタ指導はいまだ続いていた。


「湊人。雑」


 桐生の冷徹な声が飛ぶ。童顔の熱血漢、湊人が顔を歪めた。


「もっと丁寧に動け。お前のダンスは動きがデカいだけ。見ていて疲れる」

「あぁ? 俺は全力でやってんだよ!」

「それがダメなんだよ。強弱がない。まるで子供が駄々こねて暴れてるみたいだ」


 ピキリ、と空気がひび割れる音がした気がした。湊人のこめかみに青筋が浮かぶ。


「子供、だと?」


 彼はその愛らしい顔立ちとは裏腹に、ナメられることを極端に嫌う。子供というワードは彼の最大の地雷だ。

 桐生はそれを知ってか知らずか、澄ました顔のまま指摘を続ける。


「基礎のできてない奴が暴れても、ガキの遊びにしか見えない。見苦しいんだよ。ガキのお遊びなんかで金がとれるか」


 バシャンッ!

 湊人が持っていたペットボトルを床に叩きつけた。キャップが吹っ飛び、水飛沫が散る。


「やってらんねえな。丁寧、丁寧って、ここは書道教室か」

「湊人くん、落ち着いて」


 桐生を睨みつけ距離をつめる湊人に、リーダーのJOが慌てて止めに入る。沸点を超えていた湊人は、JOの腕を荒々しく振り払った。


「どけよ。おい桐生、テメェさっきから偉そうによォ」

「湊人くん、暴力は駄目です。因果が巡って――」

「うるせえな、説教坊主!」


 JOが突き飛ばされ、よろめいた。湊人は猛犬のような勢いで桐生に掴みかかり、胸ぐらを締め上げる。


「俺はガキじゃねえ! その減らず口、二度と利けねえようにしてやろうか!」

「フン。やるか?」


 桐生も引かず、冷ややかな目で湊人を見下ろしている。一触即発。完全に喧嘩の空気だ。

 俺やトウマが駆け寄ろうとした、その時。


「――フッ。騒がしいな、下等生物ども」


 不意に部屋の電気が消された……わけではないのに、空間が暗黒に包まれたような錯覚がした。


「な、なんだ⁈」


 全員の視線がひとりの人間に集中する。

 シオンだ。

 彼は右目を手でおさえながら、ゆっくりと湊人と桐生の間へ歩み出た。


「クッ。貴様らの殺気、我が右腕のブラック・ドラゴンを刺激する」


 シオンは急に苦しそうな声をだし、右腕を押さえてうずくまる。


「鎮まれ、我が右腕よ。まだ暴れる時ではない……! 今ここで解放すれば、このスタジオごと虚無に帰してしまう」


 あまりの唐突な茶番に、湊人の動きが止まった。


「……何言ってんだお前」


 呆気に取られる湊人。だが、カオスはそれだけで終わらない。


「んもう、ダメよシオンちゃん。男の子がカリカリしちゃ肌に悪いわぁ」


 ぬるり。

 背後から、湊人の腰に手が回された。――イブキだ。

 長髪の中性的なダンサーが湊人の耳元に顔を寄せ、あろうことか「ふぅっ」と息を吹きかけたのだ。


「ヒヤッ!」


 湊人が素っ頓狂な声を上げて飛びのく。


「な、ななな、何すんだテメェ!」

「だってぇ、湊人くんガチガチなんだもぉん。ほらぁ、肩の力を抜、い、て?」


 イブキは妖艶な流し目で、自身の腰をくねらせた。


「男の子なら拳より腰を使わなきゃ。ね? 怒りを情熱に変えてぇ、優しくぅ、激しくよん!」

「き、気持ち悪っ! 寄るな!」


 飛び退く湊人の隣で、シオンがまたうめき声をあげる。


「我の結界を破るとは。イブキ、貴様もまた闇の住人か」

「やぁん。シオンちゃんも可愛い顔してぇ。食べちゃおっかなあ」

「貴様ッ! 我に触れるな! 封印が解けるッ!」

「えぇ、なによぉ」


 目の前で繰り広げられる、厨二病とオネエのカオスな攻防。

 湊人は桐生の胸ぐらから手を離した。その顔からは怒りの赤みが完全に消え失せ、代わりにドン引きの青ざめた色が浮かんでいる。


「なんなんだよ、お前ら」


 毒気を抜かれるとはこのことだ。

 喧嘩の殺伐とした空気は、一瞬にして変人たちの動物園へと変貌している。

 俺とJOは顔を見合わせた。JOは「南無」と小さく呟いている。どうやらトラブルには聖母の祈りより、魔王と蛇の劇薬の方が効くらしい。


 騒ぎが落ち着き、シオンとイブキが満足げにストレッチへ戻った後。

 湊人は部屋の隅で、膝を抱えてうなだれていた。俺はスポーツドリンクを二本持っていって、彼の隣に座る。


「なんというか、災難だったな」

「なんだよこのチーム。まともな奴いねえのかよ」


 湊人がドリンクを受け取り、乱暴に口をつける。俺は苦笑した。


「まともじゃないから面白いんだろ」


 湊人は鼻を鳴らし、それから悔しそうに桐生の方を睨んだ。


「俺はガキに見られるのが嫌なんだ。だから必死に強く見せようとしてきた。舐められたくなくて、オラついて。なのに、あの野郎は俺をガキとか言いやがる」


 湊人のコンプレックス。強がりは弱さの裏返しだ。


「まあ、ムカつくよな。桐生の言い方」

「ああ。ぶん殴ってやりてえ」

「じゃあ殴ればいいさ」

「は?」


 俺の言葉に、湊人が目を丸くする。


「ただし、拳じゃない。ダンスで殴れ」

「……いや、無理だろ。相手誰だと思ってんだよ」

「無理じゃない」


 俺は湊人の肩を叩いた。


「お前のエネルギーは凄いよ。さっきJOくんを吹っ飛ばしたパワー、あれをそのままステージで客にぶつけてみろ。多分、全員ビビって腰抜かすぞ」


 湊人が押し黙る。


「お前は子供じゃない。それを証明してみせろよ。桐生を黙らせるくらいのパフォーマンスで」


 湊人はしばらく黙っていたが、やがてフンと鼻を鳴らし立ち上がった。


「へぇへぇ。言われなくても、やってやるよ。おい変態ども! 練習再開すんぞ! 遅れたら噛みつくからな!」


 湊人はシオンたちのいる方へ歩き出し、大声で叫んだ。

 シオンが「フッ……野犬が吠えるか」と笑い、イブキが「キャッ、怖い」と喜ぶ。湊人は桐生の前まで行くと、あえて挑発的に顎をしゃくった。


「俺のダンスがガキの遊びかどうか、もう1回見てみな」


 桐生が口角をわずかに上げる。

 音楽が鳴る。

 湊人が動く。

 丁寧さなんてクソ食らえだ。だが、さっきまでの雑な暴れ方とは違う。

 怒りを推進力に変え、床を踏み抜くような重厚なステップ。睨みつける視線には、確固たる殺気が宿っている。

 湊人は子供なんかではない。誰も触れられない、特攻隊長だ。


(大丈夫、大丈夫)


 トレーナーによる中間評価まで、あと2日だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ