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社畜スキルでアイドルに?~死んだ社畜おじ、サバイバルオーディションを生き残る~  作者: 無限大


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24 束の間の休息

 朝。目を覚ますと、寮は不気味なほど静かだった。

 第3回順位発表式が終わり、練習生はついに20人になってしまった。空になったベッドを見るたび、胸に穴の空いたような寂しさが襲ってくる。

 そんな重苦しい空気を切り裂くように、寮内放送が鳴り響いた。


『生存者の皆様、おめでとうございます! 本日はファイナル直前のスペシャル企画をご用意しました。これよりバスに乗り込み、夢の国へ向かいます!』


「……夢の国?」


 バタバタと身支度を整え、行き先も告げられぬまま、俺たち20名はロケバスに乗せられた。

 バスの中ではJOが、どこから出したのか、温泉饅頭を配り歩いている。俺の隣の席では、シオンがサングラスをかけて窓の外を睨んでいた。


「フッ。太陽の下は我が領分ではないが、たまには下界の視察も悪くない」


 そう言いながら、シオンは念入りに日焼け止めを塗っている。ウキウキじゃないか。

 みんな、久々の息抜き企画が楽しみみたいだ。俺もバスの座席にゆったりと身体を預け、和気あいあいとした車内を眺めている。


「ルキくん、見て見て! 観覧車!」


 1時間後。バスが到着したのは、郊外にある巨大遊園地だった。窓の外に広がる非日常的な光景に、練習生たちのテンションがぶち上がる。


「え、ここが今日の目的地?」


 誰かの質問に、助手席のスタッフが大きく頷いた。車内に「おおぉぉぉ!」と歓声が上がる。

 それを制するように、スタッフがミッションを告げた。


「今日は自由行動です。ただし、ショップでファンへのプレゼントを選んでもらいます」


 なるほど。それが番組としての目玉で、得票数稼ぎのキモになるってわけか。ほどほどに遊びつつ、しっかりファンへサービスする。それが今回のミッションだ。

 生存者は、みんな人気者ばかりだ。ここから勝ち抜けるために、俺だって全力を出さなくては。


(転生? に、気付いたときは、アイドルになりたかったわけじゃないのになあ)


 俺は、ただの社畜だったはずだ。たまたま、気付いたら西園寺ルキとしてオーディションに参加していただけの、一般人。

 それでも、いくつもの試練を乗り越え、多くの仲間たちの脱落を見てきたら、いつの間にか本当にアイドルを目指したくなっていた。みんなの想いを背負ったからだけでなく、自分が、自分として、アイドルに打ち込みたいと思っていた。

 ただただ仕事だけに打ち込んでいた俺にとって、アイドルを目指すことは、生きる意味ってやつなのかもしれない。

 そう思えて、胸が熱くなる。


 遊園地内ではグループで行動する。4人組を5つ作って、それぞれ自由に行動するらしい。

 グループ分けはくじ引きだ。同じ班のメンバーを見て、俺は天を仰いだ。


(濃い)


 メンバーは、絶対王者でありながら天然の帝都タクミ。チャラ僧侶のJO。中二病美少年のシオン。そして俺、転生した元社畜の西園寺ルキである。


 *


「ルキくん。あれは何だろう」


 園内に入った途端、タクミが足を止めた。彼が指差したのは、ごく普通のコーヒーカップだ。


「え、コーヒーカップだけど。乗ったことない?」

「ない。というか、遊園地という施設自体、初めて来た」


 タクミは真剣な眼差しで、回るカップを見つめている。


「なるほど。遠心力を利用した平衡感覚のトレーニングマシンか」

「違うよ。楽しむ乗り物だよ」


 俺たちは4人でひとつのカップに乗り込んだ。スタートの合図と共に、カップが動き始める。


「タクミくん。ハンドルを回すと、さらに回転速度が上がりますよ」


 JOの穏やかなアドバイスに、タクミが「ほう」と反応した。


「回転速度の限界に挑戦しろということか」

「いや、誰もそんなこと言ってな――」


 俺が止める間もなく、タクミがハンドルを掴んだ。彼の腕に筋肉が浮かび上がる。


 ――ギュルルルルルルッ!


 カップが猛烈な勢いで回転した。重力が俺の体をシートに押し付ける。


「ちょ、タクミくん! 速い! 速すぎる!」

「すごい! 景色が溶けていく! なんて魅力的なんだ!」


 タクミは目を輝かせ、さらに回転数を上げた。無邪気な笑顔だが、やっていることは宇宙飛行士の訓練ばりのG体験だ。


「ぐ、ぐわあああ! 闇が、闇が逆流するゥゥゥ!」


 シオンが悲鳴を上げ、JOは遠心力に身を任せて合掌している。


「諸行無常。これもまた輪廻なり」

「おいJO、悟りを開くな! タクミ、止めろ! シオンが死ぬ!」

「え? 何? ははっ! 楽しい! すごく楽しい!」

「や、闇、が」


 カップを降りたあと、俺とシオンはベンチに崩れ落ちた。

 タクミだけが「ふぅ、いい運動だった」と爽やかに汗を拭っている。こいつ、協調性ってものがないのか。これだから絶対王者って奴は!


 休憩を挟んで園内を散策していると、お化け屋敷の前で万年2位のリクトたちの班と遭遇した。リクトは、桐生やケイトと一緒にお化け屋敷を眺めていたが、明らかに顔色が悪い。


「リクトくん? 大丈夫?」

「あ、ルキくん。全然平気だよ。うん。ただ、この非科学的な建物の構造に疑問を感じていただけさ」


 リクトは強がって笑ったが、その指先は小刻みに震えている。なるほど。お化け屋敷が苦手なのか。


「えぇと、じゃあ、俺と一緒に入る?」

「は? なんで? そもそも班が違うよね? なんで入るの? 必要なくない?」

「いや、リクトくんと入ったら撮れ高ありそうだし」

「はあ?」


 いつも計算、計算で動いているリクトに、こちらも撮れ高という計算をぶつけてみる。リクトは言い返せない様子で、ただ口をパクパクさせた。

 スタッフに視線を向けると、スタッフたちは良い笑顔で「ぜひ入りましょう」と親指を立ててくる。悪魔の笑顔だ。

 結局、俺とリクトのふたりでお化け屋敷へ突入することになった。


「別に怖くなんてないからね。僕は幽霊なんて信じないタイプだから」


 入り口でリクトがカメラ、俺、周りの練習生、スタッフに念を押す。


「はいはい。いいから行くよ」


 俺はリクトの腕をつかんで、入り口をくぐった。

 空調の風がふわりと吹いて、リクトが「ヒッ!」と飛び上がる。


「ルキくん! 今の何!」

「ただの風だよ。落ち着けって」

「ちょ、離れないで!」


 リクトは俺のジャケットの裾をギュッと握りしめ、背中に張り付いてきた。そんなに怖いのか。可愛いところがあるじゃないか。

 数歩進むと、足元に生首の人形が転がってきた。


「ぎゃああぁぁあ! 何⁈ 何⁈」


 俺からすれば、リクトの絶叫こそ「何⁈」って感じだ。これだけリアクションしてくれたら、お化けたちもさぞ脅かしがいがあるだろう。

 リクトを引きずりながら歩いていたら、今度は壁から手が出てきた。


「わああぁぁぁ! は? 誰⁈ 誰!」


 リクトの悲鳴が響き渡る。

 誰だったら納得するんだよ。

 そして飛び出してくる白装束の人間。


「ぎゃあぁぁあ! 無理無理無理! 物理的におかしい! あの角度で首は曲がらない!」


 絶叫しながら、リクトは俺にしがみついてくる。意外と冷静なツッコミに、思わず笑ってしまう。

 なんとか出口にたどり着くと、リクトは魂が抜けたようにベンチに座り込んだ。


「はぁ、はぁ。一生の不覚」


 リクトが乱れた髪を直しながら、頬を赤らめる。


「いや、面白かったよ。良い映像が撮れたんじゃない?」

「うるさいなあ、もう!」


 リクトが俺の腕を軽く殴る。そんなリクトの等身大の少年のような仕草に、リクトとの距離が縮まった気がした。遊園地、すごく良い企画かもしれない。


 *


 夕暮れ時。遊び疲れた俺たちは、広場に集まり、ライトアップされた観覧車を見上げていた。マジックアワーの空が、紫色に染まっている。


「楽しかった」


 隣に並んだタクミが、呟いた。チュロスを片手に、彼は観覧車を見つめている。


「こんな風に友達と遊ぶこと、ないから」

「そっか。じゃあ、また一緒に来ようよ」


 俺の言葉に、タクミの返事はない。

 ややあって、俺は納得した。俺たちは友達じゃない。競い合うライバルだ。一緒にデビューできたら仲間になれる。でも、落ちたらそこで終わり。そんな関係の真っただ中にいるのだ。

 タクミがデビューを逃すことはないだろう。

 じゃあ、俺は?

 また一緒に遊園地へ来られるかどうかは、俺次第だ。


 帰りのバス。車内では疲れ果てた参加者が眠りにつき、行きとは打って変わって静まり返っていた。

 窓の外を流れる夜景を見つめる。

 ここにいる20人の中で、デビューできるのは数名だけ。隣で眠るこいつらを蹴落とさなければいけない。


 (残酷な世界だ)


 明日からはいよいよ最後の戦い――デビュー評価が始まる。

 俺は窓に映る自分の顔を睨みつけた。行くぞ、ルキ。最後の最後まで、あがき続けてやる。

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