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社畜スキルでアイドルに?~死んだ社畜おじ、サバイバルオーディションを生き残る~  作者: 無限大


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23/35

23 なぜ生き残ったのか

 興奮冷めやらぬまま、俺たちはステージを降りた。

 全5チームがそれぞれのステージを終え、観客投票による審査となる。観客は、ひとりあたり10点を投票できる仕組みだ。10点すべてをひとつのチームに入れても良いし、気に入ったチームに分配しても良い。

 得票数でチーム順位が決まり、1位のチームメンバーは、個人得点にベネフィットが加算される。


 控室に集められた俺たちは、固唾をのんで得点発表を見守った。

 やれることはやった。客席からの熱気も浴びた。俺たちPopcornだって、どこにも引けを取らなかったと思う。もしかしたら、もしかするかもしれない。

 期待を込めて手を握り締め、モニターに全神経を集中させる。


『1位:Guilty

 2位:Rock

 3位:Popcorn』


 バンッと順位が表示された。

 俺たちPopcornチームは、5チーム中、3位。

 最下位の予想を覆し、エリートチームを2つも抜いたのだから、快挙と言っていい。

 だが、俺たちの胸に残ったのは、鉛のような重みだった。


「勝てなかったか」


 KAGURAが唇を噛んだ。

 会場の熱気だけで言えば、もしかしたら、俺たちは1位だったかもしれない。だが、観客が投票するのは、デビューさせたいメンバーのいるチームだ。たったひとつ感動的なステージを作り上げたところで、固定ファンの積年の愛には勝てない。

 勝敗は、ステージの良し悪しだけじゃない。

 誰をデビューさせたいか。結局、それがアイドルオーディションの現実なのだ。


(むずかしい)


 最高のステージを作り上げた。みんな、感動してくれた。心を動かしてくれた。

 それでも、人気上位者には勝てない。

 じゃあ、どうしたら勝てるんだ? あれ以上、俺たちに何ができたと言うんだ。

 勝ち上がるほど、わからなくなる。もう、みんなデビューで良いんじゃないか。みんな、魅力的だったじゃないか。


「いや、上出来だろ」


 俺の思考をかき消すように、最年長のジンが言う。彼はどこか清々しい顔をしていた。


「あの掃き溜めから這い上がって、ここまで食らいついたんだ。……俺は、この順位を誇りに思うよ」


 その言葉に、最年少のソラが顔を上げる。誇り。そうかもしれない。俺たちは腐らなかった。与えられた環境の中で、精一杯、魅力を伝えられた。その積み重ねが一番大事だろう? 俺たちは互いの肩を叩き合い、健闘を称えあう。

 だが、その裏で、心の奥底では分かってもいた。

 この敗北が、数日後の順位発表式でどのような結果をもたらすのか。勝者のボーナスであるベネフィットを持たない俺たちには、過酷な運命が待っているのだ。


 そして訪れた第3回順位発表式。


 ファイナルステージへ進めるのは20名。練習生の半数近くが、今日で姿を消す。スタジオの空気は、これまでになく重かった。MCが順位を読み上げるたび、歓喜と嗚咽が交錯する。

 上位陣の牙城は崩れない。

 1位は、帝都タクミ。圧倒的な票数を獲得し、彼は玉座に座った。


「僕が見たい景色は、まだ先にあります」


 タクミの放ったその言葉に奢りはなく、ただ純粋な向上心が透けて見えた。表情、声、姿勢。すべてが本物の王者の風格だと感じる。1位になるべくしてなった男だ。

 そして、2位はリクトだった。


「タクミくんは高い壁ですね」


 爽やかに笑って言っていたけれど、その目は笑っていない。最終順位で1位を獲れば、デビュー曲でセンターをはれるのだ。バチバチに火花を散らすリクトを見て、彼らはもう、俺たちとは違う次元で戦っているのだと痛感する。


(俺たちなんて、脱落するかしないかの瀬戸際なのに)


 もっと高いところを目指さなくては。そのマインドこそが、デビュー資格のひとつだろう。ギュッと拳をにぎる。

 中位圏の発表では、波乱が起きた。


「第8位……大幅ランクアップです! JO!」


 会場がどよめく。

 前回までデビュー圏外だった破戒僧が、一桁順位に飛び込んだのだ。

 理由は明白だった。モニターに映し出されたのは、番組の未公開映像。落ち込むソラの背中をさすり、堅物の蓮司にアドバイスをし、暴れるKAGURAをなだめるJOの姿。そして、深夜のレッスン室で俺に向けた言葉。


『JOくん、もはや寮の聖母』

『人間性が神』

『彼がいるとグループが安定する。結婚したい』


 SNSでの反響は凄まじかった。

 女性ファンが評価したのは、ステージ上の輝きだけではない。その裏にある彼の達観した優しさと、揺るがない強さ。それがJOの人気を後押しした。人としての器の大きさが、多くの票を動かしたのだ。

 JOが檀上で、ひょうひょうとスピーチする。


「いやあ、徳は積むもんですねぇ。南無、南無」


 こんな一言にも彼の人間性が出る。

 Popcornチームで生存したのは、JOを筆頭に、陰キャ中二病美少年のシオンと、俺、西園寺ルキ。個性とビジュアルで、どうにか生存圏内に滑り込んだ。


(やった……けど)


 Popcornからの脱落者は、5名。

 最年長のジン。強面ラッパーのKAGURA。正確無比な蓮司。王子様のルイ。そして、最年少のソラ。あのステージを共に作り上げた、かけがえのない戦友達は、ここでオーディションの幕を下ろした。

 何が足りなかった? 考えてもわからない。俺と彼らの何が違ったのか、なぜ違う結末になったのか、何もわからない。

 それだけ、この結果は非情だった。

 収録後のスタジオで、別れを惜しむ。


「泣くなよ、ソラ」


 最年長のジンが、泣きじゃくるソラの頭を撫でる。

 自分だってつらいはずなのに、ジンは泣いていなかった。10年目のラストチャンス。それが断たれた今でも、彼の表情は穏やかだ。


「俺は、悔いはないよ。10年やってきて、一番楽しいステージだったからな」


 どこまでが本心かわからないけれど、ジンが力強く言う。

 そのまま、ジンは俺をぎゅっと抱きしめた。


「西園寺。俺が見られなかった景色、しっかり見てこい。お前なら行ける」


 俺は無言で頷き、抱きしめ返す。

 ジンの肩は震えていた。10年分の重みを、俺は受け止めなければいけない。それが、生き残った者の使命だから。


「チッ。辛気臭えな」


 KAGURAが、乱暴に俺の背中を小突いた。その目は赤くなっていたが、涙は見せなかった。

 その奥で、蓮司が眼鏡を外して目頭を押さえているのが見えた。JOが優しく蓮司の肩を抱いている。

 ルイは、シオンに抱きついて離れようとしなかった。ソラも隣で目に涙をためている。

 俺は涙を堪えるのに必死だった。彼らがいたから、あの最高のステージが生まれた。なのに、全員で先に進むことができない。これがサバイバルだと分かっていても、あまりに残酷すぎる。


 その夜。

 寮の部屋は、恐ろしいほど静まり返っていた。多くのベッドが空になり、荷物が運び出された痕だけが残っている。

 俺はベッドに座り、最後にみんなで撮った写真を見つめていた。


「……重いな」


 呟いた声が、空虚な部屋に響く。20名。数千という応募者の中から始まったこの戦いも、ついにここまで絞られた。

 目を閉じる。悲しんでいる暇はない。俺の背中には今、去っていったみんなの夢が乗っている。

 次はいよいよ、デビューメンバーが決まる最終決戦だ。


「行くぞ」


 俺は誰にともなく言葉にした。

 連れて行く。全員、あの頂の景色まで。それが、生き残った者のつとめだ。

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