14 今更ながら
激闘から数日。
俺、西園寺ルキは、寮の共有スペースのソファで、深刻な顔をして腕組みをしていた。
目の前にはFクラスで一緒だった孔明とハルカ、そしてなんだかんだ仲良くなった、元子役の綾人と元トップモデルのシュウがいる。
「なぁ、みんな。折り入って相談があるんだが」
俺の重々しい口調に、全員がピタリと動きを止めた。孔明がプロテインを飲む手を止め、怪訝な顔をする。
「なんだよ、改まって。まさか、怪我でも隠してたのか?」
「いや、違う。もっと根本的な問題だ」
俺は周囲を警戒するように見回してから、声を潜めて言った。
「俺たちってさ……その、具体的に何をしたら『勝ち』で、何をしたら『クビ』になるんだ?」
時が止まる。
孔明がプロテインを吹き出しそうになり、綾人が持っていたゲームのコントローラーを取り落とした。
「はあぁぁぁぁぁぁッ⁈」
全員の声がハモった。綾人がソファから身を乗り出し、俺の額に手を当てる。
「おい、熱でもあるのか? もう番組始まって一ヶ月だぞ⁈ 今まで何のために戦ってたんだよ!」
「いや、なんとなく『周りが踊ってるから踊らなきゃ』とか『謝らなきゃ』という生存本能だけでやってきててさ」
俺は正直に白状した。
転生直後からトラブル続きで、根本的なことすら理解していなかったのだ。
「お前、よくそれでここまで生き残ったな」
綾人が嘆き、シュウが呆れ果ててスマホを置く。
「ほんとルキ、そういうとこあるよねェ。いい? 僕が教えてあげるから、正座して聞いてね」
こうして、今更聞けないサバイバルオーディション講座が幕を開けたのだった。
*
【第1条:ここは監獄である】
「まず基本なんだけど」と、シュウが指を一本立てる。
「ここは全寮制。外部との連絡は一切禁止。スマホも没収……っていっても、こっそり持ちこんでるけどねェ。基本は、レッスンと収録漬けの毎日だよ」
「なるほど」
俺は頷き、手帳にメモを取った。
『・住み込み研修 ・通信機器の没収及び外部との遮断 ・24時間拘束の長時間労働』
「ブラック企業の新人研修合宿ってとこか」
「解釈に夢なさすぎだろ」
綾人がツッコむ。
外部遮断なんて、洗脳研修の常套手段だよなあ。まあ、俺は前世で慣れているから、問題ない。
【第2条:株主が全て】
「次に、勝敗の決め方だ」
孔明が真面目な顔で、説明を引き継いだ。
「トレーナーの評価も大事だが、最終的な決定権を持つのは視聴者の投票だ。毎日、ネットで投票が行われている」
「ふむふむ」
俺はメモを取る。
『・人事権は現場ではなく、株主にある ・毎日の株価変動に一喜一憂する ・人気投票によるポピュリズム経営』
「つまり、上司にゴマをするより、株主総会でのアピールが最優先事項ということだな?」
「ん? ……ん、んん? まあ、そう、か?」
孔明が渋々認める。
なるほど、だからリクトはあんなにカメラ映りを気にしていたのか。あれは投資家向けのIR活動だったわけだ。
【第3条:リストラの嵐】
「そして、ここからが大事」
シュウが声を低くする。
「定期的に、順位発表式があるでしょ? あそこで、規定の順位以下になった練習生は、即刻脱落。荷物をまとめて家に帰される」
「退職金は?」
「ないよ! あるわけないじゃん!」
俺は戦慄した。メモを持つ手が震える。
『・四半期ごとの業績評価による大量解雇 ・退職金なし、再就職支援なしの即日解雇 ・完全実力主義という名の使い捨て』
「なんてことだ。こんなの、労働基準監督署が黙っちゃいない、無法地帯じゃないか」
「だからサバイバルだっつってんだろ」
【第4条:目指せ、代表取締役】
「で、最終的にどうなるんだ?」
俺が聞くと、ハルカが目を輝かせて答えた。
「最後まで勝ち残った数名だけが、アイドルグループとしてデビューできるの! そして、その中の1位がセンターになれるんだよ!」
「ほう」
『・最終選考に残った数名のみが正規雇用 ・1位は代表取締役社長として全権を掌握 ・その他は、まあ役員待遇?』
「よし、理解した」
俺はバタンと手帳を閉じた。全員が「やっとか」という顔をする。
「要するに、ここは正規雇用の椅子を巡って、100人のインターン生がデスゲームを繰り広げる、超絶ブラックな採用試験会場ということだな」
「夢も希望もねえ言い方」
「でも事実だろ?」
俺はエアネクタイを締め直した。
現状を把握できて良かった。今までなんとなく参加していたが、これは俺が最も得意とするフィールドだ。
「ありがとう、みんな。おかげで目が覚めたよ」
俺は不敵に笑う。
「つまり俺たちは、芸能界に入社するために、己という商品をプレゼンし続けるしかないわけだ。……上等じゃないか」
「なんか、変なスイッチ入ったな」
「まあ、ルキくんがやる気になったならいいけど」
こうして俺は、番組開始一ヶ月にしてようやく、このデスゲームのルールを理解したのだった。
*
その夜。廊下ですれ違ったリクトに、俺は自信満々で声をかけた。
「リクトくん! 今日の株価はどうかな?」
「え? かぶ?」
「次回の定例会議までに、しっかりとIR資料を作っておかないとな!」
「ルキくん、疲れてる?」
リクトが本気で心配そうな目を俺に向ける。どうやら俺の意識が高すぎて、天才にも理解できなかったらしい。
よし、明日からは広報活動、もといファンサにも力を入れるぞ!
そう意気込む俺なのであった。




