表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜スキルでアイドルに?~死んだ社畜おじ、サバイバルオーディションを生き残る~  作者: 無限大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/35

13 神々のステージ

 俺たちのチームが残した熱狂は、凄まじいものだった。明らかに、俺たちのステージが観客の評価を一番得ていたと思う。

 ……次のチームが登場するまでは。


 暗転したステージ。

 世界から音が吸い出されたような、完全な静寂が訪れる。

 気温が急激に下がり、張り詰めた緊張感が肌を刺した。


 カツン、カツン、カツン……。


 硬質な足音が、暗闇の底から響く。闇の中から現れた5つの影。帝都タクミ率いる、通称アベンジャーズチームだ。

 照明が、彼らの輪郭を切り取る。

 観客から「わあっ」と声が上がりかけて、一瞬で引いていく。

 彼ら以外だれも音を立ててはいけないと、みんなが理解しているようだった。


 前奏が流れ始める前のポジショニング。

 チームの右翼を固めるのは、ダンスの申し子、桐生だ。桐生の銀のピアスにわずかな光が反射して、冷たく光る。

 左翼には、天使の歌声を持つケイト。ピンクブロンドの髪が、人工的な光を受けて輝いている。

 後衛には、重戦車のようなラッパー、ガク。そして、万人に愛される貴公子、ハルト。

 まだ何も始まっていないのに、ステージに存在するだけで空気の格が数段上がった。

 個々のスペックがあまりに高すぎる。Aクラスの上位ランカーが集結した、まさにドリームチーム。


 だが。

 それら4人の天才すらも従者に見えてしまうほどの、異質な存在が中央に立っていた。


 帝都タクミ。


 彼がゆっくりと顔を上げた瞬間、会場の時間が止まる。

 スポットライトが彼を射抜く。

 彫刻、という陳腐な言葉では足りない。神が「アイドル」という概念を具現化するため、天上の素材だけで練り上げた最高傑作のような造詣がそこにある。その瞳には、他者を屈服させるほどの絶対的な覇気が宿っていた。


 ドンッ……!


 荘厳なパイプオルガンの音色と共に、桐生が空を裂いた。

 速い。あまりにも速い。

 桐生のその身体つきは、余分な肉を極限まで削ぎ落としていて美しい。まるで日本刀のように鋭く、一挙手一投足が見る者の邪念を片っ端から切り裂いていた。斬撃。指先の残像すら計算された芸術的なムーヴが、空間を支配する。


「す、すごい」


 ステージの袖でアベンジャーズチームの表現を見ていた俺たちは、思わずため息をもらした。

 もちろん、桐生だけではない。

 ガクの重低音が床を震わせ、ハルトの笑顔が視線を奪う。ケイトの突き抜けるような高音が、会場の天井を突き破る。

 愛らしいベビーフェイスを持つケイト。だがその喉には、神が住んでいるのかと思うほど、凄まじい歌唱力を持っていた。ひとたび口を開けば、聴く者の魂を強制的に浄化させる天使の歌声。聖水のようなハイトーン・ボイス。Fクラスに居たハルカの歌声が悲痛な叫びなら、ケイトの歌は天からの祝福だ。有無を言わせぬ美しさで、聴衆をねじ伏せている。


「とんでもないな。やっぱ、アベンジャーズだ」


 誰かの言葉が、俺の胸に重石になってのしかかる。

 だが、真の絶望はサビに待っていた。


 ――スッ。


 帝都タクミが、ステージ中央へ歩み出る。

 ただ歩くだけ。それだけで、数千人の視線が、呼吸が、心臓の鼓動が、彼のリズムに支配された。

 タクミが前へ手をかざす。会場の空気が渦を巻いて、タクミの手に吸い込まれていくような錯覚。


 彼には、重力があった。

 帝都タクミという恒星が持つ、抗いがたい引力が、この会場を支配している。


 彼が歌い出した瞬間、世界は一瞬で彼の魅力に包まれてしまった。

 圧倒的な声量。完璧なピッチ。そして、見る者をひれ伏させるようなカリスマ性。

 歌詞の一言一句が、見ている者の脳に直接叩き込まれる。


『ひざまずけ。我こそがルール』


 タクミの瞳がモニターにドカンと写る。会場からは、悲鳴すら上がらなかった。

 全員がただ呆然と、その美しさに息を飲んだ。まるで、この世のすべてをすべる、絶対の神を目の前にしたかのように。


 パラララと、天使のラッパが鳴り響く。

 それに合わせて、神々が美しいステップを踏んだ。


 俺たちがあれほど泥臭く叫び、汗を撒き散らして作り上げた人間臭いドラマは、彼らの神々しい光によって跡形もなく上書きされてしまった。ベンチャー企業が社運を賭けて作った最高傑作が、巨大財閥の圧倒的なブランド力の前に霞んでいくような、どうしようもない格差。


 ――ジャンッ。


 曲が終わる。

 タクミがゆっくりと腕を下ろす。

 数秒の、完全な静寂。

 そして――。


 ウ、ウワアアァァァァ!


 地鳴りのような拍手と歓声が、会場を揺らした。


 *


 すべてのチームの発表が終わり、結果が発表される。

 ステージ上に全チームが整列し、俺たちのチームとアベンジャーズチームは、ともに最前列に並んだ。

 俺の隣に、帝都タクミが立つ。無意識に背筋が伸びた。


(綺麗な横顔だな)


 タクミからは、生き物の匂いがしない。あれだけ激しいステージの後だというのに、アベンジャーズチームをまとう空気は異様に澄んでいる。冷たく、硬く、美しい、ダイヤモンドの結晶みたいだ。


「それでは、得点を発表します」


 MCの声が響いて、ドラムロールが鳴る。

 心臓が痛い。リクトは涼しい顔をしているが、俺の手のひらは汗でびっしょりだ。

 会場の誰もが、固唾を飲んでモニターを見上げる。


 ――ドンッ!


 効果音とともに、全チームの数字が得点順に並んだ。恐る恐る文字を認識する。

 

 一番上、4528票。アベンジャーズチーム。

 その下、4490票。俺たちのチーム。


 会場がどよめいた。その差、わずか38票。数万人が投票して、たったの数十票差。

 神々の軍勢に対し、ビジュアルだけと言われた俺たちのチームが、喉元まで食らいついたのだ。

 会場の反応は複雑だった。

 喜ぶ声、惜しむ声、すすり泣く声。

 絶対王者相手に、ここまで肉薄した結果になるなんて。その事実が観客の心を動かし、勝者だけでなく俺たちにまで、賞賛の拍手が向けられている。


「……惜しかったね」


 隣で、リクトがポツリと言った。悔しさなんてなさそうな、ケロッとした顔をしている。


「でも、僕は負けたと思ってないよ。記憶に残る敗北は、勝利よりも価値があるからね」


 リクトの言葉に、背筋が寒くなる。

 絶対王者にあと一歩届かなかった悲劇のチーム。その事実さえ、以前リクトが言っていた勝利のストーリーの一節に見えた。


 帝都タクミが、マイクを握る。

 彼は隣にいる俺たちを一瞥もしなかった。いや、無視しているのではない。眼中にないのだ。ライオンが、足元の蟻を気にしないのと一緒。彼はただ、淡々と勝利者コメントを述べ、王座へと戻っていく。


(悔しい……)


 圧倒的な壁。

 俺は震える拳を握りしめた。


 届かなかった。

 でも、指先は触れた。

 あの神々の座に、俺たちの手形を残すことは、できたはずだ。

 大歓声の中、俺は眩しすぎるスポットライトを見上げ、深く息を吐いた。

 戦いはまだ、終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ