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Seventh Night -夜と眠りの調律店-  作者: 羊三月
第一夜 顔のない少女
1/6

プロローグ

わたしはカモメ。


地上を離れた声が、どこか遠くでそう名乗っていたように。

自由を夢見ながら、風に流れていく声のように。

夜空の上に響き渡っては、やがて落ちていく。


彼女たちの描いた軌道は私の生と重なり合い、その名を、いつのまにか、わたしも名乗るようになった。

眠りと目覚めのあいだを漂いながら、わたしは夜の海を渡っている。


眠りは、底のない海のようだった。

まぶたを閉じた瞬間、音も光も奪われ、どこまでも沈んでいく。


わたしにとって、眠りとは落下だった。


目を開けようとしても身体は動かず、呼吸の気配が遥か遠くで揺れている。

見えない誰かの視線が、全身を隙間なく覆い尽くす。

だから、わたしは眠ることを恐れた。


眠れない人は、夢の入口を見失った人。

眠るのが怖い人は、夢の底を知っている人。

わたしは、そんな人々のために夜を灯している。


「Seventh Night」――夜のための小さな店。

路地裏の奥、誰も気づかないような場所にある。


店内には、眠りを整えるものばかりが並んでいる。

アロマ、ハーブティー、キャンドル――わたしが選んだり作ったりするものは、誰かの夢とうつつのあいだに、そっと橋をかけるもの。


昼の光が苦手なわたしは、夜を生きている。

世界が静まり返るころ――眠れない人のために、店の明かりを灯し続ける。


眠れない理由は、人の数だけある。

誰かを失った人。

明日が怖い人。

忘れたい夢に縛られている人。


わたしは、そんな人たちの“夢の隙間”に入り、壊れた眠りをそっと修復する。

そして、誰かの眠りを治してあげることで、ようやくわたしは、わたし自身の眠りを過ごすことができる。


時計の針がゆっくりと午後九時を指す。

一日が終わる人と、これから始まる人が、ちょうどすれ違う時間。


わたしは静かに明かりを灯し、扉に小さく札をかけた。

金の文字が、月の光を受けて微かに光る。


「Open till dawn」


その夜もまた、ひとりの客がやってくる。

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― 新着の感想 ―
「眠りの調律」という独創的な設定が、まず目を引きます。冒頭から言葉選びが美しく、夜の街と調律店の独特で心地よい世界観に引き込まれました。物語への期待感が高まる、 素敵なプロローグでした。
プロローグ、無駄な派手さがなくて評価できる。 夜とか眠りとか、抽象ワードに逃げてるようで、ちゃんと構造が整理されてるのがわかる。 語りのテンションも一定でブレてないから、作者が何を“最初に提示したいか…
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