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第九話 待っています

 オアシスを中心にした小さな国。それが、貴方と私の国。


 私が命を終えたあと、民たちは少ない木を切り、船のかたちの棺をつくってくれました。

 この国では、死者を船に乗せて葬るのが習わしです。

 私は、貴方から贈られた青鷺の髪飾りを髪にさし、船に乗せられて、王家の墓所へと静かに送られました。


 けれど──

 魂はここに残りました。


 この国を、そして貴方を守ると約束したからです。

 私はまだ、貴方を待たねばなりません。


 魂となった私は、懸命に国を守ろうとしました。

 いくつかの砂嵐はなんとか鎮めることができましたが、やがてそれも叶わなくなりました。

 湖の水を増やすこともできず……私はただ、見つめることしかできない存在となっていきました。


 無力な自分が、悲しくてたまりません。


 オアシスの外れにある畑は、すでに水路すら見えぬほど砂に埋もれました。

 小麦も瓜も、棗椰子も、もはや僅かしか採れません。

 隊商も、もうこの地には訪れません。


 人もまた、去っていきます。

 豊かな土地へ、わずかな望みを胸に旅立つ人々。

 年老いた親を置いていく者もいます。それを望む親も、いました。


 私は何も責められません。

 生きるための選択を──誰が咎められましょうか。


 それでも、私は問うてしまうのです。

 どうして、こんなにも苦しまなければならなかったのかと。

 この国の人々が、いったい何をしたというのでしょうか、と。


 とうとう、湖の水が干上がりました。

 かつて澄んだ水を湛えていた湖は、今や泥沼のよう。

 魚も鳥も、獣も……人の骨すらも積み重なり、死がそこに満ちています。


 貴方がこれを見たら、どれほど嘆くでしょう。

 そう思うと、胸が裂けるようです。


 そして……最後の民が、逝きました。

 この国を深く愛した老人でした。

 私はその魂をそっと抱き、青鷺に託しました。

──天高く、風に乗って、空へと還るように。


 水が消え、人が消え、命が消え……

 やがて、音のない世界に、ただ砂だけが降り積もってゆきます。


 サラサラ……サラサラ……

 すべての夢の上に。すべての祈りの上に。

 それは容赦なく、無言の意志のように──降り注ぐのです。


 それでも。

 それでも、私は貴方を待っています。


 夕陽を見つめながら、待っています。


 いまはもう、傾いた塔の尖塔だけが、砂の海から顔を出しています。

 かつて美しく、豊かだった私たちの国は、すべて砂の下に沈みました。


 誰にも知られることなく、誰にも見つけられることなく──

 私と貴方の国は、深い深い、静かな眠りの中にあります。


 遥かな西へと、貴方は戦へ旅立ちました。

 「必ず帰る」と、そう約束してくれましたね。


 私は忘れてなどいません。


 だから、私は待っています。


 夕陽の向こうから、貴方が帰ってくるその日まで──

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