第四話 幸せと悲しい噂
オアシスを中心にした小さな国。それが、あなたと私の国。
あれから二年が過ぎました。それでも、あなたと私は変わらず仲睦まじく過ごしています。
隊商は少しずつ増えてきました。数年前の大きな地震の後、再び別の地震が起きたそうです。そのため、北の山沿いの道ではなく、この国を通る道が選ばれているのだと聞きました。
遠い異国の出来事とはいえ、人の不幸を喜ぶことなどできません。
でも、あなたの努力によって隊商がこの国を訪れ、街がにぎわい、国が潤うのはやはり嬉しいのです。私も、あなたに負けないように頑張ろうと思います。
それでも──私は、あなたとの子どもが欲しい。
二年経っても授かれないまま、季節だけが過ぎていきます。
あなたは、「子は神の気まぐれだ。もし授からなければ弟の子を……」と、優しく言ってくれます。
民も表立っては何も言いません。けれど、私は知っているのです。あなたも、民も、心の底では“その日”を待っていることを。
なぜなのでしょう。どうして私のもとにだけ来てくれないのでしょう。ひとりでいると、涙がこぼれてしまいます。でも、この涙を、あなたにも、誰にも、見せたくありません。
今日から大きな市が始まります。隊商が集い、色とりどりの品が並びます。あなたと私は手を取り合って、まるで布の海の中を泳ぐように、テントの間を歩きました。
そのとき耳にした噂が、ずっと胸に引っかかっています。
──北の山近くのオアシスで、水が減ってきている。
そう語った人は人波に消えて、詳しく聞くことはできませんでした。
あなたは別の噂に心を留めているようでした。西の大国が、間もなく大きな戦を始めるかもしれないと。
人の悪意は、自然の災いよりも恐ろしいと、私は思います。命は短く、こどもはとくに儚い。
私にもかつて妹や弟がいましたが、育ったのは妹一人だけでした。
その夜、私はまた熱を出してしまいました。あなたは私の隣に座りながら政務を進めていました。
「ナツメヤシの収穫は少し減ったが、瓜は豊作だ」──そんな声が聞こえてきますが、あなたの心は別の場所にあるのがわかります。
きっと、西の国のことですね。この国は、あの大国の属国なのですから……。
あなたのお祖母様と、小さな弟君が、いまも人質として囚われています。
税は、また上がるのでしょうか。
湖で冷やした瓜は、熱のある私の体を心地よく冷ましてくれました。あなたは嬉しそうに私を見つめて、私は恥ずかしくなって「見ないで」と笑って言いました。けれど、あなたはもっと笑って「できない」と答えてくれた。
だから、今度は私の方が、あなたをじっと見つめました。文書を読むあなたの眉間に寄った皺でさえ、愛おしいと感じるのです。じっと見ていたら、あなたに笑われてしまいました。
こんな穏やかな時間が、私は何よりも好きです。
本来、私の世話は侍女の務め。でもあなたは、冷たい布を額にのせるのも、瓜を用意するのも、できる限り自分でしてくれます。
瓜の剥き方なんて、私よりも上手なのです。だから、次にあなたが熱を出したら、私が必ず、瓜を剥きましょう。
──ある日、使者がやって来ました。西の大国からの使者が。悲しい知らせを携えて……。